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お腹が空きすぎているあまりに俺はりゅうを引き連れて食堂へ駆けつけ、迷わずオムライスを注文した。
「こぉちゃんこぉちゃん、あ〜ん。」
オムライスをガツガツ食べていた俺の目の前で、甘えたような態度で大口開けてくるりゅうに俺は、無言でもぐもぐオムライスを食べながらりゅうに目を向ける。
あ〜んって…。またベタなことをやらそうとしてくるなぁ。と思いながらりゅうのあ〜んをスルーしてオムライスをスプーンですくってぱくりと口に入れると、りゅうは諦めたように口を閉じる。
しかしその後ずっとジーと無言でりゅうに見つめられ、なんかちょっと食べ辛い。
ああもうはいはい、1回だけな。と、仕方なしにスプーンで一口分オムライスをすくい、俺も無言でりゅうの口元へスプーンを差し出すと、りゅうはパッと表情を明るくし、「あ〜」と大口を開けてスプーンに食らいついた。
「倖多ならやってくれると思ったー。」
もぐもぐオムライスを食べた後に嬉しそうに言われて、そりゃあ良かったな。と軽く笑って食事を再開する。
付き合っているフリって言うにはあまりにやり取りが自然過ぎて、当初の目的を忘れてはいないだろうかと思ってしまう。
まあ目的の男除けは十分できてるだろうからこれはこれで良いんだろうけど。
先程のキスしたいとか、ムラムラする発言とか、りゅうはどこまで冗談でどこからが本心なのかよくわからない。
「あ、てか会長俺のこと好きだったっぽい。」
「………え。」
…いや待って、話いきなりすぎ。
ふと思い出したように話し出したりゅうのその話の内容に、びっくりしてオムライスを食べていた手を止めた。
「そんなことぺらぺら人に話すなよ。」
それも、例えるなら『明日は雨が降るっぽい。』…みたいな些細な話をするような感じで。
会長が何を思って、どんな気持ちでりゅうに言ったのかとか考えると、俺は呆気なく俺にその話をしてきたりゅうに不快感を抱きそうになった。
けれど、そんな俺の感情が顔に出ていたのか、「いや、倖多だから言ったんだよ!」と逆ギレのような態度で言い返された。
「倖多のこと信用してるってことだぞ?」
「ふうん?出会ってまだ数日しか経ってねえのに?」
「冷めたこと言うなよ!その数日間だけで十分倖多が信用できる人間だって思えたんだろ!?」
「声、声!りゅう声大きいっ!!」
俺の発言にりゅうはちょっと熱くなりすぎて声のボリュームが大きくなっている。
「ごめんごめん!そうは言ったけどりゅうのことは俺も信用してるから…!」
ただちょっと会長の気持ちを考えたら複雑な気持ちになってしまい、りゅうにあんな態度を取っちゃったのだと自分も少し反省していると、俺の背後から「へえ?2人って出会って数日間しか経ってないんだぁ?」という声が聞こえて、俺は背筋がゾッとした。
「有坂先輩…!いつからそこに!?」
「今さっき座ったばっかだけど?でも隆くん全然気付いてくれなかったから盗み聞きしたみたいになっちゃってなんかごめんね?」
にっこり笑顔でりゅうに視線を向けるものの、この先輩からは黒いオーラをひしひしと感じる。
「どこから聞いてたんですか?」
俺が口を挟めば、笑顔だった先輩の表情はサッと冷たい表情に変わった。
「んー、出会ってまだ数日しか経ってねえのに?ってとこからかな。」
…うわ、それ俺の発言だ…やらかした。
りゅうの何か言いたげなジト目が俺に突き刺さる。
「やっぱキミらってセフレなの?」
「なんでそうなるんすか?」
「出会って数日でそんな関係、セフレ以外考えらんないでしょ。」
「先輩がそう思うのならそう思っておけばいいんじゃないすか。」
どうぞご自由に、というように先輩から目を逸らしながらそう言ったりゅうに、先輩のりゅうを見る目付きが変わった。
徐にりゅうの側まで歩み寄り、先輩は上目遣いでりゅうの首に両腕を回す。
「じゃあ隆くん、僕の相手もしてよ?」
りゅうに抱きつきながらりゅうの耳元で囁くようにそう言った先輩に、りゅうは不快感や嫌悪を隠しもしない目で先輩を睨みつけている。
ああ、そうか。
りゅうは俺が知らない1年間、りゅうに向けられるこういう目から、必死で耐えていたんだ。
この俺たちの関係は、そんな目から逃れられるための手段だ。
俺は椅子から立ち上がり、先輩からりゅうを引き離すように、りゅうの腕を引っ張った。
「先輩、りゅうは俺の恋人です。そんなふうにりゅうを見るのはやめてください。俺が許しません。」
先輩から引き離したりゅうの身体を、今度は俺が背後から腕を回して抱きしめる。
恋人として相応な行動を取ったつもりの俺の先輩への態度に、先輩は鋭い目付きで俺のことを睨みつけてきた。
「…出会って数日で恋人?ありえない!」
「あり得るかあり得ないかなんて、決めるのは当事者の俺たちです。」
そう言いながら、俺の腕の中で大人しくしているりゅうにチラリと目を向けると、りゅうも俺に目を向けており、目が合って、その時りゅうは人差し指で自分の唇を指差した。
『キス』
口パクで動くりゅうの唇に、俺はそっと自分の唇を近付ける。
チュッ、と触れ合った直後、りゅうは満足そうにニッと笑った。
先輩は悔しそうに唇を噛み締め、「僕は信じてないから!」と吐き捨て、去っていった。
「あー…まじ倖多最高。好きだわー。」
りゅうはそう言って、暫く俺の身体に抱きついていた。
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