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「ふぅ、ごちそうさまでした。」


カルボナーラを綺麗に完食し、食後にプリンを味わいながら優雅なひと時を過ごしていた有坂のスマホが、『ピコン!』とメッセージ受信を知らせる。


スプーン片手に反対側の手でテーブルに置いていたスマホを手に取った有坂は、受信したばかりのメッセージに目を通した時、『カラン!』と音を立ててスプーンを手から滑り落としてしまった。

しかし落っことしたスプーンなどどうでもよく、次第に眉間には深い皺を寄せながら有坂はスマホ画面を見つめる。

そして、プルプルとスマホを持つ手が震えた。


【 宿舎食堂にて。瀬戸先輩、新見くんに大胆告白してました。瀬戸先輩の片想いっぽいです。】


現地から瀬戸 隆親衛隊のライングループに送られてきた文章だった。しかもご丁寧に現場の様子の写メ付きである。


「なっ…うそっ、…片想い…?」


【 付き合ってるふりがバレたからって今度は片想いのふりしてるだけじゃない? 】

【 大胆告白ってそれもなんかの作戦では? 】

【 いや、全然そんな雰囲気ではないです。 】


そんな雰囲気ではない!?
じゃあ一体どんな雰囲気なんだよ!?

トントンと返信コメントが流れてくる画面上の流れに合わせて、有坂は疑問をそのままスマホで打ち込み、トークルームに送信する。


【 切羽詰まってる、っていうか、瀬戸先輩必死っていうか。あと副会長に「新見に迫りすぎ、良い加減にしろ」って先輩怒られてました。】


付き合ってるのがふりだと分かり、有頂天だった有坂のテンションは再び急降下だ。

隆くんの片想い?なんで?どうして?

僕がこんなに隆くんのことを好きなのに、どうして僕には振り向いてもらえない?どうしていきなりぽっと現れたやつのことを好きになるんだ?

有坂の胸の中で、自身の報われない気持ちが次第にどんどん憎しみに変わってゆく。


スプーンを拾って、八つ当たりするようにプリンにぐちゃっとスプーンを突き刺す。

ぐちゃっ、ぐちゃっ、と何度も突き刺す。


「…新見倖多、まじ死んでほしい…。」


現在遠く離れた土地で、隆にありったけの好意を向けられている倖多へ、憎悪はどんどん増していき、八つ当たりの餌食となったプリンは見るも無惨な姿だ。


「あの人瀬戸くんの親衛隊隊長だろ?瀬戸くんやべえのに好かれちまったなぁ。」

「うんうん。ちょっと頭イかれてる。」


気が狂ったようにプリンをぐちゃぐちゃにしている有坂を目にした周囲で食事していた生徒は、目が合わないようにサッと視線を逸らす。


なんとかしてあの二人を引き離したい。

そうしなければ気が済まない。

なにか良い考えは無いものか。と、有坂は自室に籠って考えることにし、完食したカルボナーラの皿だけ持ち、ふらりと席から立ち上がった。


「…おいおい、プリンの皿も片してから帰れよ。」


その場に居た誰かが呟く。


ポツンと寂しくテーブルに放置されたぐちゃぐちゃのプリンへ、周囲の生徒から憐れみの視線が注がれたのだった。





びっくりした…
すごい勢いで告られた…てか、


「うぐっ…りゅう苦しい…。」


あまりに力一杯抱きしめられ、息ができない。

ジタバタもがいていると、頭上からペシンと頭を叩かれた音がした。


「隆うるさいよ。てか新見苦しんでるだろ。お前新見に迫りすぎなんだよ。良い加減にしろ。」

「だって!俺まじ好きなんすもん!!!」

「分かったから。うるさいんだってば。」


ペシンと頭を二発叩かれながら副会長に怒られたりゅうが、やんわり力を緩めて俺を解放する。しかしまだりゅうの手は俺の背に添えられており、距離が近い。


「お前な、馬鹿の一つ覚えみたいに好き好き言ったって相手がなんとも思ってなかったら報われないんだからな?」


副会長から諭すようにそう言われたりゅうは、ハの字に眉を下げ、縋るように俺を見つめてくる。

…いやいや、待って、そんな目で俺を見つめないで。俺がもし拒否ったらどうすんの?りゅうちゃん泣くなよ?


1つ歳上の先輩なのにおかしいな。
なんだかこの人がとても可愛く見えてくる。
寄り添ってあげたくなってくる。

この気持ちを、恋情と言っていいのだろうか。

今まで同性を好きになったことは一度もない。

だからこの気持ちをなんて呼べるのかはわからない。

でも、りゅうがそれでもいいなら…


俺たち恋人同士になってみようか。


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