2 [ 107/163 ]

「なぁるい、北条謙信って知ってる?」

「ん?…北条謙信?上杉謙信じゃなくて?」

「北条謙信。」

「……北条時政?」

「だから謙信だって。」


スマホ画面を見つめながら聞かれた航からのその問いかけに、思いつく歴史上の人物を口にしたがどちらも否定された。

北条謙信……?誰だそれ。

航が名前間違ってんじゃねえの?と思いながら首を傾げると、続けて口を開く航。


「俺北条謙信に飯誘われた。」

「は!?いやだから誰だよそいつ!」


飯!?リアルに飯!?
歴史の話してんじゃねえのかよ!!


スマホ画面を見つめながら話す航に俺は咄嗟に航が持つスマホを奪い取り画面を見ると、まじで【 北条謙信 】という名前の奴とやり取りしている。


「……は?まじで誰…?」

「俺らが高1だった頃の風紀委員長。」

「………風紀委員長………?」


航のその言葉に、俺は高校時代のことを思い返す。

風紀委員長……

風紀委員長……………

そんな名前の人、居た?

…かもしんねえけど…

記憶が曖昧だ。

しかし何故航がそいつと知り合いなんだ?


そんな俺の疑問は、先に航が話をしてくれたことによってすぐに解決する。


『入学したての時に校舎で迷ってる時とか助けてもらったことあって、その時から風紀委員長が卒業するまで会ったらグミ貰ったりして仲良くしてたんだよ。』


俺が知らなかった航の過去の高校時代の話を聞き、ドロドロとした嫌な気持ちが身体中に流れた。


これは紛れもない嫉妬心だ。

てかお前…会長に目を付けられる前にすでに風紀委員長とも親しかったのかよ…。恐るべし元問題児。


「電車ん中で偶然会って声かけられたんだけど、その時はあんま時間なかったから喋れんかったしーって。」

「ふぅん、いつ飯行くの?」

「明後日。」


チッ。

俺バイトある日じゃねーか。

くそっ…高1の時の風紀委員長とやらが気になりすぎて顔見たらどんな人か分かるかも、と俺も同席してやろうかとか考えたけど、そもそもバイトの出勤日だったことに気付いて項垂れた。





「かぁ〜い〜ちょおぉおぉ〜!!!」

「うわっ矢田どしたどしたどした!!!」


学食で知人に囲まれ飯を食っていた時、いつもなら挨拶程度でさっさと通り過ぎていく矢田がスタスタとこっちに早歩きで向かってきた。


大学内でクールなイメージを持たれている矢田が何故か荒ぶっている様子に周囲からの注目を集めるが、矢田はそんなことお構いなしに俺の両肩をいきなり掴んでゆさゆさと揺さぶってくる。


「北条謙信って人知ってます!?!?」

「北条謙信??…ん〜、そういや聞いたことあるな。」

「俺が高1の時の風紀委員長らしいんすけど!!!」

「あああ!思い出した思い出した、ってちょ、揺さぶんなって!なんなんだよ!」


ガクガクガクと矢田に肩を揺さぶられ、周囲でそれを見ているやつらに笑われている。

一旦矢田を大人しくさせるために肩を掴まれている手を掴み返したら、矢田はムスッとした顔で口を閉じた。


どうしたんだろう?と不思議に思うものの、まあ多分航関連だろうな。恋は盲目、と言う文字が矢田を見ているとよく頭に浮かぶ。



「北条謙信って確か俺が謙さんって呼んでて委員会ん時とか仲良くしてもらってた人だわ。その人がどうした?」

「……航が今日その人と飯行くんすよ…。」

「は?航が?なんで謙さんと?」

「仲良かったらしいですう!!!!」


矢田はそう言いながらまたガクガクと俺の肩を揺さぶってきた。ちょっと落ちつけって!!!


いやしかし意外だな。航と謙さんが仲良かっただと?なんだその組み合わせは。謙さんっつったら真面目でしっかりしてて風紀からも生徒会からも慕われてて、間違ってもかつての航のような悪ガキと親しくするような感じの人じゃなかったはず…


「俺今日その2人の様子覗き見しに行こうと思うんで会長も付き合ってください。」

「は?お前今日シフト入ってなかった?」

「変わってもらいました。」

「…お前航のことになると行動力すげえよな。」

「元風紀委員長と航っすよ?気になりません?」

「まあ…それは確かに気になるな。」

「でしょ???決まりっす。」


まだ俺は返事すらしていないのに、いつもの矢田なら絶対にしてこないであろう肩組みを俺相手にしながら、グッと親指を立ててきた。


珍しい矢田の態度に、まあ付き合ってやるか。と俺はキリッとした矢田の横顔を見ながらクスッと笑った。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -