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「選択肢は3つだな。」


なにも答えられず黙ったままだった俺に、倖多は俺の顔の前で指を3本立てながら言ってきた。


「…3つ?」

「1つはこのまま何事もなく恋人関係を続ける。

2つ目は、恋人関係はここで終わらせて俺らは普通の生徒会の先輩と後輩になる。今ならまだ引き返せると思うぞ。りょうおっぱい好きだもんな。」

「…え、あ、まあ、そりゃあ…。」


ってこんな時になにを言わせるんだ!

……いや、今だから言わせてんのか。


「…そうか。倖多はおっぱいねえもんな。」

「そうだよ。ぺったんこだよ。揉めねえよ。」


真面目な顔して言うことか。

しかし俺は倖多の人柄に惹かれたのだ。今おっぱいは関係ない。それにぺちゃぱいでも可愛い子はいっぱい居る。
そう、つまり人を好きになるのにおっぱいなんて関係ない。例え俺が、Cカップくらいのおっぱいが好きだとしてもだ。


「…いいよ。別におっぱい無くても。別のところ揉むから。」

「へ?別のところって?」

「……お尻とか。」


倖多が聞くから答えたのに、答えた瞬間何故か倖多に少し距離を取られた。


「なんで離れるんだよ。」

「なんとなく。」

「聞いてきたのは倖多だからな?」

「なあ、もうエロい話すんのやめよ?」

「いやいや、先におっぱいとか言ってきたのは倖多だからな?」


つーか完全に話が逸れたな。
結構大事な話をしてたと思うんだけど。

会話の内容を軌道修正するべきか。

と少し冷静になって考えていたところで、隣からクスクスと笑い声が聞こえてきた。勿論、倖多の笑い声だ。

は?笑うところあったか?
何笑ってんだ?と疑問に思っていると、倖多は「はぁ…。」とひとつ息を吐いて口を開く。


「やっぱ、りゅうと居るのは気楽で良いや。」


穏やかな表情を浮かべながら話す倖多に、俺はほっと胸を撫で下ろした。俺も同じだ。倖多と居るのは気楽で良い。倖多と同じ気持ちなのが、嬉しい。


「…さっきの話に戻るけどさ、俺は1つ目が良いな。俺のわがままに付き合わせて悪いんだけど。今は普通に、倖多と一緒に高校生活過ごしていたい。」


自分本位で申し訳ないけど、始まったばかりの倖多との関係を、俺はまだまだ続けていたい。


正直な自分の気持ちを伝えたところで、倖多の顔色を伺う。


倖多は「んー。」と考えるように声を漏らした。
そして、数秒後に俺と目を合わせ、口を開く。


「3つ目の選択肢まだ言ってねえけど。それでいいのか?」

「…あ、そう言えば聞いてなかったな。」


選択肢は3つ、と倖多が言っていたのをすっかり忘れていた。


じゃあ、3つ目をどうぞ。という視線を倖多に送るが、倖多はパッと俺から目を逸らし、「ま、いいや。」と話を終わらせてしまった。


「は!?よくねえよ、3つ目教えろよ!」

「普通に考えればわかることだよ。」

「普通に考えれば!?なにそれ、全然わかんねえ!」


教えろよ、と迫る俺に、倖多は仕方ねえな、と言いたげな表情で「はぁ。」とため息を吐いた。


そして、そっぽ向きながら照れ臭そうに倖多が答えた3つ目の選択肢。


「……俺を惚れさせる。」


それを聞いた瞬間、俺の胸がドクン、ドクンと大きく動いた。


そうだ、普通に考えればわかることだった。

てかそれ一択だろ。





「瀬戸先輩?…瀬戸先輩聞いてますか!?お盆とお箸取らないと!!」

「…あ、あぁ。忘れてた。」


夕飯の時刻、宿舎の食堂に来たりゅうは、セルフサービスにも関わらずお盆もお箸も取らずにぼんやりしていたため、杉谷くんに注意されている。


「どうしたんですか?体調悪いですか?」

「いや全然。ちょっと考え事してた。」


…考え事ねえ。
一体何を考えていることやら。

俺はそんなりゅうを尻目に、祥哉先輩とおかずバイキングをお先に楽しんだ。


「さっきから隆なんか変じゃね?」


おかずをどっさりとお皿に乗せた祥哉先輩の正面の席に腰掛けると、りゅうにチラリと視線を向けながらコソッと話す祥哉先輩。


「お前ら喧嘩でもした?あいつ新見に全然寄ってこねえし。」

「してませんよ。ちょっと考え事があるみたいです。」

「ふぅん、まあ喧嘩してねえならいいけど。」

「それにしても祥哉先輩よく食べますねぇ。さすが運動部。」

「新見ももっと食えよー、お前の身体もやしみたいだったぞ。」


祥哉先輩はそう言いながら、どっさり確保した焼き豚を俺のお皿の上に数枚放り込んできた。


もやしって失礼な。
俺はもやしほどひょろく無い。
かと言って体格が良いわけでは無いけど。


「ってわざと見てたんじゃねえぞ?見えたんだからな?」

「はい?何がですか?」

「だから、風呂の時にな?新見の身体が」

「倖多の身体がなんだって?」

「ゲッ。」


ガタリと音を立て、俺の隣の席に座ってきたりゅうに、祥哉先輩は顔を引きつらせた。

祥哉先輩的に話の内容をりゅうに聞かれるとまずかったのだろう。俺は別に良いけど。


「祥哉先輩に俺の身体もやしみたいって言われた。俺もやしほどじゃねえよな?」

「お、おう…。」


祥哉先輩に言われたことをりゅうにチクると、何故かりゅうは照れ始めた。おかしい。照れるタイミングがおかしい。


「あれあれ?なに隆、新見の身体でやらしい妄想でもしてんのか?」

「祥哉黙れ!!!」


おちょくってくる祥哉先輩に、りゅうは真っ赤な顔になった。…待って、りゅうそんな顔すると肯定してるようなもんだから。

なんだよ、俺の身体でやらしい妄想って。


「りゅうのスケベ。」


チラリとりゅうを見ながら一言告げると、りゅうの顔が真っ赤に染まった。

…おいおい、りゅうってば俺のことめちゃくちゃ意識してる。

恋人のフリしてる時と比べ物にならないくらい、りゅうが俺を意識してる。


「えっ!?瀬戸先輩やっぱり体調悪いですか!?顔が真っ赤なんですけど!」


数分後に、祥哉先輩の隣に座った杉谷くんが、りゅうを見てギョッとしながら心配そうに声をかけた。


「いや、だから、平気だって…。」


俺に構うな、と言いたげに、りゅうは俯いて茶碗を手に持ち、ご飯を食べ始めた。

そんなりゅうを見ながら、祥哉先輩がニヤニヤしていた。多分本当のスケベはこっちだ。


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