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放課後、副会長が来る前に、俺のところに現れたのはりゅうだった。
「倖多ー。」
ヒラヒラと手を振りながらにこやかに現れたりゅうの笑顔に、なんだか気持ちがホッとする。
「りゅうー…俺もういやだぁー…。」
ついつい副会長の愚痴をこぼしそうになった。
なんなんだよさっきの。副会長が会長のこと好きっつったって俺そんなの知らねーよ…。
でもそれを事細かくりゅうに話すことができなくて辛い。だって、この話をしようとするには、会長がりゅうのことを好きって話しもしなくちゃいけないから。それはさすがに俺の口からは言えない。
「ん?…なんかあった?」
「…俺生徒会役員になっちったよ。」
「嫌だったらはっきり嫌って言えよ?俺が言ってやろうか?」
「…いい。…生徒会、やる。」
ここでもしりゅうが俺のために生徒会断りの手助けなんてしてくれたら、副会長の逆鱗に触れそうで怖い。
りゅうに返事をしながら、鞄を持って席から立ち上がる。
けれど俺は、ハッとしながら再び椅子に座った。
「ん?倖多?どした?」
「…副会長が迎えに来るんだった。」
「はぁ?なにそれ。要らなくね?生徒会室行くだけだろ?」
「冷たいこと言うね、隆。去年隆のところにも秀が迎えに来なかった?」
「ぅわっ…、びっくりした。」
突然副会長の声が背後から聞こえたかと思えば、副会長の腕が俺の胸元に回ってきた。
隆の前でなにを考えてるんだこの人は。
ギョッとした顔でチラリと副会長に視線を向けると、副会長ににっこりと微笑まれる。
「おまたせ、新見。」
「…副会長、あんたなに考えてんですか?俺に喧嘩売ってます?」
恋人のフリをしているとは言え、副会長の行動にりゅうが本気でキレているような気がする。
俺はやんわりと副会長の腕を振り払い、席から立ち上がった。
「副会長スキンシップ激しいっすね〜!りゅうが嫉妬しちゃうじゃないですかぁ!」
ここで隆バーサス副会長になられると困ると思い、俺はおどけた口調でそう言って、りゅうの身体に抱き付いて見せた。
するとその瞬間、副会長がサッと表情を無くし、冷ややかな口調で口を開いた。
「あ、そういうの生徒会活動中は禁止だから。気を付けてね。」
「じゃあ行こうか。」と教室出入り口にさっさと向かって行く副会長の背中を、りゅうが不機嫌そうに睨みつけている。
睨みつけたくなる気持ちはよくわかる。
「なんだよ…意味分かんねえ、クソ腹立つわ…。」
副会長の背中に向かってブツブツ言っているりゅうに、俺はポンポンと肩を叩いて話しかけた。
「りゅう、残念だけど生徒会活動中はイチャつき禁止っぽいから帰るまで我慢だな。」
これは、副会長への当てつけのように。
副会長にも聞こえるように、わざとらしくりゅうにそう言うと、りゅうは不機嫌そうな表情をやめて、フッと口角を上げて笑ってくれた。
「あぁ、そうだな。帰るまで我慢だ!」
元気よくりゅうがそう返事した瞬間の、副会長の恐ろしく冷ややかな表情を、俺もりゅうも見ることはなかった。
「…あー…まじぶっ壊してえ。」
それから、副会長のそんな呟きも。
*
「…に、新見…、生徒会に入ってくれてサンキューな…。俺は3年Sクラス、生徒会長の、ま、松村 秀だ…。」
緊張してるのか?
それとも無理をしているのか?
なんなんだろう。笑いそうになるほど引きつった表情で俺を生徒会室に招いてくれた会長に、まさか『今更なに言ってんですか、知ってますよ、何度か顔合わせましたよね。』なんて言えるわけもなく。
俺は「1年Sクラス、新見倖多です。こちらこそ、生徒会に勧誘してくださりありがとうございます。よろしくお願いします。」とあらゆる感情を押し殺して、できるだけ丁寧に生徒会長に返事をした。
「新見はここの席使ってね。」
そう言って、俺を生徒会室のデスクに案内してくれたのは副会長で、先程の冷ややかな表情が嘘みたいに今はにこやかだ。この差が俺には恐怖でしかない。
無表情でりゅうも席に着いたが、りゅうの座った席は会長の隣、それから、俺から一番離れている席だった。
あまりに意図的すぎる席順に、思わず副会長に視線を向けてしまった俺は、その俺の視線に気付いた副会長に満面の笑みを返されてしまった。
「ちなみに俺はここだから。新見、わからないことがあったらなんでも聞いて?」
「…ありがとうございます…。」
最悪だ。俺副会長の隣かよ。
「あれ?そう言えば祥哉(しょうや)は?」
「あいつなら部活の勧誘があるって言ってましたよ。」
「はぁ?今日は生徒会優先しろって言ってたのに。」
俺の目の前にある空席に、思い出したようにそんな会話をする副会長とりゅう。
しょうや?
…あと一人生徒会役員が居るのかな。とぼんやり考えている中、無意識にりゅうに視線が向いてしまっていたようで、ハッとした時にはりゅうと目が合い、りゅうは俺に「祥哉っつって、生徒会と陸上部掛け持ちしてるやつ。」とその生徒のことを教えてくれた。
「ふうん。」と俺が頷いた直後、「隆!祥哉探してきて!」と副会長がりゅうに命令する。
「えぇ?」と嫌そうな顔をするりゅうだが、渋々席から立ち上がり、めんどくさそうに電話をかけながら、生徒会室を出て行った。
りゅうが生徒会室を出て数分間は、副会長と会長で「あと1年から1人、次席の子勧誘する?」「ああ、そうだな。」だなんて2人で会話を始めてしまい、なんだか居心地が悪かった。
けれど、そんな俺に気を遣ったように、「に、…新見は、1年の次席の奴と仲良いか…?」とこれまた引きつった表情で俺に話しかけてきてくれた会長。
いちいち顔引きつってしまうのはなんなんだろう。俺のことが嫌いなのに無理して話してくれてるんだろうか。
「…えーっと、次席って言うと…?」
「…うわぁ、首席様まさか次席のクラスメイトも知らねえのかよー。」
会長に問い返したのに、隣からボソッと嫌味な言葉が聞こえた。つい、イラッとして副会長を睨みつけると、副会長はニヤッと笑っている。
まじこの人、なんなんだよ!!!
徐々にこの人の本性を見せられている気がする。
あらゆる顔を見せてくる副会長に、俺は今日1日振り回されまくりだ。
落ち着けよ俺、こんなのでイラついてたらこの先やってけない。
「ん?悠馬なんか言ったか?」
「いや?なにも言ってないよ。」
いや今俺に嫌味言っただろ!!!
会長に隠れて後輩に嫌味を飛ばす副会長に、副会長の性格の悪さを思い知った。
数分後に、「お待たせしましたー」と生徒会室に戻ってきたりゅうに、俺はホッと息を吐く。
…が、それも束の間。
「あ!どうもー、隆の彼氏くん。」
ジャージ姿で現れた、噂の“祥哉”先輩に、この人は多分、空気が読めないタイプの人間だと直感した。
この人が『隆の彼氏くん』なんて言葉を使ってしまったから、俺は怖くて会長と副会長の顔が見れない。
「あ、…えっと、新見です。よろしくお願いします…。」
「じゃあ祥哉も揃ったところで、今後の活動の話をするよ。」
祥哉先輩が席に着いたところで、さっさと副会長が話し始めた。
話題を素早く変えてくるあたりさすがだな。
その後副会長は、俺とりゅうが会話をする隙を、少しも与えなかった。
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