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「新見くん、瀬戸先輩、おはようございます。」
「え?あ、おはよう…?」
翌朝、りゅうと共に俺のクラスの教室へ登校してくると、恐らくクラスメイトであろう生徒に挨拶をされ、ええっと、誰だっけと思いながら挨拶を返した。
「あ、僕昨日生徒会に勧誘された杉谷って言います。」
「…ああっ!」
しまった、完全に忘れてた…。
そういや副会長に挨拶しとくように言われてたんだった。
自己紹介を杉谷くん自らしてもらえたことで、俺はこの人が杉谷くんだと知る。
「へー、俺2年の瀬戸。よろしくなー。」
「はい!存じております!よろしくお願いします!」
「じゃあまたな。あ、倖多昼休み迎えに行くわー。」
「あ、うん、分かった、またあとで。」
ひらひらと手を振りながら立ち去るりゅうに手を振り返し、杉谷くんの方へ向く。
杉谷くんは、立ち去るりゅうの背を眺めながら、「瀬戸先輩かっこいいなぁ。」と呟いた。
「あっ、ごめん!僕先輩のこと憧れてて。」
「…あ、そうなんだ。」
うわ、こういう話聞くとすっげー複雑な気持ちになる。てかりゅうモテすぎ…。
「まさか瀬戸先輩に恋人が居たなんて聞いたときは驚いたよ。」
「あー…ハハ…。」
真面目そうな雰囲気なものの、こういう話に興味関心があるんだな、と思ったのが杉谷くんの第一印象だ。あとよく喋る。
「しかも相手は美形の新見くん。みんな新見くん相手なら手も足も出ないよ。」
「…えぇっと、なんて返したらいいことやら…。」
「ねぇねぇ、付き合うようになったきっかけは?」
「えぇ、…ひみつ…。」
うわぁ…グイグイ聞いてくるタイプだな。って、できるだけ関わることを避けたくなった。
しかし生徒会役員としてこれから関わりは増えるだろう。杉谷くんを前にして、俺は頭を抱えたくなった。
「え〜?教えてよー、一緒に活動する仲間になるんだよ?仲良くしよ?」
「…うーん、勿論仲良くしたいとは思うけど、自分の話をべらべら人に話すのは得意じゃねえから。ごめんな。」
当たり障りの無い言葉を選び、りゅうとのことは一切語ることなく話を終わらそうとする俺に、杉谷くんは少し不満そうな顔をしながら、「ふぅん、そっか。」と頷いて、俺の前から立ち去った。
たったこれだけのやり取りでこんなことを思うのも申し訳ないとは思うけど、杉谷くん……
……俺は少し、彼が苦手だ。
*
「新見からなにか聞けた?」
「いいえ、自分のこと喋るの得意じゃないって躱されました。」
「へー。喋る内容なんか無いだけでしょ。どうせ。」
有坂先輩はそう言って、ハッと鼻で笑った。
完全に新見くんを見下している反応だ。
中等部の頃まで学年首席だった僕は、いずれ高等部に行った時生徒会に入るだろうということで、有坂先輩に目をつけられていたのだ。
僕が瀬戸先輩に憧れていることも何故か気付かれて、まだ生徒会にも入っていないのに僕は先輩に『隆くんには手出さないでね。』と釘を刺されていた。
手出さないでねって何様なんだろう?と思いながらも、先輩相手に僕は頷くしかない。
「まあキミみたいに冴えない子だったら無駄な心配だろうけど。」
僕は完全に先輩に見下されていた。
悔しいけどまあその通り。
僕はただの勉強がちょっと人よりできるだけの人間だ。先輩が僕を見下したくなる気持ちは分かる。
けれど状況が変わったのは僕が首席ではないとわかった時。さらに首席で高等部に入学してきたその人物が、誰もが羨む美貌の持ち主だとわかった時だ。
有坂先輩は僕に擦り寄ってきた。
新見くんが瀬戸先輩の恋人だということを知った時にはとても驚いたけど、どうやらそのことを有坂先輩は彼らが恋人同士だということを信じていないらしい。
有坂先輩は僕に『探りを入れてくれ』と頼んできた。
先輩は僕のことをなんだと思ってるんだろう。
けれど僕は、先輩の態度を不愉快に思いながらも頷いた。
「分かりました。」
何故なら僕は、いきなりポッと現れた“新見 倖多”という、学年首席の新入生で、瀬戸先輩の恋人、何と言ってもあの人を惹きつける美貌である彼のことを、自分自身が探りを入れたいと思ったから。
口には出したくないけれど、僕は、首席の座を奪われたことが、相当悔しかったみたいだ。
「まあなにかわかったらすぐに報告してね。僕、あの2人をなんとしてでも引き離さなきゃ気が済まないから。」
「…わかりました。」
僕は何も悪くない。
だって僕は、先輩に命令されているだけだから。
だから新見くん、僕を悪く思わないでね。
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