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「隆ー、杉谷ー、起きてるかぁー?」
祥哉先輩がトントンと部屋の扉をノックすると、すぐに扉を開けてくれたのは杉谷くんだった。
「おー、杉谷か。おはよう。」
「おはようございます!」
「うわ、隆まだ寝てんじゃん。」
部屋の中を覗き込んだ祥哉先輩の後ろから俺も覗き込むと、布団に包まった隆の姿があった。
「新見、ゴー。」
「えっ…」
ゴー、って、なにすれば…?
「早く起きないと襲っちゃうぞ!っつってな?」
「は!?言いませんよそんなの!」
なに言ってるんだこの先輩は、と呆れながらりゅうが眠っている側まで歩み寄り、トントン、と布団の上からりゅうを軽く叩く。
「りゅう朝だぞー、起きろー。」
普通に声をかけると、うっすらりゅうの目が開いた。
「…ん〜。」
しかし枕の端を握り、寝返りを打ったりゅうが俺に背を向ける。
「おい、朝だってば。」
もう一度トントン、と布団の上から叩くと、再び目を開けたりゅうがチラリと振り向いてきた。
「…ん?こぉた?」
「うん、俺。祥哉先輩と先に食堂行くからな。」
「…えっ、…俺も行く!」
「じゃあ早く起きて5分で支度して。」
俺のその言葉に、りゅうは慌てて起き上がり、洗面所へ駆け込んだ。
「祥哉先輩、りゅうも一緒に行くって。」
「了解。俺先行って席取ってるわー。」
「あっじゃあ僕も先行きます!」
祥哉先輩と杉谷くんが先に部屋を出て、バタン、と扉が閉まり、りゅうと二人きりになってしまった。
ジャーと水が流れる音が聞こえ、洗面所を覗くとりゅうが顔を洗っている。
静かにりゅうの隣に並び、鏡に映った自分を眺めた。
「あーあ、消えてないな。これ。」
その俺の声で俺がりゅうの隣に立っていたことに気付き、りゅうは驚いて顔を上げた。
顔面ビショビショで、ポタポタと床に水が垂れている。
「俺の気持ち無視してこういうことしちゃうのはちょっとどうかと思うんだけど?」
怒ってます、って感じで俺がそう言うと、りゅうは目線を下げ、ボソッと小声で「ごめん。」と謝った。
「あんなの恥ずかしいからもうやめろよ?これからはりゅうから俺に触るの禁止。」
「え…。」
俺の発言に一瞬不満そうな表情を浮かべたりゅうの水で濡れた顔を、近くにあったタオルで雑に拭いてやった。
「さ、じゃあ早く食堂行こ。」
早くも食堂は生徒たちで賑わっており、若干出遅れた感がある。
夕食と同じくバイキング形式の朝食で、入り口にあったおぼんを2枚手に取り、りゅうに1枚差し出した。
おぼんの次に、お皿とお箸。
順にりゅうのおぼんの上に乗っけていると、周囲の生徒に「あの二人仲良いなぁ。」という言葉を向けられる。
俺が聞こえているという事は当然りゅうにも聞こえているだろう。
チラリとりゅうの表情を伺うと、りゅうはちょっと嬉しそうに口元を緩ませていた。
俺がりゅうを見ていたことに気付くと、りゅうはハッとして緩んだ口元を引き締める。
…なんだかなぁ。
見てて俺が照れ臭い。
俺たちが付き合っているフリをしているなんて、微塵も疑われていないのだろう。人を騙しているというのに、当初は抱いていた罪悪感もだんだん薄れてきてしまった。
俺は、満更でもないのかもしれない。
りゅうとキスするのだって別に不快感は無いし、首に付けられたキスマークだって、嫌、とかそんな気持ちを抱いたのではなく、ただただ恥ずかしかったというだけ。
かと言って、あれより先のことをされていたら、俺は間違いなく抵抗していただろうけど。
りゅうに触られることが嫌では無い時点で、ある程度りゅうのことを受け入れていることには違いない。
「…ねえ、見て、新見くんの首筋。」
「…わぉ…、昨夜はお楽しみだったんだね。」
お皿にサラダを取っていた俺のすぐそばに居た生徒に、チラチラと視線を向けられている。
聞こえてしまったひそひそ声に、俺は思わずトングで掴んでいたサラダをバサッとお皿の外に落としてしまった。
「…あ。」
おぼんの上に散らばったサラダに呆然としていると、横からりゅうの手が伸びてくる。そして、俺のおぼんに落としたサラダを手掴みで自分のお皿に入れるりゅう。
「…ごめん、俺の所為だから。」
キスマークで変な想像をされたことに対してか。
りゅうは頬を少し赤く染めながら謝ってきた。
ちゃっかり顔赤くしてるあたり、りゅうも満更でも無さそうだ。
「…ううん、じゃあ、それで許す。」
落っことしてしまったサラダは、ありがたくりゅうに食べてもらおう。
再びトングでサラダを取り、その後並んだ数々の品をお皿に盛って、先に朝食を食べていた祥哉先輩と杉谷くんの座るテーブルへ向かった。
「おー来た来た。先に食ってるぞー。」
「お先です。」
朝からすごい量の白ご飯が盛られていた祥哉先輩の目の前にある茶碗にはつっこまず、俺は空いていた杉谷くんの隣の空席に腰掛け、りゅうは祥哉先輩の隣に腰掛けた。
「あ、てか俺が送ってやったやつ見た?」
「は?なにそれ?」
「なんだ、見てねえのかよ。せっかくかっわいー新見の寝顔写真送ってやったのに。」
…祥哉先輩、余計なことを。
ここへ来て早々に目の前で行われてしまった会話に、俺はジロリと祥哉先輩を睨み付けた。
そんな俺に気付いた祥哉先輩はにかっと笑い、りゅうはすぐさまポケットに入れていたスマホを取り出す。
ジッとスマホ画面を見つめたりゅうは、何回か画面をタップしてからすぐにスマホをポケットにしまった。
「保存した。」
「やめろ!消してくれ!」
って言ってもどうせ消してはくれないんだろ…。
仕返しに今晩は祥哉先輩のいびきの音を録音してやろうか。…と思ったけど祥哉先輩はいびき録音されたからと言って別に嫌がらなさそうだからやめだ。
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