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2日目の予定はキャンプ場での飯盒炊爨だ。

数十分のバス移動を経て、これまた今日も自然豊かなところへやってきた。


生徒会役員6人で1つの飯盒と調理場を借りて準備をすることになり、会長や副会長の近くで準備ができることとなった生徒たちはかなり嬉しそうだ。


今朝はまじで爆発していた会長の頭も今はきちんと整えられており、会長へ向けられる憧憬の眼差しになんだかホッとする。


「なに秀のこと見て笑ってんの?」

「あ、いや、会長の髪綺麗にセットされてるなぁと思って。あの爆発を直せるなんて副会長さすがですね。」

「まあ俺にかかればあんなの余裕だから。てことで、はい。新見早く米炊いてきて。」

「あ、はい。」


『てことで』ってなんだ。
全然話繋がってないですけど。

副会長に飯盒を渡された俺は、米をとぐために水道場へ向かった。

米と水を飯盒にセットして再び戻ると、生徒会役員の5人が何もせずにぼけっと突っ立っている。


「…は?なにしてるんですか、早く他の準備やってくださいよ。」


米を炊くと同時にカレーを作ることになっている。役割を分担してやらないとあんたら昼飯食えねえぞ。と思いながら口を開くと、呆れた言葉が返ってきた。


「俺包丁苦手だから誰かよろしく。」

「俺そもそも料理とかしたことねえし。」

「てか飯盒炊爨ってなにすんの?」

「去年もやったやつじゃん?飯盒で炊爨。」

「あ、新見くんごめん、僕も料理はできなくて…。」


そうだ、忘れてた…この人たち金持ち学校のお坊ちゃん…、特に会長や副会長なんて、多分筋金入りのお坊ちゃんだ…。

…てか去年の飯盒炊爨は一体どうやって乗り越えたんだ。そんな疑問を抱きつつ、俺はげんなりしながらとりあえず祥哉先輩に薪を渡した。


「じゃあ祥哉先輩は火おこし担当で。」


次に杉谷くんに飯盒を手渡す。


「杉谷くんは米係。火は祥哉先輩に調節してもらって。」


俺はカレーの準備を、とまな板と包丁を持ち、りゅうに野菜を持たせて調理台へ。


「会長と副会長は……

1年生とたくさん交流してあげてください。」


うん、そうだ。この二人にはきっとそれが一番良い役割だ。この広いキャンプ場で、ご飯が出来上がるまでそのへんをうろついててもらおう。


「お、新見わかってるねぇ。じゃあ頼んだよ後輩たち。」

「お前ら美味しいご飯作るんだぞ〜。」


会長と副会長はそう言ってヒラヒラと手を振りながらその場を離れた。…なんか腹立つけどまあいいや、これぞ下級生の定めだ。


「さて、じゃありゅうは俺と一緒にカレー作りな?」

「イエッサー。」





「いい子だよなぁ、新見。」

「あれ?生徒会に入れるの嫌がってたの誰だっけ?」


1年生たちが飯盒炊爨に四苦八苦している光景を眺めながら、秀がぽつりと呟いた。

料理なんて趣味でもない限りやったことすらない生徒たちばかりの中、てきぱきと動く新見はさすがだと褒めてやるべきだ。

口には出さないが、新見の魅力は誰しもが感じていることだろう。


「…あれは、だって、ほら。…俺もあんまり新見のこと知らなかったし。」

「隆あの時かなり怒ってたよな。倖多いい子です!っつって。」


今ならあの時怒っていた隆の気持ちがよく分かるだろう。秀は思い返すように頷き、苦笑した。


「悔しいけど完敗だわ。くっそー、隆のやついつの間にあんな子捕まえたんだか。」

「それなんだよねぇ。ほんと、まじでいつの間に?」


俺たちの知らないうちに可愛い可愛い彼氏を作っていた後輩の話は、俺と秀の間でしばらく続いた。





倖多たちが飯盒炊爨を行なっていた頃…


学園内で密かに出回っている、学園裏サイトがあった。新着で1件書き込まれた内容に、お金につられた閲覧者が反応する。


【 怪しいカップル 新見 倖多と瀬戸 隆について、何か知ってる情報あったらプリーズ!内容によっては報酬額増やしま〜す! 】


二人を引き裂くための有力情報がなにか来ないか、と待ち望むこの書き込みをした張本人、有坂は、授業中にも関わらずスマホを握りしめ、教師に見えないように机で隠したスマホ画面をジッと眺める。


くだらない情報は要らない。


【 今日新見くんの首筋にキスマークついてました〜 】…って、そんなことを聞いてるんじゃない。


どうやら飯盒炊爨真っ只中の1年生にも掲示板の閲覧者がいるようだ。


異常なほどの隆への執着心を持つ有坂は、隆の居ない学園内でもなんとか二人を引き裂く手立てを考える。


杉谷は役立たずだ。
恐らく着信拒否された。ムカつく。
あんな非力なやつに頼んだ僕がバカだった。

そのイラつき、怒りの矢先は全て倖多へ。

あいつさえ来なければ。

親衛隊として、彼の学園生活を見守る。

有坂はたったそれだけだが日々を楽しく過ごしていたのに。


【 実は入学式の日、変な会話を聞いたのが耳から離れないんです。 】


……ん?


書き込みが無いか更新ボタンを押した時、有坂の目に気になる一文が飛び込んだ。


【 変な会話?なにそれ、詳しく教えて。 】


有坂はフリーメールアドレスを掲示板に貼り付け、返信を待った。


数分後に送られてきたメールの内容に、有坂は込み上げてきそうになる笑いを必死で堪える。


そのメールの内容のおかげで、謎が全て解けたようなものだった。


【 入学式の受付の人が、僕の前に居た新入生に言ったんです。

『お。よしキタ。決定、キミがいい。なあキミ、ちょっと簡単なお仕事してみない?』

小声だったのではっきりとは聞こえなかったんですけど、そんなことを言ってました。

そして僕は見てしまいました。

新入生のポケットに小さく畳んだお札みたいなものを入れていたのを。

今思うと、あの先輩は間違い無く瀬戸先輩で、新入生は背丈てきにも新見くんだったんじゃないかっていう疑いが僕の中で拭えません。

これがもし間違いなかったら、あの二人はあの時が初対面です。 恋人関係なんてものは全て嘘で、演技です。 】



「……そういうことだったんだぁ。二人とも変な演技しちゃってバカみたい。」


【 良い情報をありがとう。報酬額はいくらがいい? 】

【 お金なんて要らないので、僕はあんな周囲を騙すようなニセモノの関係を終わらせてほしいです。真実を知った状態であんな関係を見せられているのはひどく不愉快なのです。よろしくお願いします。 】


あらまぁ、残念だったね隆くん。

真面目な子に取引現場を見られていたみたいだよ?

きっと、二人のことを見兼ねて僕に教えてくれたんだ。

よしよし、分かった。

ちゃんと僕が責任を持って、この教えてくれたの子のために終わらせてあげるよ。


楽しくて仕方ないこの状況に、僕はにっこりとほくそ笑んだ。


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