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生徒会の活動は今日は仕事内容などの説明だけで終わり、祥哉先輩は陸上部に顔を出しに行くと言って、さっさと生徒会室を出て行った。
「倖多ー、帰ろうぜー。」
やっと帰れるのが嬉しいのか、弾んだ声で斜め前の席に座った俺に声をかけてきたりゅう。
そんなりゅうに、声をかけたそうにチラチラ視線を向けている会長に、俺は気付いてしまった。
けれど、会長はりゅうに声をかけず。目線を下げ、なんだか寂しそうな表情だ。…この人、分かりやすいなぁ…。
そこで、りゅうに話しかけたのは、副会長だった。
「隆せっかくだから夕飯みんなで食べようよ。」
まるで副会長の発言全てが、会長のためのように思えてしまう。会長はなにも言わずに、りゅうの返事を待つように、顔を上げてりゅうに視線を向けた。
「え、…あー…。」
しかしりゅうは、副会長の誘いに困ったように俺に視線を向けてくる。
『どうする?』って目で訴えられてる。
…まあ、せっかく副会長が誘ってくれてんだから今日は食堂で食べようか。って少し前までの俺なら思えるんだけど、正直あまり気は進まない。
けれど、そんな俺の肩に副会長の腕が回り、にっこりと愛想の良い笑顔で「新見も、ね?ご飯一緒に食べよ?」と今度は直接誘われてしまった。
「あ、はい。」
俺は勿論、頷く。
だって1年の後輩が3年の先輩の誘いを断れねえよ。
俺は、「行きましょうか。」と言いながら、副会長の腕をやんわりと引き離した。
「隆と飯食うの久しぶりだな。」
みんなでご飯を食べることになり、会長が少し表情を緩めてりゅうに話しかけた。
「そっすね。あ、倖多とも仲良くしてやってください。」
「…おう、分かってる。」
一言、二言、りゅうと会話をしてから、会長の視線が俺に向いた気配がした。
部屋の外へ順に出て、会長が生徒会室の戸締りしているのを待つ。
さて、行こうか。と歩き始めようとした時、「新見…」と名前を呼ばれ、俺は会長の方へ振り向いた。
先に歩き始めていた副会長とりゅうの数メートル後ろを、会長と並んで歩き始める。
「…学校は、どうだ?…慣れてきたか…?」
なんだかぎこちない態度で話しかけてくる会長。会長の目をジッと見ても、まったく目が合わなかった。
「…んー、ちょっとは慣れました。でもまだまだ…。」
「…そうか。…まあ、…相談とかあったら、…あ…。隆に話すか。」
相談とかあったら、聞くから。って言ってくれようとしたのだろうか。
一言一言、言葉を選んで話しているように感じる。なんだろう、…この人は、なんだか憎めない人だと思った。
思えば、りゅうが入学して間もない、右も左もわからず不安でしょうがなかった頃、りゅうを支えたのは会長なのだろう。
俺がりゅうに助けられているように。
きっと、優しいんだろうなぁ、会長は。
副会長は、そんな会長が放っておけないのだろう。だから、俺にいじわるばっかり…。
でも、じゃあ、付き合ってるって嘘ついてる俺が、副会長を怒れる立場かな?ってふと思ってしまった。
純粋にりゅうのことが好きな会長の気持ちを思うと、俺はどうにも罪悪感で溢れてしまいそうになる。
「…会長、俺には、…りゅうにだって話せないこととかありますよ。」
「…りゅうに話せないこと…?」
「…その時は、会長を頼ってもいいですか?」
問いかけながら、チラリと身長差のある会長を見上げると、そこで会長と始めて目が合った。
「…お、おう。まあ、俺でいいなら…。」
会長はそんな返事をしながら、気まずそうにして襟足を掻いた。
「…会長、俺と話すの苦手っすよね…。」
「…えっ、いや、そんなことは…。」
ふと話題を変えた俺に、会長はあからさまに狼狽えるのであった。
りゃう、会長、副会長と共に食堂を訪れると、それはもう盛大に生徒たちに歓迎されている彼らの様子に、俺は居心地が悪くなる。
だから、無意識に彼らから徐々に距離を置いて歩いてしまっていた俺だが、副会長がそんな俺の手を引いてきた。
「なにのろのろ歩いてんの?早く来なよ。」
グイッと強引に引かれた手だが、素早くりゅうが俺と副会長の間に入った。
「副会長、倖多に触んないでもらえますか。」
そう言って、副会長の手を払い除けて俺の手を握るりゅうに、副会長は不満気な表情を浮かべる。
「もう生徒会の活動終わったんでいいっすよね。」
さらにりゅうは続けてそう言い、俺の手に指を絡めてきた。
まるで本当の恋人のような態度を俺に取るりゅうが、ちょっと凄い。りゅうのことをチラリと見上げて見つめると、りゅうはニッと歯を見せて俺に笑みを向けてきた。
しかし俺とりゅうのそんなやり取りを前にした副会長は、「んー、ダメかな。まだ生徒会の活動は続いてるんだよ。」と言って俺とりゅうの手を強引に引き離し、再び俺の手を引いてズンズン歩き始めた。
「はあ!?終わっただろうが!!!おい!副会長!俺に喧嘩売ってんのかよ!」
背後からりゅうの不満気な声が聞こえる中、副会長は聞こえているはずなのに相手にはせず。
会長が苦笑しながらりゅうに話しかけていた。
「後輩が先輩と飯食いに来てるのにそんな時にイチャつくなんて許されないよ?」
俺の手首をギュッとキツく握りながら、俺の耳に口を寄せて話しかけてくる副会長。
それもそうかもしれないけど、副会長が無駄に俺に触れてくるから、りゅうが過剰に反応してしまうんじゃねえのか?と思って俺は副会長に指摘する。
「副会長がりゅうを挑発するように俺に絡んでくるからでは?」
「せっかく可愛い後輩ができたのに先輩に絡むなって言うんだ?ひどいね。」
「…可愛い後輩とか思ってもいないくせに。」
「あ?なんか言った?」
「………いえ。何も。」
ボソッと口から漏れ出た本音が副会長に聞こえてしまったのか、ギロッと横目で睨まれる。こわい。
とにかく会長の前では極力りゅうとの関わりを減らせば、副会長は必要以上に俺に絡んでくることも無いだろう。と考え、俺は自らりゅうと離れた席…副会長の隣に腰かけた。
そして俺の正面に座ったのは会長で、少しぎこちない空気の中食事をする。
ムスッとした顔で箸を持ったりゅうに、チラリと視線を向けた会長が「…隆不機嫌だな。」と声をかけた。
声をかけられたりゅうは、会長に目を向け口を開く。
「会長、これって生徒会の活動なんすか?」
「へ?」
突然りゅうに問いかけられた会長は、キョトンとした表情を浮かべた。
「生徒会の活動は、生徒会室を出た時点で終わってると思いません?」
「…ん?まぁ、そうだな。」
りゅうの発言に会長が頷くと、すぐさまりゅうの視線が副会長へ向けられる。
ほら!と言いたげに副会長を見るりゅうだが、副会長はそんなりゅうを無視してもぐもぐとご飯を食べている。
「あ、俺しいたけ嫌い。新見食べて〜。」
そして副会長はそう言いながら、ポイと俺の皿にしいたけを放り込んできた。
「…りゅうが何か言いたげに副会長を見てますけど。」
「好き嫌いは誰にでもあるだろ。」
「…いや、そうじゃなくって。」
りゅうが今副会長に訴えたいのは、この時間は生徒会の活動時間外だと言いたいのだ。
副会長の好き嫌いなんてどうでもいい。
しかしそんな話題からは逸らすように、副会長はポイポイとしいたけを俺の皿に放り込み続けるのだった。
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