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出会って数日で恋人?

そんなの絶対ありえない!


瀬戸隆親衛隊隊長、有坂は、納得のいかない気持ちのまま、自室に戻り、一人荒れていた。


鞄をベッドに叩きつけるように投げ、続いて荒々しい動作で制服を脱ぎ捨てる。


「ああ〜イラつく!ずるい!僕だって隆くんとキスしたいのに!」


スマホを手に取り、有坂はお気に入りの写真を画面に表示させる。

隆と倖多のキスする数秒前の写真だが、上手く倖多の顔が加工でカットされている。

勿論盗撮だ。シャッターチャンスはわりと頻繁にあった。彼らのキスシーンは度々目撃してしまっている。


出会って数日でこの絡み方。

こんなのセフレ以外ありえない…!

込み上げてくるのは怒りだ。


どうしてそのポジションが自分ではダメなのか。

ヤりたいだけなら誰でもいいじゃない?

1度でいいから、僕は隆くんに愛されてみたいだけなのに。

有坂にはそんな、強い願望があった。


一目見た瞬間から、隆に惹かれてしまった有坂は、叶わぬ想いに日々耐えながら、親衛隊隊長というポジションで我慢していた。


そんな中、突如現れた彼の恋人だという存在は、正直胡散臭かった。

有坂は少しも信じていなかった。

でも今日彼らの会話を耳にして、はっきり分かった。

あれは恋人なんて綺麗な関係じゃない。


そうと決め込んだ有坂は、なんで僕じゃダメなの、と、何度も自分が隆に拒否された思い出が蘇り、沸々と悔しさが湧き上がってくる。


スマホ画面に映る隆の顔を眺め、脱ぎ散らかした制服の上に、パサッとパンツさえも脱ぎ捨てて、有坂は溜まった欲望を、今日も一人で吐き出すのだった。



自身の親衛隊隊長に全くの見当違いをされている隆は、そんな有坂の思いなど知らず、恋人役に抜擢した可愛い可愛い後輩の手を繋いでは、初々しく喜んでいる。


「あーもう倖多まじ最高だわぁー、帰ったらイチャイチャしようなぁ!」

「いや、なんでだよ。」


日に日に増していく後輩に対する好意に気付いているのか、いないのか、隆は彼、新見 倖多が自身の“恋人役”だということをまるで忘れているように、その手に、身体に、唇に触れて、この関係を楽しんでいた。


「てかあの先輩、妙にセフレって関係に敏感だよな。りゅうもしかして誘われたりしてたの?」

「あー…最近はもう諦めた感じだったけど最初の頃はなー。」

「…へえ、そうなんだ。」


ひょっとして自分の存在が、有坂を刺激しているのでは?

…と、倖多は不安をつのらせたのだった。





「出会って数日で恋人は有り得ない、かぁ。」


りゅうと共に食堂から俺の部屋に帰ってくると、二人きりになった空間でりゅうは腕を組んでううんと考え始めた。


しかし俺は、ううんと唸るりゅうに一言、スパッと言ってやる。


「いや有りえるよ。」


あまりに俺がスパッと言い切ったから、りゅうは目を丸く見開きながら俺に視線を向けてきた。


「俺さっき先輩にも言ったと思うけど、それを決めるのは当事者の俺たちだって。りゅうは俺の恋人じゃねえの?」

「…恋人です。」

「だよな。」


わざとらしく、にっこりと笑って俺はりゅうにその言葉を言わせ、その話はそこで終了だ。

俺らが『恋人同士だ』って言ってるんだから、誰に何言われようが俺らは恋人同士なのだ。


「まじ倖多、気持ち良い性格してるよなぁ。」


俺の部屋のベッドの上で、ゴロリと横になってリラックスしながら口にするりゅうを尻目に、俺は制服から部屋着に着替える。


制服をハンガーにかけ、シャツを着ようとしていた時、ジッと俺の身体を見ていたりゅうの視線に気付いた。


「…ん?」

「なぁ、俺らが恋人同士っつーことは、当然アハンウフンなことする仲ってことじゃん?」

「…は?」


いきなりなんだ、アハンウフンって。

いきなりすぎて吹き出しそうになったぞ。


…と、いきなりのりゅうの発言で、着替えが止まっていた俺の手に持っていた部屋着のシャツを、ひょいとりゅうに奪われた。


「あ。」


奪われたシャツは、ポイとベッドの隅に投げられ、何故か着替えを邪魔された。

上半身裸の俺を、りゅうはなにも言わずに眺めてくる。


「男の裸見て楽しい?そんなに凝視してもおっぱいはありません。」

「うん、無いな。でもちょっと触ってみていい?」

「…は?…っておい!」


『触ってみていい?』っつーかもう触ってんじゃねえか!


突如俺の腹に手を伸ばしてきたりゅうに、なにがしたいんだとりゅうの言動が不可解すぎる。


「もし俺らがヤるとすんじゃん?」


そして唐突すぎるりゅうのこの発言。


「は?なに言ってんの、ヤんないだろ。」

「もしもだって、もしも。ヤるとしたらさ、どっちがどっちする?」

「…どっちとは?」

「男役と女役。」


…おいおい、そんなこと聞いてどうする。

一瞬でも妙なことを想像してしまい、恥ずかしくなりながら慌てて答える。


「それはやっぱ、ジャンケンで決めるだろ!ジャンケンで!」


はい、最初はグー、と妙な話題から逸らすために俺は突如ジャンケンを始める。


ジャンケンポン、ポン、という掛け声と共にグー、パー、と出すと、りゅうはグー、グー、と出したため俺の勝ちだ。


「はい、俺が男役な。」


はいだからこの話終わりー、とベッドの隅に放られたシャツに手を伸ばそうとすると、りゅうに「待て待て!」と勢い良く腹に抱きつかれて動作を止められた。


「ちょ、もっかいもっかい!」

「いやそろそろ着替えさせてよ。」

「もっかい!もっかい!はい、ジャンケンポン!」


何故か二度目のジャンケンをやらされ、今度はりゅうが勝ち、安心したように「俺が男役な?」と念を押されるような言われ方をした。


「…じゃあもうそれで良いからそろそろ着替えてもいい?」


あれ、なんの話してたんだっけ。とジャンケンの所為で会話の内容を忘れながらりゅうに告げると、りゅうは上機嫌で頷いた。


「…うわ、もっと触ってみたくなってきた。」


そしてその後、りゅうがそんな独り言を漏らしていたことを、俺は知らない。


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