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「新見…!何の用?今イイところだから邪魔しないで欲しいんだけど。」
僕は余裕ある態度で新見に話しかけた。
こいつに弱味は見せたくない。
憎き新見 倖多。こいつの顔は見るだけで腹立たしい。もう一発ぶん殴ってやりたい。
…と思っていた僕だけど、先に動いたのは新見だった。
顰めっ面な表情でまっすぐ隆くんを見つめながら、僕たちの近くまで歩み寄ってきた新見が、『ペシン!!!」と音を立てて隆くんの頬を引っ叩いたのだ。
僕がぶん殴ってやりたいと思った奴が、まさか隆くんを叩くなんて。
「なっ!!!ちょっと!信じらんない!!!隆くんになにすんの!?」
僕は慌てて隆くんを新見から守るように手を伸ばそうとしたが、それよりも先に新見は隆くんを僕から引き離すように隆くんの胸倉を掴んで自分の方へ引き寄せた。
「見てたぞ、りゅう。なにキスさせてんの?しかもどこ触らせてんの?フニャチン見せるって?バカだろ。ガチで触らせてなにやってんの??」
不機嫌そうな顔つきで、隆くんを睨みつけながら新見は隆くんを責めるように話しかける。
「え…、いや…、勃たない自信あったから…。え、ダメだった?てか倖多怒ってんの…?」
「怒ってるに決まってるだろ!!俺と付き合うんだったらどんな理由であれ俺以外の人とキスするのとかはダメだろ。」
「…あ、そっか…ごめん。」
「付き合ってるフリしてるのとはもう違うんだぞ?りゅうに俺と付き合ってる自覚はないのかよ。」
「…そうだよな…ごめん。俺の考えが足らなかった…。すげえ良いこと閃いたって思ってつい…」
「…いや、フニャチンがどうのこうの言ってる時点で俺が止めるべきだったな。りゅうがここまで無鉄砲なやつだと思わなかった。反省しろ。」
「…はい。ごめんなさい。」
いや、いやいや待って?僕を差し置いてなに痴話喧嘩みたいなことやってんの?この状況で?あり得ない!!
僕の存在を忘れないでいただきたい。
これからが本番っていうのに、新見 倖多、僕らの邪魔をして許されるとでも思ってるのか?
どうにかして僕は二人のやり取りに口を挟もうとするが、また先を越されるように新見が口を開く。
「てか恥ずかしいから早くコレしまって。」
「ぅあッ!」
え、待って???
僕は驚きで目玉が飛び出しそうになった。
ジロリと隆くんを睨みつけながら、新見がギュッと隆くんのアソコを掴んだ瞬間、隆くんは声を上げながらビクッと身体をビクつかせた。
「ちょっ!しまう!しまうから!」
「あれ〜?てかりゅうちゃん勃っちゃってません?勃たない自信ってなんなんだろうね。」
「まじ!しまう!しまうから離して!!」
「こんなの、触られたら反応するんだよ!もっと考えろよ!あのままりゅうは、先輩とセックスする気だったのかよ!!」
「しねえよ!だから勃たねえ自信があったんだって!!!」
そう、僕が驚いた理由は、新見に触られた瞬間に、隆くんは興奮した様子を見せたからだ。悔しい。なんなの、僕に見せつけているの?ひどい…。こんなの、ひどすぎるよ、隆くん…!
「…はぁ。まあ言い訳はあとで聞くとして。」
サバサバとした新見の態度。
隆くんとのやりとりが、親しい関係だと見せつけられているようで、僕は嫉妬でムカムカする。
「有坂先輩、りゅうがその気も無いのに行為を誘うようなことをしてすみませんでした。」
ここで新見の視線が僕に向けられ、僕は憎き相手から謝罪をされてしまった。
なんで僕がこいつから謝罪されなきゃならないんだ?とムカついて何か言い返してやろうとした瞬間、また僕が口を開く前に先を越されてしまう。
こいつはなかなか僕が話す間を与えてくれない。
「りゅうの“ 恋 人 と し て ”謝りますね。りゅうが俺以外とそういった行為をすることはあり得ませんので。」
やたらとその言葉を強調しながら言われた気がする。新見の僕を見る目が威嚇的だ。ムカつく、何様だ。意地でも張り合ってやりたい。
…と、そう思うのに、僕は口を開けてもなにも言葉が出てこなかった。
何故なら、新見の隣で隆くんが、口を押さえてニタニタと笑いながら新見の話を嬉しそうに聞いている。その顔が視界に入り、僕は絶望したからだ。
なんなの、その嬉しそうな顔。
隆くん、新見をそんな目で見ないで。
「なので、今後はりゅうを下心ある目で見るのはやめていただきたいです。りゅうがこういった行動を取ったのは、あなたにも原因があると思うので。」
続けて新見に、言いたいことをきっぱり言われてしまった僕は、むしゃくしゃして、ムカついて、聞きたくなくて両耳を塞いだ。
ああもうなんだよ!黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって!!!下心ある目で見るのはやめていただきたいだぁ!?何様のつもりだ!?彼氏様か!?と僕は苛立ちが爆発した。
「あああもううるさいうるさい!!!分かったよ!!!もういいよ!!!うっとおしいな!!そんな男、もう要らないよ!!!」
多分これは、逆ギレだ。
言い返す言葉を失った僕は、逆ギレするしか思いつかない。
「隆くんなんか!インポになってしまえ!!!」
僕は最後の最後にそう叫びながら、隆くんの頬を思いっきりビンタして部屋を飛び出した。
「痛ッッて!!!」
隆くんの痛がる声を聞きながら、僕は走る。
ああ、さようなら、僕の片想い。
…と、涙を流して悲劇のヒロインぶりながら、僕は行き止まりの教室まで走った。
そんな僕の姿を、何故かそこにいた松村と刈谷が哀れむような目で見ているではないか。何故お前たちがそこに居る。
少し不思議に思いながら、僕は何事もなかったかのように涙を引っ込ませ、Uターンして近くの階段を降りた。
あーあ、一人冷静になって考えてみると、新見 倖多…やっぱりムカつく。
けれど一番ムカつくのは、あいつに恋人役というニセの恋人関係をさせておきながら、まんまと新見に惚れていた隆くんだ。
デレデレしやがって!『男は無理』とか過去に言っておきながら、結局自分も顔が良い男には惚れるのかよ!!!
先程の新見の隣で嬉しそうにニタニタ笑う隆くんの顔が超絶に僕をイラつかせている。
あれはビンタして正解だった。
なんだか厄を払えた気がする。
僕という人間に好かれておきながら、僕に見向きもしなかったあの男を厄扱いすることで、僕は心の平穏を取り戻せたのだった。
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