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なん…っだ今の…!

やたらと心臓がドキドキ動いてて、暫く呼吸や心臓を落ち着かせることに必死で、畳の上で寝っ転がったまま動けなかった。


りゅうと入れ違いに部屋に入ってきた祥哉先輩が、唖然としながら玄関先で転がっている俺を見下ろしてくる。


「…うわー、なんか気まず。副会長に良いところで邪魔されたんだ?」


…邪魔?…された?

…いや、寧ろ俺からすれば副会長の登場はナイスタイミングと言うべきなのだが…

頭が若干混乱している。


数秒後に祥哉先輩の荷物を持って再び現れた副会長が、「ふぅ。」と息を吐きながら俺を見下ろす。


「首筋、キスマークついてるし。」

「えっ!?」


副会長の一言に、俺は慌てて身体を起こし、洗面所へ走った。

一ヶ所、俺の首に赤い斑点がついている。

見るだけで恥ずかしい自分の首筋に付いたそれを消すように指で掻いた。

でも、掻けば掻くほど赤くなる。消えないそれに、鏡に映る自分の顔も赤くなっていることに気付いた。


…まあ、いいや。別に首にキスマーク付いてるって気付かれたってりゅうに付けられたんだと思われるだけだし…。

諦めて洗面所を出ると、無言で俺に視線を向けてくる祥哉先輩と副会長。


「てか鍵くらいかけとけよな。見てるこっちが恥ずかしいわ。」

「…すみません、気を付けます。」

「じゃ、新見も今日はもう大人しくしとけよ。」

「…俺いつも大人しいんですけど。」

「口答えすんな。」

「…すみません。」


なんか俺、今日謝ってばっかりなんだけど。

今更もう遅いけど、副会長が部屋を出て行ったあと、ガチャ、と部屋の鍵をかけた。


「…はぁ。」


思わず漏れたため息。


「ドンマイドンマイ、また明日があるさ。」


俺を励ますようにそう言ってくれる祥哉先輩だけど、それはどういう意味で言ってんだろ。


まだ1日目が終わっただけの宿泊学習。俺は明日に備えよう。と、早めに就寝することにした。



朝、早起きな祥哉先輩が、まだ6時前だというのにシャカシャカと歯を磨いている音で目が覚めた。


「はっや。祥哉先輩早起きですね。」

「おー、おはよう新見。よく眠れたか?」

「…全然。」

「俺のいびきうるさかっただろー、悪いなぁ!」

「…や、まあ。…そうですね。」


正直うるさかった。祥哉先輩のいびき。

否定しなかった俺に、祥哉先輩は明るくケラケラ笑っている。

朝から元気だなぁ。
いつも朝練とかしてるからかな。


目は覚めたもののやっぱりまだ眠たくて、目を瞑ると再び眠りに落ちそうになる。


「新見かっわいい寝顔だなぁ。」


しかし聞こえてきた祥哉先輩の声に、またパチリと目を開けた。


「隆に見せてやろー。ってあいついっつも見てるか。」

「……もしかして写真撮りました?」

「おう、ばっちりな。」

「消してくださいね。」

「え〜やだぁ。」

「やだぁ。…じゃありません!」

「おっと手が滑って隆に送信しちゃったぜ。」

「こんな早朝になにをやってくれるんですかぁ!祥哉先輩!!!!!」


こんな早朝に、というのは俺にも言えることで、思わず祥哉先輩に怒鳴りつけたしまった瞬間、隣の部屋から『ドン!』と壁が殴られる音がした。


「ヒッ…!」


こっちの部屋は、

………副会長の部屋だ。


祥哉先輩に寝顔写真を撮られ、その写真をりゅうに送信され、副会長に壁ドンをされる…

そんな、宿泊学習2日目の朝。

俺の気分は最悪だが天気は良好だ。
部屋のカーテンを開けると差し込んでくる朝日が眩しい。

俺たち生徒は9時に宿舎の外に集合となっているからそれまでに朝食を済ませないといけないわけだけど、まあ早起きの俺と祥哉先輩には余裕で、食堂が混む前にさっさと朝ご飯を食べてしまおうと祥哉先輩と話し、7時半過ぎに俺と祥哉先輩は部屋を出た。


「隆と杉谷に声掛けて行くか?」

「あー、はい。…その前に会長と副会長にも一応声掛けてから行きます。勝手に行ってなんか言われるのも嫌ですし…」

「おー、了解。」


お風呂へ勝手に行った時に小言を言われて学習した俺は、一応食堂へ行く前に副会長に言っておこうと部屋をノックした。

すると、まるで爆発に巻き込まれたかのようなボンバーヘアーな会長が歯磨きをしながら部屋の扉を開けてくれる。


「わっ…会長すごい頭。」

「なにお前ら、もう準備できてんの?」

「あ、はい。俺と祥哉先輩今から食堂行こうと思うんですけど先に行ってても良いですか?」

「おう、行けば?俺悠馬に寝癖直してもらってからじゃねえと出れねえから。」

「……そうですね、会長すごい頭です。」


……って自分で直せよ。あんた高3だろ。


まさかの会長の発言に思わずツッコミが口から出そうになって危なかった。

それじゃあ失礼します、とさっさと扉を閉めて立ち去りたかったが、部屋の奥からヘアーウォーターとヘアーブラシ、ヘアーアイロンまで持った副会長がこっちへ向かってくる。


「…あ、副会長おはようございます。これから俺と祥哉先輩お先に食堂行きますね。」

「あぁうん。てか新見、昨日大人しくしとけっつったとこじゃん。朝っぱらからなんなの?大声出してうるさかったんだけど。」

「…あれは…すみませんでした。」


さっそく副会長に怒られたがまあこんなの想定内だ。

謝ってから、それじゃあ失礼します。とドアノブに手をかける。


「はい、じゃあ秀ー、こっちに座って。」


扉を閉める前にチラリと副会長に視線を向けると、副会長は優しい態度で会長の髪にヘアーウォーターをシャッシャとかけている。


「…ほんとにやってもらってる。」

「ん?どした?」

「副会長が会長の寝癖直してあげてました。」

「あぁ、いつも直してあげてるらしいぞ。会長の寝癖が酷いって副会長が愚痴ってるのよく聞くしな。」

「…ああ、あれは確かに酷かったです。」


思い出したら笑いそうになった。

あれ直すのは大変だな、副会長…

まあ好きでやってあげてそうだけど。


「次隆と杉谷の部屋覗いてくか。」

「そうですね。」



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