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瀬戸 隆親衛隊ライングループのトーク画面に、新情報が舞い込んできた。その情報が原因なのかは不明だが、一人、二人、と親衛隊の数が減っている。
「へぇ?新見倖多と付き合ってるふりしてたのは男除け目的だったんだぁ。そんなの僕がやってあげたのに。」
親衛隊の数が減ろうが増えようが別にどうでもいい。でも僕は、例え最後の一人になったとしても、ずっと隆くんの味方でいるからね。
そうして隆くんは、僕という存在の有り難みに気付くのだ。
あぁ…、はじめから有坂先輩に頼っておけばよかった…!と隆くんは学園に戻ってきた時、まず最初に僕の手を取るのである。
ああ、隆くん早く帰ってきて。
隆くんが男除けとして利用していた新見倖多の代わりとして、この僕が新しい恋人になるよ……
………と、3年Sクラス、有坂の妄想は膨らむばかりであるが、残念ながら現実はそう甘くは無い。
時刻は午後6時過ぎ。有坂が妄想を膨らませながら夕食のカルボナーラを味わっている頃、同じく隆も宿舎の食堂にて、宿泊学習2日目の夕食の時間を送っていた。
「はい、りゅうおぼん。」
「おう、サンキュー。」
あれから二人は、ずっと一緒に過ごしていた。
周りに何を言われようと、ありのままの二人で過ごしていた。
隆が持つおぼんの上に、倖多は当たり前のようにお皿とお箸を置く。
周囲の生徒は、彼らの“付き合っているふりをしていた”という事実を知った上で改めて彼らのことを見てみても、相変わらず仲良く過ごしている彼らを見て困惑した。
「付き合ってるふりしてた時と何が違うのかいまいちわからん。」
お皿に生姜焼きをどっさりと乗っけた祥哉の視線が二人に向けられる。
「…それより祥哉先輩、生姜焼き取り過ぎじゃないですか?」
「それより新見はもっと肉を食った方が良い。俺の生姜焼き1枚分けてやろうか?」
「お気遣いありがとうございます…、じゃあ1枚だけ…。」
ぺらっと箸で生姜焼きの肉を掴んだ祥哉は、倖多の皿の上に乗っける。
いつもとそう変わりない生徒会役員メンバーのやり取りに一番困惑しているのは、二人に対してどういう態度を取ったら良いかわからない杉谷だった。
嘘をつかれていた、騙されていた、そんな相手に怒るのは普通で、許す許さないは僕次第…
だけど多分、僕が許さなかったところでこの人たちにとったら屁でもない。自分の存在のちっぽけさが少し悲しい…。
何も話さずに夕食を食べていた杉谷に、倖多がチラリと目を向ける。
あれから杉谷くんと全然話してないなぁ…と、実は倖多は杉谷のことが気になっていた。
「杉谷ももっと肉食った方が良いぞ。」
「…あ、ありがとうございます…。」
杉谷の皿にも生姜焼きを放り込んだ祥哉に、暗い杉谷の返事が返ってきた。
「元気ねえな。こいつらに怒ってんの?」
祥哉から本人たちの前でストレートに問いかけられ、返事に困る杉谷は、無言で俯いた。
その後、徐に口を開いた杉谷の声に、倖多たちは黙って耳を傾ける。
「…どういう態度取ったらいいか、わかんないだけです…。嘘つかれてたのは残念に思います。でも僕が二人を許さなかったところで、僕はその他大勢とそう変わりない扱いを受けるだけですよね…。さっき新見くん…、他人の気持ちとかどうでもいいって言ってたし…。」
杉谷の話を聞いた倖多は、しまった…というような表情を見せながら、口を手で押さえた。
大浴場からの帰り道に出待ちしていた生徒に言った台詞である。
「あれは、俺に同調してくれただけで、倖多は杉谷に対してそんなこと思ってねえよ。」
すぐに隆が弁解するが、杉谷には隆の弁解など必要無かった。
「…そうかもしれませんけど。でも結局はみんな、他人の気持ちなんてどうでもいいんですよ。」
杉谷はそこまで話した後、ゆっくり顔を上げ、倖多たちに目を向ける。
「僕は、自分が二人に騙されてたっていうことが残念だけど、でもただそれだけで、正直瀬戸先輩が新見くんを偽物の恋人として置いた理由とか、気持ちとか、どうでもいいんですよね。…結局は僕も、自分のことしか頭に無いんですよ…。」
自分の気持ちを話しながら、杉谷は思った。
「…でも、新見くんはそんな中、瀬戸先輩に同調してあげられるんだ…。
…新見くんは、すごいなぁ…。ちゃんと瀬戸先輩の恋人みたいだ。」
杉谷のその言葉に、倖多は驚いたように少し目を見開きながら、微笑んだ。
「りゅうが俺を必要としてくれるから。
りゅうに同調できるのは、俺にとっては自然なことだよ。」
倖多の微笑と、その言葉に、隆は居ても立っても居られず倖多の頭をギュッと胸元に引き寄せた。
そして、食堂内で周りに迷惑だとも考えず、隆は叫ぶ。
「倖多ぁぁあああ!!!!!
好きすぎる!ほんと好き!!!
俺と付き合ってくれぇええ!!!!!」
まさに大公開の告白大会である。
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