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「さっき副会長と何話してた?」

「んー…。」


りゅうに問いかけられ、返答に困った。


手首をギュッと握られて、連れてこられたのは空き教室だ。

副会長と俺が2人でコソコソ話していたのがそんなに気に食わなかったのか、りゅうはいまだに不機嫌そう。


「副会長が倖多に何の用だったんだよ。」

「…んー…。…生徒会の話とか。」


まさか先程話した内容をりゅうに言えるわけもなく、そんな曖昧なことを言えば、納得いってなさそうにりゅうの眉間に皺が寄った。


「…怖い顔。そんなに怒んなよ。」

「…怒るだろ。わざわざ授業抜け出して二人で話す必要なんかあるか?」

「俺とりゅうのことが聞きたかったんだと思う。怪しまれてんのかも。…で、…俺、言いそうになった。なんか、嘘つくの辛くなってきたかも…。」


俺がりゅうにそう言った瞬間、りゅうの顔付きが少し変わった。


「…なあ、会長と副会長がりゅうの信用できる先輩なんだったら、俺らのこと話したらどうかと思うんだけど。」


さらに俺が続けてそう言った直後、りゅうはもっと不機嫌そうな顔をして、「イヤだ。」と言い切った。


「俺も最初は生徒会にくらいなら言ってもいいかもって思ってたけど、でもやっぱダメ。言ったらダメ。俺、倖多と2人だけの秘密がいい。」


りゅうはそう言いながら、俺の身体を引き寄せ、ギュッと抱きしめてきた。


そしてりゅうは、俺の耳元で囁く。


「…教室の外に誰か居る。」

「えっ」


突然言われたことに驚いて声が漏れてしまった俺だが、それをカバーするようにりゅうが俺の口を塞いできた。


「ンッ!…えっ、ちょ、あッ!」


そしてまさかの俺の口の中に舌まで入れてきたりゅうが、俺の背に手を添えながら、そのまま身体を押し倒してくる。


あまりに激しいその行為に、息が上がり、頭がクラクラする。


角度を変えて何回も、りゅうは俺にキスをしてきた。


それから数秒後、りゅうはキスを止め、唾液の糸を引きながら互いの唇は離れていった。


ふと、顔を上げるりゅうが、外に向かって呼びかける。


「覗き見やめてもらえませんか。」

「はーい、ごめんなさーい。」


すると、悪びれる様子もなく陽気にそこから去っていった生徒が居た。


その声は、多分、りゅうの親衛隊隊長だ。


「…な?油断できねえだろ?」

「…うん。」


確かに油断はできないけど…。

いつまでこの体勢なんだろう。


りゅうは暫く、俺の身体を押し倒したまま語りかけてきて、離れなかった。


「…りゅうにディープキスされた…。」


よろりと身体を起こしながら呟いた時、りゅうは俺を見て、へらりと笑っていた。


「やべーな、俺クセになりそう。」


楽しんでんじゃねえ。

りゅうのばかやろう。





「嘘、ってなんのことだろうねえ松村?」

「…は?」


同じクラスの有坂は、隆の親衛隊隊長だ。傲慢な態度で俺はあまり好きではない。多分、…隆も。

そして、親衛隊の存在を隆は快く思っていない。それは、隆が高校に入学してきて間もない頃からよく愚痴を聞いていたから、知っていた。


「隆くん、なにか隠してるよね。新見 倖多と一緒に。」

「……隠してる?何を?」

「…チッ、知らねーのかよ。じゃあいいや。」


おい、今こいつ俺に舌打ちしやがったぞ。てめえには用は無いと言いたげにさっさと俺の前から立ち去った有村に、イラッとしたがこいつはこういう奴だから、イラッとするだけ無駄な事。


そんなことより、


「…隆が隠してる?新見と一緒に?…何を?」


あいつの言っていた事が、頭の中で引っかかった。

俺にもなにか隠してんのか?…隆が?俺は知らなくて、新見は知ってんのか?

…一体、何を?


「うわ、怖い顔。どうした?」

「…なあ悠馬、隆と新見って、2人でなんか隠してんのか?」

「隠す?なにを?」


隆と新見のことを考えていた時、俺の顔を覗き込んできた悠馬に問いかけたものの、悠馬も知らないようで俺と同じような反応を見せた。


「…有坂がさっき…」

「有坂?あいつが何か言ってたの?」

「隆がなんか隠してるって。新見と一緒に。」

「…ふうん。」


悠馬にそのことを話せば、悠馬は特に興味無さげに頷く。


「なんだと思う?隠してることって。」

「さあ?大したことじゃないでしょ。どうせ。有坂が言ってたことなんか気にしなくていいんじゃない。それよりどうする?生徒会勧誘のこと考えないと。」

「…ああ、それな。…もう新見倖多でいいや。1年から探すのめんどくせーし。」


とは言ったものの、本当は隆を怒らせたくないため。自分が隆に嫌われたくないためだ。

隆と新見が2人で仲良さ気に活動している姿なんて見たくねえってのが本音だが、そんなこと口に出すのも恥ずかしい。

けれど、どうせそんな俺の気持ちを、こいつ…悠馬は見透かしているのだろう。


「まあ、心配しなくても活動中にイチャつきでもしたら俺が注意するから。」


そう言って笑っている悠馬に、俺は無言で頷いた。


「新見には俺から声かけとくよ。」

「ああ…頼む。」


…助かった。

悠馬から申し出てくれてよかった。


俺は、自ら新見を勧誘しに行く勇気が無い。

昔から俺は、何故だか偉そうな態度でリーダーのように人の上に立っているものの、下から俺を支えてくれるのは、いつも悠馬だった。


「秀はちゃんと隆と和解しておいてね。ギクシャクされたら周りが迷惑だから。」

「…あとでもう一回隆と話してみる。」

「新見を生徒会に勧誘すること、秀から隆に報告しな。あ、くれぐれも新見の悪口は言っちゃダメだよ。」

「…分かってる。」


さすがに同じ失敗はもうしない。…多分。


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