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副会長に連れて来られて、やって来てしまった誰もいない生徒会室。
「まあゆっくりしなよ、授業中で誰も来ないから。」
……と言われても。
ゆっくりできるわけがない。
てか入学直後の後輩をサボらして良いのかよ生徒会役員…。
「新見、コーヒー飲める?」
「…あ、…お構いなく…。」
「そう固くならずにリラックスして。」
…いや無理っす。
応接間のような空間で、ソファーに座らされて、俺は一体何のためにここに連れて来られたのだ。
コトッと音をさせてコーヒーカップを差し出してくれた副会長が、俺の目の前に座り上品にコーヒーを飲み始める。
俺もとりあえず、とカップに口を付けたものの…
「あつッ…!!!」
熱くて飲めなかった…。
すると、クスリと笑い声を漏らす副会長。
見たものを虜にさせる、綺麗な容姿だ。
「ちょっと内緒話でもしない?」
「……内緒話?」
「俺、新見のこと結構知りたいからまずは俺のこと聞かせてあげる。」
…いや…、聞かせて要らねえっす…。
とは言えず。
副会長は話し始めてしまった。
「俺、秀のことが好きなんだ。」
……おぉ…、わりとぶっちゃけたことを俺に言っちゃうんですね…。
俺は、驚きのあまりに開いた口が塞がらなかった。
「そう…なんですか…。」
「うん。誰にも言ったことないけどね。」
…え、じゃあなんでわざわざそんなことを俺に言ったんだ。
そんな疑問が顔に出ていたのか、副会長は話を続ける。
「新見は秀が隆のこと好きって気付いてるでしょ?」
「……あ、やっぱ、そうなんですね。」
「でも隆は新見と付き合ってる。新見が入学してきて、隆と付き合ってるって聞かされた秀は、突然の失恋だよ。俺はそんな秀を見てらんないんだよ。だからなんとかしてあげたい。」
副会長はとても真剣な目をして、俺にそう話してきた。
副会長は会長を好きで、会長は隆を好きで、って…。すげえ複雑な関係じゃねえか。
「…好きなのに、自分が会長と結ばれようとは思わないんですか?」
「秀は俺をそんな目で見てないから。俺のことは良いんだよ。」
すごい、この人。
自分のことより、好きな人の恋を応援してるんだ。
「だから言ってしまえば、俺にとって新見は邪魔者ってことになるよね。」
「……そうですね。」
…はぁ。俺もうヤダ…。帰りたい。
ストレートに邪魔者だなんて言われて、ちょっと心にグサっときた。
会長には嫌われ、副会長には邪魔者扱い。
さすがに心が折れそうだ。
付き合っているフリをしているということが、だんだん申し訳なくなってくる。罪悪感が増してゆく。
いっそ、この人たちには、本当のことを言ってしまった方が気が楽なんじゃないか?と俺はその時思ってしまった。
「……副会長、俺の話を、聞いてくれますか。」
この時、副会長の表情が、待ってました!と言わんばかりににこやかな表情になった。
何故なら副会長が俺をここに連れてきて、自ら内緒話をしてきたのは、俺の内緒話を聞き出すためだから。
「実は俺…、りゅうとは…、」
りゅうとは付き合っているフリをしているだけなんです。
言ってしまおうと思ったけれど、簡単には口から出てくれなかった。
「ん?隆とは、何?大丈夫だよ、誰にも言わないから言って?」
副会長は、にこやかな表情で話の続きを促しながら、俺の間隣に移動してきて、肩を寄せて座った。そして、俺の顔を覗き込んでくる。
その距離があまりに近過ぎて、顔を引いてしまった。
「…すみません。」
それから、口から出たのは謝罪の言葉で。何故かと言うと、やっぱり本当のことを言うのは気が引けた。
りゅうとの2人だけの秘密を、俺が勝手に人に話すなんてことはやっぱりできない。
一度、りゅうにこの話をしてみよう。
と、そんなことを考えていた時、生徒会室の外から話し声が聞こえた。
「…ん?秀と、隆…かな?」
話し声がだんだん近付いてきているのを察した副会長が、なんとその瞬間驚きの行動に出る。
「えっ…副会長?」
元々近かった副会長との距離がさらに近付き、副会長は俺の肩に腕を回してきた。
そしてその直後、生徒会室の扉が開き、
「「え…??」」
りゅうと会長の、唖然とする声がシンクロし、キョトンとした顔で俺と副会長を見つめた。
「…あれ、お前ら何やってんの?」
「新見と秘密のおはなし中ー。」
その場で第一声を発したのは会長で、副会長がにこやかにそう返事する。
そんなやり取りの最中、俺はりゅうに目が行き、チラリとりゅうに視線を向けると、りゅうも、何か言いたそうな顔をして俺を見ていた。
「そっちこそ2人でなにしてんの?」
「…俺は、昨日言ったこと隆に謝ろうと思って…。」
「別に俺は会長の謝罪なんて求めてはいないっすけど。それより副会長、授業中にコソコソ何やってんすか?絶対俺の目盗んでやってますよね。」
会長と副会長のやり取りに口を挟んだりゅうは、若干怒り気味の不機嫌そうな顔をして、俺の腕を引っ張り、副会長から俺を奪うように俺の身体を引き寄せた。
今のはまるで、ほんとの修羅場のように感じてしまった。何故なら、副会長と一緒にいた俺を本気で嫌そうにしていたから。
「…りゅう、…ごめん。」
「なんで倖多が謝んの、どうせ副会長に連れてこられたんだろ。」
…いやまあそうだけど…。
そんな、先輩を悪者みたいな扱いして、お前大丈夫なのか。
なんか、どんどんりゅうの周りの関係が拗れていく気がして、俺はこんなんで良いのか、不安になった。
「…へえ。隆そんなことで怒るんだ?」
「そんなこと?普通怒ると思いますけど。」
「ふうん、そっか。ごめんね。」
悪びれる様子もなくサラリと謝る副会長に、りゅうはずっと眉間に皺を寄せた不機嫌面で、何も言わずに俺の手を引いて、生徒会室を後にした。
「…なーんだ、結構真面目に付き合ってるんだ。」
副会長のそんな呟きは、バタンと閉まる生徒会室の扉の音で、かき消された。
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