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その日の放課後から、杉谷くんを交えての生徒会活動が始まった。


「じゃあ杉谷の席はそこね。隆の隣。あ、祥哉はこっち来な、今後1年、2年でペア組んで活動してもらう時はこの組み合わせでいくから。」


副会長はにっこりと笑顔で杉谷くんを席へ案内してからそう説明した後、俺の方を見てニッと悪巧みするような表情に変えて笑った。


杉谷くんはりゅうの隣の席に座り、「よろしくお願いします!」と張り切った様子で頭を下げ、それに対してりゅうも「おう、よろしくな!」と快く応じている。


それから祥哉先輩も俺の隣の席に座りながら、「副会長厳しいっすねー」と言って笑っている。

何が厳しいってそれは勿論、生徒会活動中は俺とりゅうを近付かせないようにしっかり仕向けていることだ。


「当然だろ、活動中イチャつかれても困るし。」

「…イチャつきませんってば…。いい加減そんな冷めた目で俺を見ないでください。」

「さてと、じゃあ生徒会活動始めるよ。」


うわ、スルーされた。まあいいけど。

副会長の俺への態度はあれからあまり変わらないな。…まあいいけど。


この場を仕切る副会長により、本日の生徒会活動が始まった。まだ俺にとっては慣れない組織で、活動って何をするんだと疑問に思っていると、副会長にプリントを手渡される。


「今度、1年生は宿泊イベントがあるのは知ってるよね?新見。」

「…あ、そういやそんなのあるって担任言ってたような…。」

「あるんだよ。ちゃんと把握しろよな。」

「…あ、はい…すみません…。」


え、てか副会長俺に当たりきつくね?


落ち込む俺に、俺の斜め前で俺に視線を向けていたりゅうに気付き、俺もりゅうに目を向けるとりゅうは口パクで俺に向かって『ドンマイ』と言って、クスッと小さく笑った。

お、なんか今のでちょっと元気出た。


俺も、励ましてくれるりゅうにつられるように少し笑みをこぼすと、目敏く俺とりゅうのやり取りに気付いた副会長が今度はりゅうに冷めた目を向ける。


「じゃあ隆、宿泊学習の概要説明して。」

「え、俺すか?」

「はやく。」


…おお。副会長、今度はりゅうに当たりがきつい。

宿泊学習についての説明をりゅうに促した副会長に、りゅうは渋々プリントを持って口を開いた。


「宿泊学習は、新入生が生徒や教師との交流、学園に馴染むことを目的として行われます。その際、生徒会役員はそのサポート役として1年の宿泊学習に参加。1日目登山、2日目飯盒炊爨、3日目レクリエーション。…と、まあこんな感じっすか?」

「うん。説明ありがとう。」


…へえ、生徒会役員も来るんだ。

え、てか登山?金持ち坊ちゃんにもなかなかアクティブなことやらすんだな。良いと思う。俺はこういうの結構好きだ。


「まあ生徒や教師の交流、と言ってもほとんどが中等部からの内部進学でグループはすでに出来上がってるだろうけど、その中で一人で行動している生徒を見かけたら俺たちは声をかけるようにしたりして、俺たちを通じて一人の生徒がクラスやグループに溶け込めるようにするのが、主に生徒会の活動目的かな。」


…おぉ、生徒会って結構真面目に生徒のこと考えてるんだ。

真面目なことを話す副会長に、俺は生徒会という組織の見方が少し変わった。


「詳しい話は明日にでも担任から聞くと思うけど、新見と杉谷は大体のこと把握しておいてね。」

「はい。」

「わかりました。」

「あ、ちなみに宿泊先の部屋割りは二人部屋で俺と秀、隆と杉谷、祥哉と新見だから。」


おっと、ここでもそんな分け方をするのか、副会長。しかも自分はちゃっかり会長と同じ部屋にしちゃって。という感想を抱きつつ、別にこれに対して不満は無い。

…が、りゅうは不満そうな顔をして副会長に視線を向けている。


「隆何か言いたそー。」


そんなりゅうに気付いた祥哉先輩が、ニヤニヤと笑いながら口を挟んだが、りゅうが副会長に何か文句を言うことは無かった。





「祥哉、お前空気読めよ?」

「は?なんの話だ?」

「宿泊学習の部屋割りだ!!!」


休み時間、部活の練習メニューのような内容が書かれたプリントを眺めていた祥哉に、俺は昨日の生徒会で行われた話を持ち出した。


正直、あの場で副会長に文句を言わなかった俺は偉いと思う。宿泊学習での部屋割りで倖多と一緒じゃないのが不満だなんて、後輩となった杉谷にも失礼だし、何より理由が個人的すぎる。

しかし副会長の俺と倖多を引き離すような行為にはイライラが募るばかり。


「あーそれか。でもなーカップル同じ部屋にして夜中に隣の部屋から喘ぎ声聞こえてきても困るからなー。どうしよっかなー。」


プリントから目を離し、ニヤニヤした目を俺に向けられ、一瞬何も言い返せなくなる。

喘ぎ声って…。やめろ、恥ずかしい。

お前が想像しているような事態には絶対にならねえから安心しろ。俺はただ、純粋に、倖多と同じ部屋が良いだけで。


変な想像をされていることに少し恥じらいの態度が出てしまい、暫し無言で固まっていた俺に、祥哉のニヤニヤした顔がより一層濃くなる。


「わかったわかった、就寝時間になったら代わってやるよ。ただし声は抑えろよ?」


…いや、だから、そういう事態にはならねえけどよ…。カップルを同じ部屋にするという事はそういう事態を想像されてもなんらおかしくはないことで…。


「…サンキュー、頼むわ。」


とりあえず部屋を代わってくれると言った祥哉にお礼だけを述べ、それ以外は何も言わなかった。


副会長に俺と倖多を引き離されれば引き離されるほど、反感を持ってしまっているのか…。
何としてでも祥哉に部屋を代わってもらいたかった。

けれどそれは、ほんの少しだけ、別の理由も含んでいる。


倖多と祥哉を同じ部屋にしたくない、という、妬みのような、妙な感情。


俺は自分の胸に宿る、そんな感情にすぐに気付いた。


「しっかしベタ惚れだなぁ隆。まあ相手があれじゃ隆でもそうなるか。近くでみたらマジ顔綺麗だよなー。」

「………惚れるなよ?」

「ハハッ!焦ってんのか?心配しなくても今の俺は部活が恋人よ。」


祥哉はそう言いながら、再び練習メニューが書かれたプリントを眺め始める。


「1000メートルインターバル5本…?なんかキツそうだな。てかインターバルってなに。」


何気無しに俺も祥哉が持つそのプリントを横から覗き込むと、目に止まったのはそんな文字だ。


「1000メートルダッシュで走って200メートルジョギングをワンセットとして続けて5本。」

「………お前ドMだな。」


聞くだけで疲れそうな練習メニューを祥哉から聞いてしまい、よくやるよ。と感嘆の声を漏らしたつもりが、出たのはそんな言葉だった。


「まあな。」


そして祥哉は俺の言葉に肯定した。

そこは否定してくれていいんだぞ。


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