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「なんなんだよ!副会長のあの態度!!!すげえムカつくんだけど!!!」


4人で夕飯を済ませた後、りゅうは俺の部屋にやって来て、溜まった不満をぐちぐちと吐き出した。


「倖多に絡みすぎじゃね!?俺マジで喧嘩売られてねえか!?」

「落ち着け落ち着け。うんうん。りゅうの気持ちはよく分かる。」


でもあの人の行動は全部会長のためだから。って言えたらどんなに楽だろう。


ポンポン、と肩を叩いてりゅうを落ち着かせるように声をかけると、りゅうは一瞬ジッと俺を見つめてきた。

それから手首を掴まれて、グイッ引っ張られ、りゅうの身体に倒れ込む。


「うわっ。え、なに?」


突然どうした。とりゅうを見上げると、りゅうは倒れこんだ俺の身体を抱きしめてきたから、俺はマジでちょっとビビった。


だってなにも2人きりの時にこんな、ガチで恋人同士みたいなことしなくても。


「おーい?りゅう?どうした…?」


そう呼びかけると、俺の身体を抱きしめる手はそのままに、りゅうはジッと俺を見つめてくる。


「ちょっ、おいおいマジでどうしたんだよ。」


若干焦りを見せる俺に、りゅうは真面目な顔をして口を開ける。


「…副会長、絶対倖多に気があるだろ。」

「は!?いや、ねえよ!!!」


真面目な顔して何を言い出すのかと思えば。100パーセントあり得ないことを考えてしまっているりゅうに、俺は全力で否定した。

が、りゅうは「いーや、そうとしか考えらんねえ。」と険しい顔をして話す。


まあ確かに、俺とりゅうの仲を引き裂くようなことを考えてる副会長だから、りゅうにそう思われるのも仕方のないことかもしれないが。


こんな誤解をしているりゅうに、俺はどう返事をすればいいものか。


「で?なんで俺抱きしめられてんの?」

「仮にも俺の倖多に手を出したら許さない。」

「…“仮にも”なんだからそんなにカッカすんなよ。」


俺のその返答を聞いた後、りゅうは暫し落ち着いたように俺を抱きしめる手を緩めて、「…それもそうだな。」と言ってそっと俺から手を離した。


その後、俺とりゅうの間には暫し沈黙の時間が訪れ、妙な空気が流れている。


「…いや、でもやっぱ副会長ムカつく。」

「…うん、まあ気持ちはよく分かる。」

「つーか別に飯食ってる時はイチャついてもよくねえ!?」

「りゅうどんだけ俺とイチャつきたいんだよ。」


それは冗談で言った言葉だったのに、りゅうは真面目な顔をして俺に返事を返してきた。


「倖多とイチャつく楽しみを覚えてしまった。」

「何言ってんだ恥ずかしい。」


俺は、真面目な顔をしているりゅうの頭にチョップした。



その日を境に、りゅうは俺との恋人ごっこに火がついたように感じる。


「倖多倖多倖多ぁ〜、今晩俺お前の作った唐揚げが食べたいなぁ〜!」


翌日の朝から俺の名を呼びまくり、俺の身体に触れまくり、甘えるように話しかけてくるりゅうに、周囲は物珍しそうに彼を眺めている。


「…瀬戸くんって恋人の前じゃあんな人になるんだ…。」


そんな風に口々に噂されているりゅう本人はしてやったりな表情で、なんだか満足そうに見える。


「…あんまりわざとらしいと逆効果だと思うんだけど。」

「シッ!そういうこと外で言うの禁止な。」

「…うーん…。」


あんまりこう、恋人らしくすればするほど、副会長が邪魔してくるだろうからまじで逆効果だと思うんだけどなぁ…。


りゅうの言動に悩んでいると、「隆、新見おはよ。」と正面から歩いてきた人物に挨拶された。


「おはようございます、会長。」


それは、相変わらずの人気者オーラを撒き散らした会長で、挨拶を返すと会長はふっと軽くぎこちない笑みを浮かべてから、りゅうに視線を向けた。


ガシッとりゅうの頭を鷲掴んだ会長は、「朝っぱらから見せつけやがって!」と言ってグイグイとりゅうの頭を揺さぶっている。


そんな2人の姿は、仲の良い先輩後輩という雰囲気が漂っていて、見ていて微笑ましい。


じゃれ合っている2人を眺めながら無意識に笑っていると、スッと俺の隣に誰かが並んだ。

誰か…っていうか、言わずもがな…

会長と共に現れる人物なんて、副会長くらいなのだが。


「新見おはよ。」

「…おはようございます。」

「今日は1年の次席の子勧誘するつもりだから新見も挨拶くらいしときなよ。」

「えっと…、杉谷(すぎや)くん…ですよね。了解です。」

「うんそうそう。いい子いい子。」


昨日は次席のクラスメイトを知らなかった俺に嫌味を言ってきたくせに、今日は次席のクラスメイトの名を口にすると必要以上に褒めてきた。

俺の頭に手を置いて、髪を撫でてくる副会長。

俺はそんな副会長の手を、りゅうがこっちを見る前に素早く振り払った。


「なんか、…みんな逆効果なことばかりしますよね…。」


副会長は会長のために俺とりゅうの仲を壊したいのだろうけど、副会長の行動はきっと逆効果だ。

副会長は自分の行動で、ただただりゅうを刺激しているだけだということに気付かないのか。

副会長の行動はあまりに無意味すぎる。


「…そんなに好きなら、副会長が会長を振り向かせたらいいのに…。」


俺は、悪循環を繰り返す副会長に、だんだんイライラしてしまった。…いや、イライラならとっくにしまくってるけど。


「…りゅう、早くご飯食べて学校行こ。」


先輩相手にも関わらず、イライラを抑えきれなくなった俺は、会長からりゅうを引き離した。


「お、おう。ん?倖多?どうした?」

「…りゅうが会長と仲良くしてたから俺嫉妬しちゃった。」


勿論こんな台詞は心からのものではないけれど。この声はきっと、副会長にも聞こえているはず。


副会長と会長の前から立ち去る間際にチラリと副会長に視線を向けると、バチっと副会長と目があって、それから、不機嫌そうに俺のことを睨みつけていた。


副会長、俺、あなたが無意味なことばかりしてくるから決めました。

俺、副会長のやってることを邪魔します。


りゅうは俺との恋人ごっこに夢中ですから、今のりゅうは副会長が何したって会長には振り向きませんよ。


だから、そんなに好きなら副会長が会長を振り向かせればいいだけの話ではありませんか?


回りくどいことなんかしなくても、

簡単なことじゃないですか。


「…りゅう、キスしようぜ。副会長の前で一発、熱いキス見せつけようぜ。」

「えっ!なにいきなり!どうした倖多ちゃん。」

「いいから。早く、キスしてよ。」


俺は、会長と副会長が見ている前で、りゅうからのキスを求めた。


「まあ倖多がその気なら俺は全然構わねえけど。」


そう言って、チュッとりゅうが俺にキスをする。

互いの唇が触れ合った後、チラリと副会長に視線を向けると、目線を下げ、暗い表情をしている会長を、心配するように見ている副会長の姿があった。


「サンキューりゅう、ナイスキス。」


副会長、あなたの役目は、傷付いた会長を慰め、支え、振り向かせれば良いのでは?


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