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「あ。そうそう。またあの先輩に呼び出しされた。一応報告な。」

「え、マジ?なに言われた?」

「……なに言われたと思う?」


コソッと小声でりゅうに問いかけると、りゅうは「なんだろ…?」と考えている。まあ考えても多分わかんないだろうけど。


「りゅうくんとセックスしないで、だと。」


大声で話せる内容ではないため、りゅうの耳に口を寄せて話すと、りゅうの肩がビクッと跳ねた。

それから耳を押さえるりゅう。


「え?耳弱い?…フゥッ。」

「ああバカやめろ!ゾクってきた!今すっげえゾクってきた…!」


りゅうの反応が面白くて、耳を押さえてる手を退かしてりゅうの耳に息を吹きかけると、りゅうは俺から少し距離を取って、また耳を押さえ、さらに手で耳を擦り始めた。


そんなりゅうが面白くて笑っていると、りゅうは何か言いたげに黙って俺を見つめてくる。


「あーやべえわ。もうほんとやべえ。」


ようやく耳から手を離したと思ったら、りゅうはブツブツ独り言を言っている。


「なにがやべえの?」

「あ、さっき何て言ったっけ?りゅうくんとセックスしないで?」


りゅうは俺の問いかけには答えず、パッと切り替えるように先程の話に戻る。


「うんそうそう。面倒だからその手の話題は否定も肯定もしてねえよ。」

「えー、しないでとか言われたら逆らいたくなるなぁ。」

「バカ、なに言ってんの。」


冗談であろうりゅうのその発言だが、その意味分かって言ってんのか、と思いながらりゅうの頭をチョップする。

するとその俺の手をガシッと掴まれ、真面目な表情でりゅうに顔を覗き込まれた。


「いや、ガチで。」


そして真面目な顔して言われた言葉に、俺はその言葉の意味を考え、咄嗟にりゅうから一歩距離を取る。

そしたら一歩、りゅうが俺に近づいてくる。

また一歩りゅうから距離を取ると、りゅうは俺の手を取って俺を引き寄せた。


「おいおいりゅうちゃん正気かよ。」

「こぉちゃんなら俺イイかも。」


りゅうはにっこり笑いながらそう言って、俺に向かって顔を近づけ、なんとこのタイミングでキスしてこようとしてきた。

俺はこの時、りゅうがどこまで冗談で言ってんのか分からなかった。

まだ出会って間もないから、俺はりゅうのことをそれほどよく知らない。

こういう冗談は普通に言うやつなのかも、と思ったり。


しかしここでりゅうにキスされそうになった瞬間、背後から頭をペシンと誰かに叩かれ、それはりゅうも同じのようで「いってえ!」と声をあげて痛がっている。


「あんまりそういうことするの人目あるところではやめてもらえる?生徒会の名に恥じない態度を取れよ。」


きつい態度で俺たちを叱ってくる。
その人物は副会長で、りゅうは振り返り副会長を睨みつけた。


「はあ?なんだそれ。副会長さあ、俺と倖多が絡むことになんか不満でもあるんすか?」


うわー…りゅうめっちゃ喧嘩腰だ…。

俺は大人しくその場に突っ立っていると、不意に副会長と目が合い、副会長はわざとらしく笑みを浮かべながら、俺を見て口を開いた。


「…不満…そうだね。あるよ、不満。ね?新見。」


…いや、俺に話振らないでください。


「…あ、そう言えば珍しく会長は今一緒じゃないんですね。」


話を俺に振られた結果、俺は思い切り話を逸らした。すると無表情になる副会長。今絶対俺にイラッとしただろ。


「秀ならトイレ行ってるだけだけど。」

「あ、そうなんですか。」

「てか新見、話あるんだけど?りゅうちょっと新見借りる。」

「は?嫌っす。」


副会長が俺の手を取って引こうとした瞬間、りゅうが俺の逆の手を引いてきた。

え、待って、こういう展開困るって。俺が。


「…なにやってんだお前ら。」


困惑気味に副会長とりゅうに視線を彷徨わせていると、そこに会長が現れ、俺はこの時会長が救世主のように思えた。


「あ、会長!ナイスタイミング。副会長が倖多にちょっかいばっかりかけてくるんで困ってます。なんとか言ってもらえません?」


…救世主の…ように…

思えた……のはほんの一瞬で、りゅうの会長への頼みに場の空気が凍りつく。


苦笑した会長が、チラリと副会長に視線を向け、気まずそうに話しかける。


「……隆の嫌がることはすんなよ…。」


会長にそんなことを言われてしまった副会長は、さぞかし傷付いたような表情を浮かべて、俺の手を離して俺たちから背を向け、立ち去っていった。


「あぁっ!副会長!待ってください!!」


俺は咄嗟にりゅうの手を振りほどいて、副会長を追いかけた。


「えっ!?ちょっ、倖多!!!」


背後からりゅうが俺を呼んでいるが、俺は構わず副会長を追いかけた。

俺が副会長を追いかけたところでどうしようもないけど、副会長がやってることは全部会長のためなのに、報われない副会長が俺は気の毒に思ってしまって、もうまじで見ていられない。


「待ってください!副会長!!!」


背後から副会長を呼びかけると、副会長は立ち止まり、今にも泣きだしそうな顔をして、振り向いた。



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