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「プッ…!あははははは!!!!!りゅうちゃん大丈夫?インポになれとか!やば!あの先輩マジうける!!!」


有坂が俺をビンタして部屋を出ていったあと、ジンジンと痛む頬とあいつへの腹立たしさ、それらすべてを吹き飛ばすくらい豪快に腹抱えて笑っている倖多を、俺はジトリとした目で睨みあげた。


「おい!倖多笑いすぎだろ!!!ちょっとは慰めろよ!!!」

「だっ、だって!捨て台詞がインポになれって…!あはは!だめだ、ほんとに腹痛い!!」


倖多の無邪気に笑っているその姿は、先ほど有坂を相手にしている時と打って変わった砕けた態度で、こういう倖多のギャップが俺はたまらなく好きだ。

あまりに倖多が大爆笑してるから、もうなんかだんだんどうでもよくなってきて、こっちまで釣られて笑いそうになってくる。


「はぁ…。もう倖多最強だわ。よかった、倖多を恋人に選んで。」


ホッと息を吐きながら肩の力を抜いて胡座をかくと、その俺の隣で倖多がクスリと笑いながら腰を下ろして目線を合わせてきた。


「まあ、選ばれたからには俺は最善を尽くすのみ。」


そう言いながら、ビンタされてヒリヒリする頬に倖多はそっと手を当ててきた。ひんやりしてて少し気持ち良い。

それから顔の角度を変え、ゆっくりと近付いてきた倖多の唇。
ふにゃりと重なった唇の感触のあと、物凄い近距離で目が合った。その瞬間、ドキ、と心臓が音を立てた。

その目に引き寄せられるように咄嗟に倖多の身体に腕を回して抱き締める。

ああ、好きだなぁ。
もっともっと倖多と近付きたい。

一度唇を自分から離して、もう一度押し付けるように倖多の唇にキスをした。


もう誰がなんて言おうと、倖多は俺の恋人。
フリなんかじゃなくて、偽物でもないほんとの恋人。

好きだから倖多にキスしたいし、好きだから倖多を抱き締める。もう後ろめたいことはなくて、俺は自分の欲望を満たすために倖多に触れる。


「ぉわっ!ちょっ、りゅう…!」


ドサッと背中から床に倒れ込んでしまった倖多を御構い無しに、俺は倖多の身体に跨ってキスを続けた。


「やべえ、倖多にもっと触りたい…なぁ、ここでしちゃダメかな?」

「え、や…、それはちょっと待って…、っておい!」


倖多の着ているシャツの下から両手を突っ込み、倖多の腹を撫で回した。そのまま徐々に上へ向かう手は、倖多の胸元の突起に触れる。

親指で押して、次に摘んで、ピクリと身体を反応させる倖多に俺は、自分がどんどん興奮していることに気付く。


止められない俺の手は、次に倖多の下半身へ。

触れようとした時…


「はいはーい、ストーップ。」


これからだというタイミングで、思わぬ邪魔が入ってきた。

パンパン、と手を叩きながら部屋の中に現れた、副会長と会長だ。


「は!?なんすか!?なんでいるんだよ!出てってください!!」

「いやいや、なに学校でヤろうとしてんの?お前は発情期のわんちゃんか?」


そう言いながら歩み寄ってきた副会長に、首根っこを掴まれ倖多から引き離される。


「隆見てたぞ〜?お前バカなこと考えるよなぁ。」


副会長のあとに続いて、ニヤニヤしながら俺を見下ろしてくる会長。

は?見てた?見てたってなにを、いつからだ。


「ほんとにな。隆がここまでバカなやつだとは思わなかったよ。振り回されてる新見が可哀想。」


副会長はポイ、とゴミを投げるかのように俺から手を離し、次に倖多の手を掴んで倖多の身体を起こしている。


「新見、嫌なら嫌ってちゃんと言えよ?」


倖多にやたらと優しい態度で接している副会長にイラッとする。先輩だということも忘れて副会長を睨みつけていると、副会長は呆れた目を俺に向けてきた。


「そんな調子じゃすぐに新見に嫌われるかもな。」


続けてそう話す副会長が、同意を求めるように「な?」と語りかける。いやいや、倖多に余計なことを聞くな。


「ですね。りゅうって結構強引なとこあるし。」


倖多にそう言われてしまっては、俺は返す言葉も無く、うっ…とたじろいでしまった。


しかし、そんな俺を見ながら倖多はふっと笑みを向ける。


「まあ、そんなところも含めて好きになったんですけどね。」


そう言いながら向けられる優しげな目に、胸がキュンと締め付けられる。


ああもう、好き。まじで好き。


簡単なお仕事、なんて言いながらはじめた関係で、ここまで人を好きになるなんて思わなかった。


「倖多、まじでありがとう…、簡単なお仕事してくれて…。」


心の底から溢れ出た倖多へのそんな言葉に、倖多は「うん、」と頷いて、言った。


「まじで簡単だったよ。りゅうのこと好きになるの。」


そんなの、こっちのセリフだ。


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