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僕が生徒会入りしたことはすぐに学校中の噂となっていて、「あいつが生徒会?」とわりと陰口叩かれたりするけれど、学年次席ということで納得してくれる生徒は多い。

同じ役員、同じクラスでもある新見くんとも気軽に会話ができる立ち位置となった僕を羨ましそうに見ている生徒も多い。


「僕が瀬戸先輩と同じ部屋でいいのかな?」


休み時間、静かに席で教科書を読んでいた新見くんに話かけた僕の声に、新見くんは教科書を机に置いて顔を上げる。


「良いんじゃねえの?副会長が決めたことだし。」


新見くんはあっさりとした態度で、僕にそう返した。


「新見くんが良くても、ほら、瀬戸先輩は嫌かも。それに瀬戸先輩の親衛隊の人とかも良い気しないかも。」

「それなら俺がりゅうと同じ部屋でも多分良い気されないと思うけどな。」


今度はちょっと困ったように苦笑しながら返事をした新見くん。新見くんの本心っていまいちよくわからないなぁ…と思いながら、僕は次に新見くんに話しかける言葉を考える。

新見くんはあまり僕と打ち解けようとは思ってくれてないみたいだ。だって会話が続かない。


「そう言えば他の1年生は8人部屋らしいね。二人部屋なのは生徒会の僕らだけみたい。」

「へえ、そうなんだ。8人部屋も楽しそうだな。」


新見くんはそう言って少し笑みを見せた。

『8人部屋も楽しそう』…?そこは二人部屋でラッキー、とか思うところじゃないのか?況してや人気者の生徒会役員の人と同じ部屋なのだから、僕はラッキーという言葉以外出てこないのだけれど。

…とそこまで考えて僕は、あぁ、そっか。この人も人気者だった。とその綺麗なお顔を眺めながら僕は納得する。


綺麗なお顔のこの人は、僕がほんの少しの間とは言え瀬戸先輩と共に夜を過ごすというのに余裕だな。

僕なんかこの人の眼中にないのだろう。

それともあれか?恋人が他の人と共に夜を過ごすというのに心配もしないということは、実は心配するほどの関係でも無かったり?


二人の関係を疑う有坂先輩の性格が移ったみたいに、僕も疑う目で彼らを見てしまいそうだ。


「じゃあ僕もうんと楽しんじゃおうかな、瀬戸先輩と同じ部屋で過ごす時を。」


…チラ、と横目で新見くんの表情を伺いながら、僕はそんな言葉を吐く。


すると、今までまともに合わなかった僕と新見くんとの目が、ここで初めて合った。


バチッと交わった視線に、僕はゴクリと唾を飲み込んでしまう。


新見くんは、うっすらと笑みを浮かべて口を開いた。


「俺のりゅうってことは忘れんなよ?」


「…う、ん…。わ、わかってるよ…。」


一瞬でも疑った自分がバカみたいだ、しっかり牽制されちゃったよ。


「じゃ、お互い楽しめるといいな。」と言って僕との会話を終わらせた新見くんに、僕は何故かかなりの敗北感を味わいながら、「…うん。」と頷いて、そのお綺麗な顔から目を逸らした。





1年生のみのイベント、二泊三日の宿泊学習。
そのイベントのサポート役として参加する生徒会役員。

なんとかして隆くんを不参加にできないものか…と企む有坂だが、まあ無茶な話だ。


3日間隆くんの居ない学園生活なんて耐えられない…しかも新見も一緒だなんて…。

どろどろとした感情が有坂の心に渦巻く。


「なんで生徒会って1年の宿泊学習についてくの?必要なくない?」


ツンとした態度で有坂に話しかけられたのは生徒会長である秀だった。


「は?いや、毎年の決まりだから。」


必要なくない?と言われましても。と困った顔をする秀に、有坂は眉を顰めた不機嫌面でさらに話を続ける。


「じゃあ松村が決まり変えてよ。」

「…は?なんでだよ。無理だって。」

「やってみなきゃわかんないでしょ。」


いやいや、なんで俺がそんなことをやらされなきゃなんねえんだ、と困っていた秀の様子に気付いた頼れる副会長、悠馬が、「秀どうした?」と歩み寄ってきた。


「おお、悠馬良いところに。こいつが1年の宿泊学習に生徒会が付いて行く必要無いとか言ってきてよぉ。決まり変えろだって。」


どうにかしてくれ、と言いたげな表情で悠馬に話しかける秀。そんな秀の話を聞いた悠馬は、自分の目線より下にある有坂を冷めた目で見下ろした。


「決まりは決まり。有坂の一存で変えられるわけねーだろ。」


悠馬に口出しされた有坂は、チッ、と舌打ちをしながら悠馬を睨みつける。この二人はあまり相性がよろしくないため、クラスメイトでありながら普段会話をすることなど滅多にない。


「まあどうせ有坂は隆を行かせたくないだけだろうけど。隆は楽しみで仕方なさそうだったよな?秀?」

「え?…あー…、そうか?」


悠馬の問いかけに、秀は隆の顔を思い浮かべる。

…が、特にこれと言って宿泊学習を楽しみにしていたような隆は思い浮かばない。


「あ、祥哉なら毎年登山に参加できて嬉しいって言ってたけど。」

「うん、今祥哉の話はいいから。」


空気が読めない秀に、悠馬は表情を緩めてクスッと笑った。


「恋人が参加する宿泊学習に、隆だって参加したいに決まってんじゃん。なぁ?」

「…ん?…あー、そうだな。」


今度の悠馬の問いかけに、秀は苦笑しながらも頷いた。

自身が失恋したという事実を、秀は少しずつ受け止めていこうと思っている。

そして、悠馬も。

秀の背ばかりを押していたが、今度は自分自身のために、動き出そうとしている。


「あいつらとりあえず別々の部屋にしたけど、絶対夜中にでも祥哉と部屋チェンジして密会するだろうな。」

「…え、密会?」

「隆が俺に文句も言わずに言うこときくとは思えないし。」

「じゃあ別に同じ部屋にしてやっても良かったんじゃねえの?」

「そこはほら、やっぱりカップルを同じ部屋にするのは憚られると言うか。秀も嫌だろ?」

「…ん…、…んー…。」


困ったように頷く秀に、「だからこれでいいんだよ。」と悠馬は満足気ににっこりと笑った。


目の前で繰り広げられる秀と悠馬の会話に、有坂は無意識に唇をギュッと噛み締める。


隆くんと新見が、夜中に密会?

そんなの絶対に許さない…!


ギリリと握りしめた拳を開いて、有坂は今自分の支配下にあるような後輩にすぐさま連絡を入れた。


「…こいつになんとか頑張ってもらわないと。」


有坂にとっての頼みの綱は、生徒会役員となった杉谷だったが、果たして彼になんとかできることだろうか。


とんとんと月日は流れ、宿泊学習の日がやって来るのはすぐだった。


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