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おっちゃんに誘われて来た居酒屋で、俺とおっちゃんは互いの進路の話をしていた。

現在就活中のおっちゃんの話はとても為になる。俺も今はまだ遊んでばっかだけど、そういう時期が来るのはあっという間だろう。

おっちゃんの話を聞いたり、俺の高校時代の話をしたり。

『黒瀬会長に目をつけられて真面目にするようになった』

そんな話をすると、おっちゃんは拓也ちゃんのことを知っていて、『あー、黒瀬なー。知ってる知ってる。』と、懐かしそうにしながら俺の話に相槌を入れる。


おっちゃんは酒を飲めない俺に合わせてくれているようで、チビチビと酒を飲んでいる。居酒屋のメニューはファミレスとかには無い料理がたくさんあって、俺にとっては物珍しくて美味しくて箸が進む。


そんな、有意義な時間を過ごしていた時、ふと近くの席から聞き間違えるはずもない、俺のよく知る声が聞こえてきた。


『一度航の魅力を知ってしまったらねえ!惚れないわけねーんすよ!!!』


「ん?友岡どうした?」


ジー、と声がした方を見る。

るいが居る。拓也ちゃんと一緒に。

これ絶対偶然じゃねえだろ。となんでるいがそこに居るのかを察していると、拓也ちゃんと目が合って、拓也ちゃんは『あちゃー』と言いたげに笑った。


「あれ?すごいな、もしかして黒瀬か?びっくりしたー。すごい偶然だな。」


おっちゃんもそこに拓也ちゃんが居ることに気付き、びっくりしながら立ち上がり、るいたちがいる方へ向かって行った。


「ゲッ。」


嫌そうな声を隠しもせずに出したるいの頭を、拓也ちゃんがペシッと叩く。


「謙さんお久しぶりです。」

「ほんとにな。うわ、びっくりしたー、丁度今友岡に黒瀬の話聞いたところなんだよ。…あれ?しかもそっち、もしかして矢田?」


拓也ちゃんと言葉を交わした後、チラッとるいに目を向けたおっちゃんは、るいのことも知っていたようでるいの名を口にした。


おっちゃんに呼びかけられたるいは、無愛想にぺこっと頭を下げた後、ジーとおっちゃんの顔を見つめている。


頬がちょっと赤い。こいつ酒飲んでやがる。


「…あ、この人知ってるわ。」

「矢田、分かってると思うけどお前の2つ先輩だからな?」


無愛想な態度のるいに、拓也ちゃんがボソッと小声で釘を刺してしている。


「ははっ、矢田とはあんまり関わりなかったよな。首席のすげーイケメンなやつ、って矢田が入学してきた時から俺は知ってたけど。うわー懐かしいなぁ。席合流する?」


おっちゃんは懐かしむように言いながら俺に顔を向けて聞いてきた。


「んー、どうしよっかなー。」


俺はわざと考えるようにそう言うと、おっちゃんに気を使わせたようで「あ、矢田と友岡は関わりなかった?」と申し訳なさそうにちょっと声を下げて聞いてくれる。

いいや?全然。関わりありまくり、なんなら付き合ってます。って感じだけど、俺は敢えて何も言わずに居ると、いきなりるいが俺の手首を掴んできて、るいが座っている席の方へ引っ張られてしまった。


そのままるいは俺の背中に抱きついてきて、頬を肩に乗せてくる。がっしりと腹にはるいの腕が回っており、そんな俺にくっつくるいを、おっちゃんはキョトンとした顔で見下ろしている。


「あ…謙さんすんません、こいつちょっと酔ってるみたいで。」

「あ、まじで?矢田って酔うとこんななる人なんだ?」

「ハハッ…、あ、良かったら俺の横どうぞ。」

「おう、俺ちょっと席移動するって店員さんに言ってくるわ。」


おっちゃんがそう言って席を離れた隙に、俺はるいの方へ振り返り、「こんなとこでなにやってんだよバカー。」とけっこう強めにペシンとるいの頭を叩いた。


「だって気になっちゃったんだもんー。」


るいはぶりっ子するように唇を尖らせて、上目遣いで俺を見た後、すりっと俺の肩に頬を擦り付けてきた。


「なあ、これ酔ってんの?それとも航相手にはいつもこんなもんなのか?」

「…んー。ちょっと酔ってるのはあると思う。」

「…じゃあまあ、謙さんには酔ってるっつーことで通すか。」


ぶっちゃけこいつ、まだそこまで酔ってない気がする。

家ではいつもこんなもんだけどさすがに外でやられると恥ずすぎるから、酔ってることにしておこう。


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