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「ははっ、矢田ずっと友岡にくっついてるなー。」


自分たちが飲み食いしていた食器を俺と矢田が座っていた席に移動させてきた謙さんは、航から手を離さない矢田を見て特に何も疑うことなく笑った。


「そういや2人は同じ学年だよな。仲良かったのか?」

「うん、こいつ俺のことめっちゃ好き。」


サラリとなんてことない風にそう答える航に、謙さんは「そうなんだ。」と楽しげに笑っている。まさか2人が付き合っているなんて、微塵も頭にないような反応だ。

つーか航、謙さんにもタメ口かよ。





「俺は航と謙さんが仲良かったとかびっくりですよ。」

「あー、なんか見ててほっとけなくてなー。学校で会うたび結構話す中になったよな。」

「うん。おっちゃんいっつもグミ持ってたから貰いに行ってた。」

「おい、今お前、おっちゃんっつったか。」

「あ、黒瀬からも言ってくれよー、こいつ俺のことずっとおっちゃんおっちゃんって親父扱いしてくるんだよ。」

「…まじすか。お前ほんと誰にでもそうだったんだな。」


拓也ちゃんはジトーとした目で俺を見て、ピン!と俺のおでこにデコピンしてきた。


「ん?黒瀬もおっちゃんって呼ばれた?」

「あ、いや、こいつまじで俺相手にクソ生意気だったんで。」


おっちゃんと拓也ちゃんは、そんな昔の俺の話で盛り上がり始めてしまった。聞いてて耳が痛すぎる。俺ってそんなに生意気だったんだ。


俺は居た堪れなくなって、目の前にあっただし巻き卵に目がいき、「貰っていい?」とるいに問いかけた。


「うん。食べさせてあげよっか。」

「いらね。」


まじで放っておくとあーんされそうなるいの手を叩き落として、俺は箸でだし巻き卵を挟んだ。


俺に手を叩き落とされたあと、るいは大人しくグラスに入った酒を飲んでいる。


「ははっ、矢田って結構砕けた感じの子だったんだな。クールなイメージあったんだけど。」

「…あー…ははっ…。」


るいを見て笑うおっちゃんに、拓也ちゃんが乾いた笑い方をする。何か突っ込みたそうにしているけど、拓也ちゃんは何も言わなかった。


その後は拓也ちゃんとおっちゃんで進路の話しとかで盛り上がり始め、時間はあっという間に過ぎて行った。


「あー謙さんと久しぶりに会えて良かったです。」

「うん、俺も。また飯行こっか。」

「そうですねぇ。」


すげえ話が弾んでたから、別れ際に2人でそう話しているおっちゃんと拓也ちゃん。

おっちゃんは純粋に優しくて良い人だから、俺とるいの方も見て、「友岡と矢田も。良かったらまた行こう。」と笑顔で声をかけてくれる。


るいはどう思ってるかわかんねえけど、静かに「はい。」と頷いている。

どうせるいは俺とおっちゃんが2人で飯行くことに心配になってたんだろうけど、おっちゃんが飯を誘ってくれたのは普通に久しぶりに会って、久しぶりに話したかったってだけだ。

最終的に4人でご飯食べることになったけど、そんなたわいない雰囲気をるいが読み取ってくれてたらいいんだけど。


「じゃあな〜、俺こっち。お前らは?」

「あ、俺もこっちです。」

「じゃあ黒瀬途中まで一緒に帰ろうか。」


当然、俺とるいは帰る場所が同じだから、2人に会釈した後るいと共に歩き始める。


「もー、お前今日バイトだったんじゃねえのー?」


俺はちょっと怒ったようにるいにそう言うと、るいは俺の手をがっしりと握って、「だから気になっちゃったんだってばー。」と開き直った態度でそう言って、チュ、と頬にキスをしてきた。


「人に見られんだろ、やめろ。」

「ふふ。」


アルコールが入ってるからか、ヘラヘラした笑みを浮かべるるいの顔をグイッと向こうへ押し返す。


俺とるいがそんなやり取りをしている時。


「……ん?…なあ、黒瀬…なんか、もしかしてと思ったんだけど、……あいつらって付き合ってる?」


拓也ちゃんと帰っていったと思っていたおっちゃんが、振り返って俺たちの様子を窺っていたことを、俺は知らない。


そして。


「あー…、まー。分かっちゃいますよねー見てたら。ハハッ。」


拓也ちゃんは呆れたように俺たちを見て笑っていた。


風紀委員長と航の再会 おわり

2021.03.02〜04.21
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