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「エッチやっちゃってるんだってね?」
ああもう!!ちょっと待てよ!!!
もうこんな人の耳にまで今朝の話がいっちゃってるよ!!!
2度目の呼び出し。
お相手はりゅうの親衛隊の先輩だ。
ほら、あの、大人気ない先輩だ。
「…はぁ。」
否定したらしたで怪しまれても困るし、と気の無い返事をすると、キッと俺を睨みつけてくる先輩。
「もしかして付き合ってるとか言っといて実はセフレだったなんて言わないよね?」
「へ?…いや…そりゃないですよ…。」
何言ってるんだこの人は。
否定すると、伺うような目つきで俺を見てくる先輩に、思わず目を逸らしてしまった。
「セフレとか一番許されないよ?」
「いや、だから違いますって…。」
「僕だって隆くんに抱かれたいのに!」
「…いや、だから、違います…。」
どうやらこの人はりゅうに抱かれたい願望があるようだ。
俺を見る目は完全に妬みを含んでいる。怖い。
「隆くんどんなセックスするの?ムービー撮ってきてよ。僕にちょうだい。最中の隆くんの顔が見たい。」
「…え、あの、勘弁してください…。」
「ムービーくれないと僕キミらの関係認めないよ?」
「や、別に認めてくれとか頼んでないんで。」
「キミ、自分の立場分かってるの?僕キミと隆くんが何か隠してること知ってるんだからね?」
「…えっ。」
ドキッ…と先輩のその発言に、心臓がざわついた。
まさか、俺とりゅうが実は付き合ってるふりしてることを勘付かれてたりとか…
「実は隆くんがネコとか言い出すのはやめてよね、僕にも理想ってものがあるんだから。」
…んん…。
この人は何を言ってるんだ。
どうやら勘付かれてはいないらしい。
「あの、こういう話はあまり人にペラペラ話すようなことではないと思うのですみませんが俺からは何も言えません。ムービーも無理っす。ごめんなさい。」
もうさっさと話を終わらせて帰ろうと先輩に謝って頭を下げたが、先輩は俺の言葉にさらに興奮気味になって話を続けてしまった。
「やっぱり隆くんがネコだって言うんじゃないの!?僕はそんなの認めないよ?キミ澄ました顔して実はガツガツやるタイプとか、ほんとうに許されないからね?」
「…いや、あの、 話まじ全然見えないです。先輩、なにが言いたいのか簡潔にわかりやすく言ってもらってもいいですか?」
「なにが言いたいのか?そんな簡単なこと聞かないでもらえる?隆くんとセックスしないで。いくら付き合ってたとしてもこれだけは許されないから!」
…………はぁ。
なんなんだろうこの先輩。
ムービーくれって言ったりセックスするなっつったりどっちなんだよ。
俺はため息を吐いて、もう何も言わずに無言でその場から立ち去った。無言で立ち去る俺の背後で、先輩はまだなにかギャーギャー言っている。
どうやらこの人は、“親衛隊”…まさにその言葉通りの人間だ。
熱狂的なファンだけあって、恋人とセックスすることも許してくれないらしい。
いやそもそも俺とりゅうはやらないけど…。
*
「いいよなぁ隆は発散できる相手がいて。」
休み時間に突然、羨ましそうに祥哉から言われた話に、一瞬なんのこと言ってんのか分からなかった。
「俺も適当に誰かと付き合っても良いけど部活に支障が出るのはやだからなぁ。じゃあ一人でやっとけって話だけどそれもなんか疲れんだよなぁ。」
そこまで聞いて、なんとなく祥哉が何の話をしているのかを察する。
…あぁ、もしかして下の話してる?
“発散できる相手”と言われても、俺と倖多はそういうことやってねえけど、まあ付き合ってることになってんだからそういう目では見られてしょうがない。
そんで、周囲からそういう話をされてしまうと、嫌でも考えてしまうのが俺と倖多がそういうことしてる光景だ。
いやしかし不思議と嫌じゃない。気持ち悪さなどもなく、寧ろあるのは興味関心…
「…あ、やば。」
考えたらちょっと興奮してきてしまった。
無意識にちょっと前のめりになりながら股間を気にしていると、ニヤニヤしながら俺に視線を向けてくる祥哉。
「や〜ん、隆やらしー。思い出しちゃったの?ねえ?昨夜のこと思い出しちゃって勃っちゃった?」
憎たらしくニヤニヤ笑ってくる祥哉がムカつくが、そもそも昨夜もなにも俺と倖多はそういう関係ではないから、何も言い返せず祥哉の足を蹴りつけた。
「あっおいやめろよ!陸上部は足が命なんだからな!次の大会でベスト出なかったら隆の所為な。」
「はいはい、わかったわかった。」
あ、良かった。とりあえずなんとか鎮まった。しかし俺の倖多との行為に対する興味関心は増すばかりだった。
昼休みはなんかもう、倖多のところに行くことが習慣になりそうだ。
「こぉちゃ〜ん。」
廊下から倖多のクラスの教室を覗き込み、名を呼ぶと、俺の声にすぐに気付いた倖多が振り返る。
先程想像してしまったやらしー光景は頭の片隅に置き、席から立ち上がり俺の元に歩み寄ってくる倖多を眺める。
細身の身体や、どちらかというと色白な綺麗な肌、薄めの唇など、無意識に観察するように倖多を見ていたら、頭にチョップを食らった。
「りゅうちゃんころころ呼び方変わりますねぇ。」
「お、今の呼び方はお互いなかなかに良い感じだったんじゃねえか?」
「それは良かった。食堂行く?」
この倖多のさっぱりした感じの性格が俺は気に入っている。
倖多を『こぉちゃん』と呼んだ俺に合わせるように、『りゅうちゃん』と倖多に言われたことで、なんかちょっとテンションが上がる。
自ら倖多の指に手を絡めて、恋人らしさを醸し出しながら歩き始めると、倖多はクスリと笑いながら俺たちの繋がった手に視線を向けてきた。
「まじ違和感無さすぎて笑うわー。」
「えー?違和感ってなんのこと?」
そう言うこと口に出すのは禁止だ。
勿論、倖多が違和感無さすぎと言いたい気持ちは分かってる。俺たちの雰囲気があまりに自然だって言いたいんだろ?
良いじゃねえの良いじゃねえの。
こんなに自然な態度で恋人のように倖多に絡んでいる今が俺は楽しくて仕方ない。
調子に乗って俺は倖多のおでこに唇を寄せ、チュッとキスすると、倖多は唇同士でキスするよりも恥じらいのある表情を見せてきた。
「バッ…!バカ、なに今の、今のはマジ恥ずかしい…!なんでおでこ!?」
顔面を真っ赤に染め、おでこを両手で押さえる倖多。
…あ、やばい。
その表情、…結構キタ。
倖多の照れた顔がガチめに可愛いと思ってしまい、続いて俺はマジなやつのキスをした。
勿論、口と口が触れ合うやつ。
「…やっべ、止まんなくなる…。」
「いや真顔でなに言ってんの!?止めてください!!ここどこだと思ってんの!?廊下!ここ廊下だから!!!」
倖多は俺が冗談でやってると思ってるみたいだけど、俺はいよいよやばいな、と感じ始めた。
なにがやばいって?
俺が、倖多沼にハマりはじめているということだ。
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