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「倖多のバァカ。」
「…えぇ?なにむくれてんの?てか俺腹減って死にそうなんだけど。」
昼休みに昼食を食べ損ねた俺は、空腹と戦いながらの午後授業を無事乗り越えた。
放課後すぐに俺を迎えに来たりゅうは、顔を合わせていきなり子供のように拗ねたような態度を取ってくる。
「倖多が副会長追いかけてったからだろ?自業自得だよバァカ。俺一応昼休み終わるまで食堂で待ってたんだからな!」
「ごめんごめん。…あぁ、だからりゅうちゃん拗ねてんの?」
「別にあそこで倖多が追いかける必要無かっただろ。あのあと2人でなに話してたんだよ。」
あれ?結構ガチめに怒ってる?
不機嫌そうに問い詰められ、痴話喧嘩かよ。と思わず突っ込みそうになった。
「俺も副会長にちょっと言いたいことがあったから。」
「俺という存在が居ながらこぉちゃんったらマジねえわ。」
ツンとした顔をして俺に文句を言ってくるりゅうに、またもや痴話喧嘩かよ。と突っ込みを入れたくなってしまった。
ツンとした顔をしながらも、りゅうは俺に手を差し出してきたから、俺はりゅうと手を繋いだ。なんだかりゅうがちょっと可愛い。怒ってるのに手は繋ぐんだ?
思わずそんなりゅうに笑ってしまうと、りゅうのむっすり顔が俺の方へ向く。
「なに笑ってんだよ。」
「怒ってるのに手は繋ぐんだ?」
「怒ってたら手繋いだらダメなわけ?」
「いいけど。そんなに俺と手繋ぎたい?」
別に本当に付き合っているわけではないんだから、無理をして手を繋ぐ必要は無いけれど。
俺のちょっとからかうようなりゅうへの問いかけに、りゅうは真面目な顔をして答えた。
「わりとガチめに繋ぎたい。」
「は?」
わりとガチめに?
…え、なにそれどういうこと。
りゅうの返答に唖然としていると、りゅうは真面目な顔をしたまま俺の顔面に唇を寄せてきた。
「あと、わりとガチめにキスとかもっとしたいんだけど。」
「え、…それは、“俺と”って意味で?」
「そう。“倖多と”って意味で。」
今にもキスされそうな距離で、顔を後ろに引けば引いた分だけまたりゅうが迫ってくる。
ピタッと俺が動作を止めれば、そこでりゅうに唇を重ねられた。吸い付くようにキスされた挙句、りゅうの舌が俺の口の中に浸入しようとしている。
うわ、マジでガチめにキスされてる…。
「…ん、…ぁ、っ」
拒むことはせず、流されるようにそのキスを受け入れてしまった数秒後、口の中からするりと出ていったりゅうの舌に浅く呼吸を繰り返していると、そんな俺をりゅうは近距離でまじまじと見つめてきた。
「……やべー、これはガチめにやべぇ。」
「………ガチめになにがやばいんだよ。」
……あ、これは聞いちゃダメなやつかも。
俺はりゅうの表情を見て直感した。
「…倖多見てたらムラムラしてきた…。」
……うわ、聞いちゃったよ。
俺相手にムラムラとか…。
確かにそれは、ガチめにやばいな。
「…とりあえず、さ、…俺腹減ったから。……帰ろ。」
「…ムラムラになんかコメントしろよ。」
「…ノーコメントで。」
結局手はそのまま繋いで帰った。
どちらのものかわからない手汗で、手がちょっとじっとりとしていた。
………多分俺の手汗だ。
だってさ、ムラムラするとか言われたら、俺は一体どう反応すればいいんだ。
*
「…なぁ、悠馬…。…俺、隆に言った。」
昼休み終了間際、教室に戻って来た秀が先に戻っていた俺の元へ歩み寄り、話しかけて来た。
「……なにを?」
先程の秀に言われたことがちょっと引きずってしまっているようで、秀の顔が見れない。
けれど、秀の顔を見ないまま問いかけた俺だったが、秀からの返答に俺は驚きのあまりに勢い良く秀に目を向けた。
「…俺が、隆のこと好きって。」
…うそ、…ほんとに?
あの意気地無しの秀が…?
「…まあ隆は新見にベタ惚れだし、俺のことなんか眼中にないし、告白って言うよりはただ言っただけって感じだけど。…すっげえ緊張したわ…。」
そう話す秀は、無理に笑みを浮かべているような、ぎこちない表情だ。
「…そうなんだ。…まあ、…偉いじゃん。ちゃんと言えて…。」
そんな秀に比べて、俺がやってた事って一体なんだったんだろう。
秀のためを思って新見を邪魔者扱いして、本心では隆の気持ちが秀に向いて、二人が両想いになってほしいなんて思ってもいないくせに。
本当は自分が報われたいはずなのに、はじめっから報われることを諦めて、秀のために、と思ってやってたことを秀には隆の嫌がることするなとか言われちゃうし。
どんどん憂鬱な気持ちになっていって、今は何も話す気分にはなれなくて、秀から顔を背けるように頬杖をつく。
するとその直後、秀の大きくて温かい手が俺の頭の上に乗っかって、驚きのあまりにびくりと身体が震えた。
「…悠馬がいつも俺のこと考えてくれてるから。隆に言えたのはお前のおかげ。…さっきは、ひどいこと言って悪かった…。」
秀はそれだけ言って俺の頭から手を離し、自分の席へと去っていった。
俺は、秀に触れられた頭のてっぺんから、熱が体内に流れ込んでくるかのように、顔が、身体が、熱くなってきて、思わず顔を机に伏せた。
俺が今までやって来たことは、無駄なことではなかったのかも。
あわよくば、自分が報われたい。
今度は、自分のことのために頑張りたい。
午後の授業内容は全然頭に入ってこなかった。
今朝は、放課後1年次席の子の生徒会勧誘に行こうか、なんて考えていたのに、今は何も行動する気が起きない。
ぼんやりしながら鞄の中に教科書やノートを片付けていると、机の上には人影が見え、顔を上げると秀が側に立っていた。
「1年の勧誘行くだろ?俺も行く。」
なんだろう、なんか、そわそわする。
落ちつかないな。
秀の顔まともに見れないし。
…そういや俺って、自分の恋に対して真剣に向き合ったことが無さすぎて、いざ頑張ろうとするとなにをどうすればいいかわからないんだ。
「悠馬?おい、聞いてんのかよ。」
「えっ、あっ、ごめんなに…?」
「だから、1年の勧誘!俺も行く。」
「あ、あぁ…うん…、行こっか。」
秀に不自然な態度を取ってしまった俺の様子を観察するようにまじまじと窺われてしまい、俺は慌てて秀から目を逸らしてしまった。
…ダメだ、相手を意識し出すと自然な態度が全然取れない。……困ったな。
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