42 [ 43/57 ]

宿舎に戻ってから風呂の時間までの自由時間、俺たち生徒会役員は会長と副会長の部屋に集められた。


「隆、怒らないからみんなに正直なこと話して。俺ら嘘つかれたままじゃ隆と新見とこのまま接していくのはできないから。」


6人で輪になって畳の上に座ったところで、副会長がりゅうに問いかける。


「…俺が倖多に入学式の日、恋人のふりしてって頼みました。」


りゅうは不機嫌そうに胡座をかいて、俯きながらボソッと真実を口にする。


「なんで?」

「…男除け目的で。」

「俺らにまで嘘つくことなくない?」

「…秘密にしとかないとやりにくいかと思って。」

「ふーん。」


副会長は秘密にされていたことが不満そうだ。

まあそりゃそうだ。

ここで、ずっと黙っていた会長がかなり不満そうに口を挟む。


「…正直俺は結構ショックだ。俺は隆に信頼されてなかったんだな。」

「…いや…そういうのじゃないっすよ。」

「俺に頼むとか、してほしかった…。」

「そんなの初対面の人の方が頼みやすいっすもん。」

「俺は、どんなことでも隆の助けになってやりたかったのに…。」

「…すんません。」


ばつが悪そうな表情のりゅうが会長に謝罪したのを最後に、会長は黙り込んでしまった。


「新見は?なんで断わんなかったの?お金貰ったから?」


重苦しい沈黙の中、今度は副会長が俺に問いかける。


「お金貰ってませんよ。りゅうが俺のためにもなるって言ってくれたから。それに、2人の時は友達みたいに接してくれて良いって言ってくれたのが嬉しくて。…みなさんを騙すようなことをしたのは…すみません。」

「ふぅん、なるほどね。まあ、許す許さないはあとにして、2人が本当に付き合ってないって分かったところで1つ気になることがあるんだけど。」


気になること?なんだろう。

話の続きを待っていると、副会長の視線が俺からりゅうへと移った。


「昨日隆、ガチで新見に迫ってなかった?」


この副会長の一言に、りゅうの不機嫌そうだった態度は一変し、りゅうの顔には苦笑いが浮かんだ。

そしてチラリと俺の方を見て、次第にその苦笑いは、へらりとした笑みに変わる。


「こら、真面目に聞いてんのになに笑いで誤魔化してんだ。」


ペシンと副会長に頭を叩かれ、りゅうの表情は半笑いだ。


そして気付けば祥哉先輩も、一人ニヤニヤしながらりゅうを見ている。


「新見のこと好きなんだよなぁ〜?りゅ〜うく〜ん?」


からかうような口調の祥哉先輩が口を挟み、りゅうは照れたように少し頬を赤くして祥哉先輩を睨みつけた。


「あれ、なんだそれなら納得。恋人のふりとか言っといてちゃっかり新見に惚れちゃってるんじゃん。」


からかう気はなさそうだけど、副会長のその言葉にもりゅうはさらに頬を赤くした。


…おいおい、そんな顔を見せられると俺まで恥ずかしくなってくるんだけど。


「そうですよ!悪いですか!?もういいでしょ!?騙してすみませんでした!はい、もうこの話終わりでいいっすよね!!!」

「こらこら勝手に終わらすな。」

「結局は俺の片想いっつーことですよ!そう広めといてください!」


真っ赤な顔でそう叫び、話を終わらせたりゅうに、みんな最後は困ったように笑っていた。



「ったく、まんまと騙されたよな。ほんといい度胸してる。もう勝手に付き合っとけ。」

「…あはは。」


笑えないけど、笑うしかない。

怒ってる感じではないけど、副会長にネチネチと言われながらその後生徒会役員全員で大浴場に向かった。


「秀もさぁ、こんな男もう吹っ切りな。正直趣味悪いって。」

「おう、もう今日で吹っ切れた。」

「人を騙した分隆もちょっとは苦しめばいいよ。」

「だな。隆苦しめ苦しめ。」

「…俺ボロカス言われとる…。」


脱衣所で服を脱ぎながら、俺たちに聞こえるように話している副会長と会長の声に、りゅうは居心地悪そうにしながら服を脱ぎ始めた。


「…まあ、隆が苦しむ時は俺も一緒だから。」


2人で付き合ってるって嘘ついてたわけだから、批難される時は当然俺も一緒なわけで。そういう意味でりゅうにそう言えば、りゅうはシャツとズボンを脱いだ半裸状態で俺のことをジッと見つめてきた。

…え、なに、こっち見ないでほしい。

俺もシャツを脱ごうとしていた途中だから、なんとなく見られていたら脱ぎにくい。


「隆ー、こんなところで新見襲うなよー。」


そしてそんなタイミングで浴室へ入ろうとしていた副会長が振り返り、俺たちの方を見てそんなことを言ってきた。

副会長は冗談で言ってるんだろうけど、言われたりゅうはギクッとした反応を見せ、その顔面はちょっとだけ赤くなっている。


みんなはすでに浴室へ入っていった後で、脱衣所に残ったのは俺とりゅうだけになった。


…なんか、ちょっと気まずいんだけど。

男同士のクセにシャツ1枚脱ぐのも躊躇してしまう。


「…あの、あんまこっち見ないでほしいんだけど…」


このままじゃいつまで経っても服を脱げない、と思い、りゅうにそう言った瞬間、りゅうは俺からサッと視線を逸らした。


けれどすぐさまハッとした表情を浮かべて、また俺に視線を向けてくる。何事かと思っていたら、りゅうは俺に一歩近づいた。


「もしや俺のこと意識してる!?」

「は!?」


いや、意識って、そりゃするだろ。
てか近い!近い!
ジリジリと迫ってきたりゅうに俺は一歩後ずさる。


「俺の身体見てさ、こう、ドキッ、とかムラッ、とか、」

「なに言ってんの!?てかあっち行けって!!」


ドキッ、とかムラッ、ってそれりゅうだろ!って口から出そうになってグッと言葉を飲み込んだ。
危ない、自意識過剰なことを口走ってしまうところだった。

りゅうと距離を取るためにりゅうの肩を押し返すが、りゅうの素肌に触れていることに何故かすげえ恥じらいが込み上げてきて、ハッとしながら素早く手を離す。


しかしりゅうは、そんな俺の行動さえも自分に都合良く捉えたようで、また一歩俺に近付き、ゆったりとした動作で俺の身体に腕を回してきた。


「ちょっ…!なに…っ、恥ずかしい!」


りゅうの素肌が密着する。
普通に相手が誰であれ、こんなことをされたら恥ずかしいに決まってる。ドキドキ、と心臓が激しく音を立てている。

…でも違う、この心臓は、俺のじゃなくてりゅうの音だ。


「めっちゃドキドキ言ってるし…。」

「…もーまじさぁ、倖多俺と付き合お?」

「えぇっ」

「だって1回は倖多と恋人ぶってたのに好きになってから恋人ぶれないのとか俺まじ無理…」

「…うーん…。」


…まあ、それもそうか。

恋人のフリしてる時がお互い自然体すぎて、なんか、感覚がおかしくなってきたな。
高校に入学してからはりゅうと一緒に居るのが当たり前になってたし、これからも一緒に居るのが普通だと思ってる。


「…じゃあ、付き合う…?」


…って、俺が意を決して言った言葉は、突然浴室の扉がガラッと開いた音でかき消されてしまった。


「お前らなにやってんだ、早く風呂入れ…よ、…って、…こらー!!!隆新見襲うなっつってんだろ!!!」

「えっ!うわっ!襲ってませんて!!!」


どうやらなかなか浴室へ現れない俺たちの様子を伺いに来たらしい副会長だが、副会長が丁度目にしたのは、半裸の隆が俺の身体を抱きしめていたところだった。


「ったく、さっさとパンツ脱いで風呂入れ!」

「ちょっ!自分で脱ぎますから!うわぁ!待って副会長っ!!!」


副会長にグイッと強引にパンツを脱がされたりゅうは、ズルズルと副会長に引き摺られながら浴室へ連れて行かれた。


「ふふっ、…おもしろ。」


俺はそんな可哀想なりゅうの姿に、脱衣所で一人、クスリと笑った。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -