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「あ〜…登山とかだりぃよなぁ。」

「だりぃだりぃ。なんで山なんか登らなきゃなんねえんだよ。マジくそだりぃ。」


ぶつぶつと文句を言いながら山道を歩き始めたCクラス最後尾の生徒の後に続き、俺と祥哉先輩も並んで山道を歩き出した。


「はい、腕をしっかり振ってー、背筋は伸ばしてー。いっちに、いっちに。はい新見も一緒にー。」

「いっちに、いっちに。」


…テンション高いな。

シャキシャキと歩く祥哉先輩に、俺まで一緒に掛け声を言わされるけど、このテンションは絶対最後まで保たないだろうな。
…とか考えていると、かったるそうにだらだらと歩いていたCクラス最後尾の生徒がギョッとした顔で振り向いてきた。


「おぉ、生徒会だ。」

「びっくりした。」


ぺこりと俺たちに向かってお辞儀をされ、それの返答をするように祥哉先輩は「だらだら歩くと逆にキツイぞー。さぁお前らも一緒に!いっちに。いっちに。」としっかり腕を振るように彼らに促し始めた。


すると、祥哉先輩の勢いにつられるように「いっちに、いっちに。」としっかり腕を振り始める最後尾を歩いていた生徒たち。

かったるそうに歩いていた彼らにも、次第に楽しそうな笑みが浮かび、俺たちの周りには和やかなムードが漂う。

祥哉先輩はムードメーカーだなぁと思った。
しんどいと感じる山登りも、楽しもうとする気持ちが大事だ。


「新見くんは瀬戸先輩と一緒じゃないんすねー。」


山道を歩き始めて数分、Cクラスの名前も知らない生徒がスススと近付いてきて、俺の隣に並んで歩き始めたかと思いきや、突然そんな言葉をかけられた。


「あー、生徒会の時はあんまり一緒に活動させてもらえないんだよ。」

「二人が付き合ってるからっすか?」

「まあそんなとこ。」

「残念っすね、一緒に山登れないの。」

「…うーん、そうだなぁ。」


名前も知らない生徒から話しかけられる話の内容で、浮かんでくるのは先程のりゅうの拗ねたような表情だ。

りゅうが、俺とのこの関係を楽しんでいることは見てて分かる。恋人役なんてことをしてるから、俺に愛着でも湧いてくれてるのだろうか。
自意識過剰かもしれないけど、りゅうの俺への態度はたまに、本当に好かれてるんじゃないかと勘違いしそうになる時がある。

それこそ、俺らって恋人のフリしてるだけだよな?だなんて、再確認しそうになるほど。


「瀬戸先輩とは同中とか?元々の知り合いで幼馴染みとか?いつから付き合ってたんすか?そういう情報あんまり流れてこなくてすっげー気になるんすけど。」


おっと、気を抜けばまた詮索されている。
どいつもこいつも俺とりゅうのこと知りたがるやつばっかりだ。


「…んー、そんなに気になるもん?俺はあんまり人の馴れ初めとか気になんないタイプなんだけど。」

「いや気になりますよー。瀬戸先輩って噂ではめちゃくちゃ女好きって聞いたことありますし。瀬戸先輩に告ったことある人たち全敗らしいですし。それなのに今年外部入学してきた特待生の超絶美形は瀬戸先輩の恋人っていうビッグニュースっすよ?気になんないわけないっすよー!」


ぺらぺらとよく喋れるな…。

でもおかげでこの学校の生徒たちが考えてることがよくわかる。つまりは俺とりゅうの関係が胡散臭いって思ってんだろ。気になっちゃうのも仕方ないってか。

…なんかだんだん、そういう詮索を交わすのも疲れてきたなぁ。もう幼馴染みってことにしとこうかな。…でも下手に嘘ついて、後々話が噛み合わなくなってきても困るしなぁ。


言い訳が思い浮かばなくて黙り込んでしまった俺を、その生徒は不思議そうに伺ってくる。


困り果ててしまっていた時、「新見ー、そこちょっと足元濡れてて危ないぞ。」と数歩前を歩いていた祥哉先輩が声をかけてくれた。


「ぉわっ…と!!」


確かに濡れてて滑りやすくなっていた地面を滑りそうになってしまった。しかし、ガシッと祥哉先輩が腕を掴んでくれて転けずに済んだ。


「…先輩ありがとうございます。」

「おう、気を付けろよ?」


すぐさま祥哉先輩の手は離れていったが、俺とCクラスの生徒の間を割って入るように、先輩は俺の隣に並んだ。


「隆と新見のことに興味津々な気持ちは分かるけど、あんまりグイグイ聞いてやるな。」

「…あ、すんません…。」


背の高い祥哉先輩が、Cクラスの生徒をチラッと見下ろしながらそんな声をかけてくれた。すると、ささっと俺たちから離れ、先を行った生徒の背を少し眺めたあと、今度は俺を見下ろしてくる祥哉先輩。


「新見も隆も大変だな。」


そして、そう言ってフッと軽く笑う祥哉先輩。


「俺も最初隆が新入生と付き合ってるとか聞いた時はちょっとびっくりしたんだよな。いろんな奴らが興味津々な気持ちはすっげー分かる。」


祥哉先輩は先程の俺とCクラスの生徒とのやり取りを聞いていたんだろう。

Cクラスの生徒に代わって、今度は祥哉先輩とそんな会話が始まった。


「俺が隆と新入生が付き合ってるとかいう話聞いたのは入学式の日、陸部の奴らからなんだけどな?ある日いきなりポッとそんな話題が出たわけ。俺はまずそんなわけねーって思ったんだけど、隆自身が認めてるからちょっと奇妙だなと思ってた。」


周囲に聞こえないようにしてくれているのか、祥哉先輩の声は低く、小さい。


「俺らが1年の時、隆は男に言い寄られるのとかにマジ困ってて、俺からしたら気の毒だなって感じだったよ。顔良いしな。モテまくってたわ。結構愚痴も聞いた覚えあるな。野郎に興味はねえ!って公言もしてたな。」


一歩一歩、前に進みながら懐かしむように話している祥哉先輩の話に、黙って耳を傾ける。
1年生の頃のりゅうの様子が、頭に浮かぶ。
俺の知らない頃のりゅうの高校生活だ。


「だから正直、隆が新入生と付き合ってるって聞いて俺がまず思ったのは、言い寄ってくる男を諦めさせる役として、隆が新見を選んだってこと。」


…やばい、先輩、それ大当たり。

チラッと横目で先輩を見上げると、先輩も俺を見下ろしていて、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「まあもしそうだとしても俺は見て見ぬ振りするけど。隆は賢いから、自分の保身のためだけに新入生をそんなことさせるとも思えねえし。」


…うん、先輩、それも大当たり。

りゅうは最初から俺のこともちゃんと考えてくれてたし。


「まあ俺は最初そんなこと考えながら傍観者の立ち位置で見てたんだけど、これまた驚かされたんだよな。まさかガチで付き合ってると思わなかったわ。」

「………………へ?」


…あれ?待って?なんか思ってた流れとちがう…

てっきり祥哉先輩にはバレバレだったのかと思ったんだけど…いや、実際バレバレだったのか?でも待って、流れがなんだかおかしい。


「校内ではお前ら普通にイチャついてるし、堂々とキスしてるし、夜もお熱いんだろ〜?」

「…え?…いや、…え、夜?」


待って、なんの話してるんだ、先輩。

途端ににやにやとした顔を俺に向け始めた祥哉先輩に狼狽える。夜、…って大体想像つくけど。


「今回の宿泊学習も、俺と新見が同じ部屋になってあいつ次の日俺に代われって頼んできてさー。めちゃくちゃ惚れてるよなー、新見のこと。」

「………そう、見えます…?」

「おう、マジでベタ惚れよ。」


……うわ、…まじで?

どうしよう、反応に困る…、だってほんとは付き合ってねえのに…。

自意識過剰かと思っていたのに、りゅうと一番関わりのある祥哉先輩からもそう見えるなんて。

…野郎に興味はないんじゃねえの?

一体いつから気が変わった…?

仮にもし、マジでりゅうが俺のこと惚れてるとしたら、この関係はどうすんの…?

現状維持?それともやめる?
りゅうはどうしたい?

それから、俺は、どうしたい…?


…って、やめよう。まだそうと決まったわけじゃねえし。深読みするにはまだ早い。


「だから今夜は、消灯時間過ぎたらこっそり隆と俺部屋チェンジする予定だから。」

「……え、…あ、はい。…わかりました。」


………まじか。

りゅうってば、そんなに俺と同じ部屋が良いのか。

俺はなんだか、気恥ずかしいような、胸の中がドキドキハラハラするような…

そんな気持ちになりながら、でも、平常心を保とうと、ちょっと息を軽く吐いてから、祥哉先輩に返事をした。


次りゅうに会った時、俺はマトモにりゅうの顔を見れないかも。


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