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「お、矢田ぁー。今からバイトだろ?一緒に行こうぜー。」

「うっす。」


友人たちの輪から離れ、一人後輩に歩み寄る拓也は、親しげに声をかけながら後輩の肩に腕を回した。


「あ、るいくんだ。拓也くんってほんとるいくんと仲良いよねー。」

「同じバイト先でしょ?」

「高校の後輩だよね。すごい可愛がってるよねー。」

「まさかデキてたりしてー。」


何気なく口にした女の子の台詞に、その場の空気が凍りついた。

いやいやないでしょ。

…待って、ないない。

自分にそう言い聞かせる。

しかし、自分たちには見せない親しげな態度でるいに話しかける拓也の様子を見て、女の子たちは疑いの眼差しを向けるのだった。





「会長、女の子に名残惜しそうに見られてますよ。抜けてきて良かったんすか?」

「あー、いいんだよ。バイトって言ってあったし。」


突然背後から話しかけられ、肩を組まれたと思ったら、それは俺が高校時代からよく知る会長だった。


チラリと会長へ視線を向けた瞬間に視界に映り込んだのは、こちらを見ながらコソコソ話している女の子数人だ。

良かったのだろうか、女の子はまだ会長と話したかったのでは?…と思いつつ、まあバイト先に行かなければならないのはその通りで、俺と会長は大学を出てバイト先へと向かい始める。


「会長、誰か良い人居ないんすか?」


歩きながら、ふとそんな事が気になってしまって、口からポロッと零れ出るように会長に問いかけてしまった。

…あ、これはちょっと失礼だったかも…。

聞いてしまった後に無神経だったかと思い、暫し後悔。

が、会長は「ん?」と俺に視線を向けながら特に気にする様子は見せず、「…良い人なぁ…。」と呟いた。


考えるように俺から視線を逸らし、ちょっとだけ黙り込んだ会長は、数秒後にまた俺に視線を向けて口を開ける。


「…航が強烈だったからなぁ。」


そう言ってクスリと笑みを漏らした会長に、俺は返す言葉が思い浮かばず黙り込んだ。


「後にも先にも俺にクソとか言ってくんの航くらいだろうな。あいつ陰で絶対俺のことクソ会長とか言いまくってただろ。」


続けて会長は、笑い混じりにそんな話をしてきたから、俺も過去に航が言ってたことを思い出して、「あ…」と反応する。


「俺も言われてたみたいです。矢田クソ野郎って。」


航本人から言われたことを思い出して会長にそれを話すと、会長は「へ?…矢田クソ野郎?」と俺が言ったことを繰り返し口にした後、「ぶはっ!」と吹き出した。


「マジか!あいつ人のことクソクソ言い過ぎだな!」


盛大に笑う会長に、釣られてちょっと笑ってしまう。確かにあいつは日頃からクソクソ言い過ぎだ。


その後、「ハー…。」と笑いを抑えるように息を吐いた会長は、「まあ、そんな生意気な航があの頃すげえ可愛く思ってしまったんだよなぁ…。」としみじみしながら語った。


「ま、誰かさんに取られたけど。」

「…それ言われんの耳が痛いっす。」

「ハハハ、一生言ってやるよ。」


笑い混じりにそう話す会長だが、俺は全然笑えず苦笑した。


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