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「俺さぁ、正直恋愛とかちょろいと思ってたんだわ。」

「…まあ会長モテますもんね。」

「それはお前もだけどな。」

「…いや…。俺は全然…。」


会長と今まで話したこともなかった恋愛話に相槌を打つと、そんな返事を会長に返されて恐れ多い。


「小学校ん時は学年で1番可愛い子に告られたしー、中学ん時は美人美人って騒がれてた先輩と付き合ったしー、おまけに付き合ってる時もクラスで1番人気あった子に告られて先輩とその子喧嘩始めるしさー、俺とにかくモテモテだったわけ。」

「すげえ想像できます。」


てか大学でもこの人そんな感じじゃん。
いつも周囲は女の子だらけだ。

だから俺は、その中で誰か良い人居ないのか、って気になったんだ。


「そんな俺が、高校は真面目にやろうと思って男子校選んだのがまずかったよな。」

「……まずかったんですか?」

「ああ、まずかったね。共学校行って無難に可愛い子と恋愛してりゃ良かったよ。」

「……後悔してるんですか?」

「いいや?それはないな。」


なら、良かった。

後悔してる、なんて言われたら、俺はすげえ悲しい。俺は会長と知り合えただけで十分あの高校に行って良かったと思っている。


会長と話をしながら向かっていると、数十分かかるバイト先に到着するのはあっという間で、仕事着に着替えながらも、俺と会長の会話は続く。


「航には、女の子には無い可愛いさがあるからな。俺の恋愛観が完全に狂った。」


真面目にそんな話をする会長に、俺は「あー…なるほど。」と会長が言いたいことを理解した。


着替えを終え、バタンとロッカーの扉を閉める会長が、そこでニッと笑ってくる。


「お前が一番よく分かってんだろ?」

「…ま、まあ…。そうですね…。」

「ったく、どうしてくれんだよー。俺だってそろそろ恋がしてえのによおー。」


楽しげにそう話しながら更衣室を出る会長に、俺はなんとなく会長と距離を置いてから、更衣室を出た。


だって、会長は楽しそうに話してるけど、会長の気持ちは痛いほどよく分かるから。


もしも航が俺を選んでくれなかったら、俺は今どういう恋愛をしてるんだろうと考えてしまって、そんなことを考えている自分が会長に申し訳なくなってしまったから。


会長、どうか、良い人見つけて…。

と、生意気にも俺は強く強く思っている。


黒瀬拓也は恋がしたい おわり


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