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なんて言ったらいいのか。この感情はなんて言い表せばいいのだろう。なんか胸がモヤモヤして、居ても立っても居られなくなって、その光景を見た瞬間に、目を逸らす。


あ、そうか俺は、隆の事が好きだったんだな。って、はっきり自覚するの遅すぎだな。

多分この感情は、隆の恋人に対する嫉妬なのだろう。


1年間隆と生徒会活動をしていて、楽しかったり早く放課後にならねえかな、なんて考えていたりしたけれど、この感情が恋だなんて俺は気付きもしなかった。


そういやこいつはよく気付いたよな。

と、ふと俺の隣に立つ悠馬に視線を向けると、悠馬は何故か拳をギュッと握り締め、唇を噛み、立ち去る後輩の背中を睨みつけている。


「…おいおい、なに怖い顔してんだよ。」


自分にとって、密かにショッキングな光景を見た後だが、悠馬の表情があまりにインパクトが強すぎて、俺は思わず悠馬に声をかけた。

すると悠馬は、固く握り締めていた拳を開き、俺の腕を掴む。


「…秀、このままでいいの…?」

「え、なにが…?てか、なにお前、涙目になってんだ。」


腕を掴まれた悠馬の手は微かに震えていて、何故お前が?と問いたくなるように、悔しそうに目には微かに涙を溜めて、悠馬は俺を見上げた。


「秀がヘタレだから…。…秀がヘタレだから、俺がこんな思いをしなきゃなんねえんだよ!バカッ!」

「はあ!?ヘタレ!?なんでだ!?いきなりどうしたんだよ!?」


突然ガキみたいに怒りだし、俺の肩をバシバシと叩いてきた悠馬に慌てふためくと、悠馬はその後、ふっと力が抜けたように黙り込んで、大人しくなった。


「…意味わかんねえ。なに取り乱してんだ?お前らしくねえな。」

「…別に。秀にはどうせわかんないよ、…俺の気持ちなんて。」


は?悠馬の気持ち?なんだそれ。

この短時間で一体なにがあったって言うんだ?


数分前のことを思い返し、俺は隆と新見のキスを見て一瞬は落ち込んだ。でもその後にはもうこれで…、

……あ、そうか。


「あぁ、俺のこと心配してくれてんのか。」


そこで俺は、ふと思い浮かんだことを口にする。

恋に気付いた時にはもう遅い、失恋した俺の心配をしてくれてんのか、と。


「ヘタレで悪かったな。」


それから続けて開き直るようにそう言って、ポン、と悠馬の頭を叩く。

でも、俺のことで涙目になるほど心配してくれてるのが嬉しくて、「サンキュー。」と礼を言ってポンポンと悠馬の頭をもう一度軽く叩くと、悠馬は耳を赤くして俯いた。


「なに自惚れてんの…?俺は、秀があまりに可哀想だから…同情してやってるんだよ。」

「…あ…そうかよ。」


…そんな顔で自惚れだとか言われてもな…。

それは、十数年共に過ごして、

初めて見る、幼馴染みの顔だった。





「さっきの倖多のキス顔さー、ちょっとドキっとしたわー。目つぶってて可愛いかったぞー。舌入れても良かったんだけど?」

「舌は入れんでいいわ。」

「次キスするときは舌入れてやろー。」

「だから舌は入れんでいい。」


りゅうはさっきからキスの話ばっかり。

俺との恋人ごっこをマジで楽しんでいるように思う。てか抵抗もなくほいほいと普通にキスできるのって凄くね?


「ディープなのもちゃんとやってますって皆に見せたくね?」

「りゅうさぁ、俺と舌絡めんの気持ち悪くねえの?」

「え、倖多は俺と舌絡めんの気持ちわりぃって?」

「いや、そうとは言ってねえけど。普通は抵抗あるだろ。」

「んー…。でも俺倖多なら平気。」


りゅうは少し考える素振りを見せたあと、ニッと笑った。


「てかすでに1回経験済みじゃん?またやりてえなー。」


続けて話す、このりゅうの発言に、周囲にいた生徒が驚いたような顔をして俺たちに視線を向けてきた。


「えっ…1回経験済みだって…?」

「聞こえたね、今、瀬戸くんの口から。」


…え、ちょっと待って、なんか勘違いされた気がするんだけど。


「2人ってもうエッチやってるんだ…」

「えっ!違う!!!!!」


ほら!やっぱり!勘違いされてた…!!!

俺は、聞こえてきた周囲の会話に全力で否定した。…のだが、ニヤニヤ笑いながらりゅうが俺の肩に腕を回して、楽しそうに「違わねえだろ?」なんて俺の耳元で囁いてきた。


「はっ!?なに言ってんの、違うだろ!」

「バカ、否定すんなって。俺らの仲じゃん?」

「りゅうニヤニヤしすぎ。ああもう最悪、絶対勘違いされてる!」


ディープキスの話してただけなのに…。

ニヤニヤ顔で楽しそうなりゅうは、勘違いされても全然平気そうで、鼻歌交じりに登校し、俺のクラスの教室までついて来た。


「じゃあなー倖多ちん、またあとで。」

「…倖多ちんはやめて。」

「愛しの倖多ちん。」

「もういいってば。バイバイまたね。」


りゅうに背を向け、席に着くと、瞬時にクラスメイトに囲まれた。


「ラブラブじゃないですかぁ!!!」

「倖多ちん、だって!倖多ちん!」

「いっつも瀬戸先輩から倖多ちんって呼ばれてんの!?」

「呼ばれてねえよ!!!」


ああもう!

俺とりゅうこんなに普通にラブラブしちゃってて良いのかよ!!!

って、俺は今日、この日から、逆の心配をしはじめたのだった。


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