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「そんじゃ、最後のやつ戸締りよろしくな。おつかれー。」
宇野会長がそう言いながら生徒会室を出た後、僕と豪くんは2人で会長席の上に置かれた目安箱に駆け寄った。
「春川先輩まじ破天荒すぎ!パス3回まで詰まった奴負けってどういうことだよ!?」
「あの人のことだから絶対何か罰ゲーム用意されるよね!?」
「それな!とりあえずやばそうな紙は抜いとくか!?」
「そうだね、できる範囲で目通しとこ!!」
ガサガサ、と目安箱の中身を漁るが、恐らくこの目安箱は前回の生徒総会が終わってからずっと放置されている。さらに紙に書かれた内容は宇野会長と春川先輩への文句が多く、紙の量はかなりのものだった。
「【 生徒会室ヤリ部屋に使ってるってまじですか? 】…いやぁあ!もうなにこれ!!破棄破棄!!」
「それは破棄しなくて良くね?先輩たちに違いますってはっきり答えてもらおうぜ。」
「こんな質問生徒総会で全校生徒の前で読み上げる学校がどこにあるんだよ!!僕絶対やだよ!?」
「まあそれもそうだけど。」
こうして僕らは、豪くんとあれこれ話しながら、目安箱の中身をあらかた目を通したところで疲れて帰ることにした。
まだ全部ではないけどこれだけでも目を通さなかったよりは全然マシだと思う。僕は答えられる範囲で答えて、あとはなるようになるだろう、先輩に託そう。と豪くんと話しながら帰宅した。
*
月曜、月初めに行われる学校集会の後、僕は慣れない舞台の上に立ち、ドキドキでいっぱいだった。
先輩たちに待たされた目安箱を演説台の上に置き、宇野会長と春川先輩を中心に4人横一列に並ぶ。
僕は、大欠伸している春川先輩を横目にドキドキヒヤヒヤしながら、宇野会長が話し出すのを待った。
「そんじゃ、生徒総会始めるんで。」
中学の頃も生徒総会はあったけど、僕が知ってる中ではかつて無いくらい、緩い空気で生徒総会が始まった。宇野会長を見守っている教師たちも、なんとなく不安そうな表情で舞台上を眺めている。
豪くんは少し緊張した趣を感じるが、宇野会長も春川先輩も普段通りで、僕は肝が据わっている2人がちょっと羨ましい。
「えー、今から目安箱開封します。返事していくんで。異議ありの奴居たらその場で聞くんで手ぇ挙げてください。」
ざわざわ、と宇野会長の発言に少し辺りがざわついた。『今から開封?』『まだ中身見てねえのかよ』って笑われてる…。
ほら〜!言われてるよ、春川先輩!と言いたげな目を春川先輩に向けるが、春川先輩はウキウキしながら目安箱の中に1番に手を突っ込んだ。
「はーい俺から行きまーす!【 宇野会長は元ヤンですか? 】そうでーす。」
「ちげえわ!!!」
初っ端春川先輩により引かれた紙の内容に、宇野会長が全力で否定しながら続けて箱の中に手を突っ込んだ。
「次【 部室が臭いです 改装してほしい 】掃除しろ。あと消臭剤置け。無理なら諦めろ。」
あっそれ地味に僕が引きたかったやつだ…。
答えやすそうな紙を宇野会長に引かれて残念に思っている暇も無く、豪くんが紙を引いて答えているからその次は僕の番だ。
「次いきます。【 生徒会の力でテスト無くして 】無理です。」
きっぱり答えた豪くんに、生徒からの笑いに包まれた。僕はそんな空気の中、ドキドキしながら紙を引く。
「はい!次いきますっ【 生徒会室からアダルトビデオの音が廊下に漏れています。恥ずかしくないんですか? 】………パス!!!!!」
最悪だ……僕は初っ端からパスを使わざるを得なかった。これは一時期学内で噂されていた内容だ。こんなの僕にどう答えろって言うんだ、と春川先輩に視線を向けると、先輩は堂々とした態度でわざわざ演説台にセットされていたマイクを引き抜き手に持った。
「恥ずかしい?何故ですか?男子高校生たるもの性についてもっと積極的に学ぶべきだと僕は思います。いざ好きな人ができた時、あなたはセックスの仕方を知ってるんですか?誰が子供の作り方を教えてくれるんですか?親は教えてくれますか?コウノトリは運んできてくれませんよ?一度考え直してみませんか?アダルトビデオは別に恥ずかしいものではありま「ん゛ん゛ん。ゴホン。」…。」
舞台下から生徒会顧問の咳払いが聞こえてきて、春川先輩はそっと口を閉じた。
アダルトビデオについて熱弁した春川先輩に、一部の生徒から笑いが起こっている中、宇野会長が春川先輩からマイクを奪い取る。
「春 川 絢 斗 が生徒会室のテレビを私的に利用してしまいすんませんでした。もう見させないんで。」
最後は宇野会長がちゃんと頭を下げて謝っていた。
しっかり春川先輩に責任を押し付けている宇野会長に僕は拍手を送りたい。
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