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「ふんふふふふふ〜ん、んふふふ〜。」
まるでワルツを踊り出しそうなほど盛大な鼻歌交じりの男子生徒、有坂は、寮の自室へ帰宅するなり洗面所にある鏡前で自分の顔を眺め、髪をいじり、浮かれた様子を見せていた。
「やっぱり僕って結構可愛いよね。新見倖多にも劣らないでしょ。」
有坂がそんなひとり言を漏らしたその時、ただトイレに行きたかっただけの有坂の同室者が自室から出てきたところで、ギョッとした表情でトイレには行かずに廊下で立ち止まる。
…有坂、すごい自信だな。と思いながら、有坂のクラスメイトであり同室者でもある不運な生徒は、有坂には関わるまい、と結局トイレには行かずに部屋に戻り、閉じこもった。
「隆くんからのメール嬉しいなぁ。松村から隆くんのアドレスちゃんと聞いといてよかった。隆くんったらすぐアドレス変えちゃうから隆くんのアドレス把握できてない時あるんだよねぇ。」
『聞いといてよかった』…というか、正確には秀の携帯を“盗み見た”のだが、有坂の脳内では“盗み見た”ことを“聞いておいた”という言葉に変換している。
何故アドレスがすぐにバレるのだ、と不思議に思っている隆だが、実は間抜けな秀の隙を見て、いとも容易くアドレスが盗まれているのであった。
さて、数分間自分の顔面を眺め満足した有坂は、自室に戻り、常備しているローションをベッドの下から取り出す。
「僕はいつでも隆くんに抱いてもらえるように、ちゃぁんと準備してるんだからね。」
有坂は得意げにそんな独り言を口にしながらパンツを脱ぎ、ローションで指を濡らして、そっとお尻に手を伸ばす。
そして、クチュ、クチュッと自身のお尻の穴に触れ、指を入れる。
有坂がこの行為を行うようになったのは、隆を好きになってから。
「あっあっ!きもちぃ!隆くんきもちぃっ!」
指でいいところを突きながら、有坂は声も気にせず盛大に喘ぐ。
「絶対、僕の方がっ!
新見より隆くんを、満足させてあげられる!」
自室の床で四つん這いになり、約数十分間有坂は、隆に抱かれる妄想をしながら、自慰行為を楽しんだ。
その頃、有坂の同室者は…
隣の部屋から聞こえてくる有坂の喘ぎ声に、『勘弁してくれ!』と心の中で叫びながら、イヤホンを耳につけて大音量で音楽を流した。
もしかしたら、有坂の存在に一番困っているのは、隆では無くこの、同室者の男子生徒かもしれない。
*
「よっしゃあ!!!俺はやってやるぜ。」
一体何を考えているのか。
翌日のりゅうは、朝からものすごい気合いが入っている。
「…何をやるって?」
「有坂を絶望させてやる。」
「手荒な真似はダメだぞ?」
「それは分かってる。…でもその前に、
…倖多にお願いがあるんだけど…。」
「ん…?なに?」
威勢がいいと思いきや、何故かいきなり恥ずかしそうに小声になるりゅうに首を傾げる。
そして、耳元でコソッと言われたりゅうからのお願い。
その内容で、俺はりゅうが何を企んでいるのかを、なんとなくだけど察してしまった。
有坂先輩と隆が約束したのは昼休み。
俺と隆はその前の授業をサボり、二人で自習室に来ていた。
人気の少ない、校舎の端の方に位置する自習室。この部屋をりゅうが選んだのは、人気が少ないからだろう。
りゅうは薄暗く静かな部屋の中、床に腰を下ろし、壁に凭れる。
俺は床に膝をつき、りゅうの肩に手を置くと、りゅうは俺の身体に腕を回し、俺の身体を抱き込んだ。
そして互いに唇を寄せ、キスをする。
角度を変えて、何度もキスをしているうちに、りゅうは興奮しているように息を少し荒げて、俺の口内に舌を入れて絡めてくる。
「ンっ…ぁ…。」
激しいキスで、俺の呼吸も荒くなる。
目を開けて、りゅうの表情を伺うと、目が合ってりゅうはフッと笑った。
「…やっぱ倖多サイコー。めっちゃ興奮してきた…。」
りゅうはそう言いながら、俺のシャツのボタンを2、3個外して、首筋、それから鎖骨、と順に舌を這わせてきた。
「…ハァ、やばい、倖多の肌超綺麗。」
「…え、ちょ、恥ずかしいんだけど。」
ペロ、と舐めて、指でスーッと撫でられ、それから、チュッと鎖骨にキスされる。
「あー…やばい、俺このまま倖多を抱きたい…。」
「んー…。それは我慢してほしいかな…。」
残念ながらその願いは今は叶えてあげられないけれど、とりあえずできる範囲で、りゅうの願いは叶えてあげる。
カチャッとりゅうのベルトを外し、ズボンのファスナーを下げた。すると、パンツ越しに勃起しているりゅうのモノが目に映る。
そっとパンツの上から触れると、そこはすでにガチガチだった。
期待感たっぷりのりゅうの目が、俺を見つめる。
『有坂に会う前に、一回倖多に抜いてほしい。』
それが、りゅうの、俺へのお願いだったのだ。
パンツの中から勃起したそれを取り出して、直に触れると、りゅうは色っぽい目つきでハッと小さく息を吐く。
りゅうのここに触れるのは2回目だけど、どういう風にすれば気持ち良くなるのかは、同性だからこそよく分かる。
片手で握り込み、上下に動かすと、りゅうの口から小さく「きもちぃ…」と呟かれた。
良かった。りゅうが気持ちよさそうで。
気持ち良さそうなりゅうを見て、不思議と俺まで気分が高揚してきた。
同性の、こんなところを、口に触れたことは無い。
けれどきっとそうされると、気持ち良いだろうと分かっているから、俺は無意識にりゅうのソコに、口を寄せて舐めていた。
「…あっ…!やべっ!!」
まだ全然咥えてもいないのに、先っぽを少し舐めただけで、ドッと溢れ出た精液。
「…え、まじ?りゅうちゃん早くない?」
クスッと思わず笑ってしまうと、りゅうの顔面は恥ずかしそうに真っ赤に染まった。
「倖多がまさか舐めてくれるなんて思ってねえから!!興奮したら出ちゃったんだよ!!!」
そう言いながら、ズボンのポケットからティッシュを取り出し、俺の手や口をティッシュで拭ってくれる。
「でもこれでもうばっちり。あいつの前では無気力な俺のフニャチン見せてやるんだ。」
「…キリッとした顔で言ってんなよ…恥ずかしいな…。」
りゅうが考えてることなんて、こんなことだろうと思ってた…。
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