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「あ、なぁりゅう。俺今晩から夕飯自炊する。」


昨日から考えていたことでもあるが、先程会長と接したあと俺は決めた。自炊する!


食堂の美味しいオムライスも良いけど、やっぱりご飯は落ち着くところでゆっくり食べたい。


りゅうにそのことを話すと、「じゃあ俺も。」と頷いた。


「倖多の分の食材代も俺が出すから倖多俺のも作ってよ。」

「いや別に俺も出すから。一人分も二人分も変わんないから気にしなくていいよ。」

「でも倖多の負担になるのやだし。元々俺のわがままで始まった関係だし。」

「いや待って、それはもう言うのなし。俺りゅうの存在にだいぶ救われてるってことちゃんと言っとく。」


そりゃ最初に言いだしたのがりゅうだからりゅうのわがままみたいに思えるかもしれないけど、俺はりゅうが俺を選んでくれて良かったと今ならめちゃくちゃ思っている。


「俺りゅうが心の拠り所だから。」


と、何気なく口にしたその言葉に、りゅうはすげー嬉しそうに顔を綻ばせた。


「やべえ、…俺お前好きだわ!!!」


そして、わりと大きめな声でりゅうがそう口にするから、周囲から視線がチクチク突き刺さってくる。


雰囲気的には、恋人っていうか、友人にノリで言う『好き』って感じ。友情が深まってきた感じ。

けれど俺は、その今のりゅうの言い方が本心から言ってくれてるような気がして、すっごい嬉しかった。


「やべえ、今の告白は超嬉しかったわ。」


だから俺は、ニッと笑ってりゅうに言うと、りゅうは俺の方へ手を伸ばしてきて、俺の髪をグシャグシャと撫でた。


「学校終わったら一緒に買い出し行こうなっ!!!」

「おう!食べたいもの考えといて!」

「倖多の好きなもんでいいよ!」

「オッケー!じゃあ俺の得意料理にする!」


その後はりゅうと、夕飯の会話をして、楽しい昼休みを過ごした。

やっぱりりゅうとの時間が、俺の心の拠り所になりつつあるな。と思ったのだった。





「へえ、普通に仲よさそうだねぇ。正直ちょっと胡散臭いって思ってたけど。」


新見と隆が昼休みに食堂で二人でご飯を食べている姿にそんな感想を漏らせば、ふくれっ面な秀に睨みつけられた。


「隆があんなに楽しそうに会話してるとこってあんまり見たことないよね。」

「チッ…。」

「ねえ、秀そんなに分かりやすくて大丈夫?多分新見にバレたと思うよ?」


さっき秀が2人に絡みに行った時見てたけど、新見の秀を見る目はなんだか秀を憐れむような目に感じた。


「バレるって?なにを?」

「だから、秀が隆を好きなこと。」

「はッ!?!?」


秀にそう教えてあげると、あからさまに動揺したような態度を見せる。


「秀が分かりやすいってのもあるけど、あの新見の人を観察するような目が侮れないよね。しかもあいつ秀に関わりたく無さそうだったし、無難な言葉で躱されたのお前気付いてる?」

「は!?別に躱されてねえよ!普通だっただろ!!!」

「まあその調子じゃ略奪は無理だね。」


そもそも自分の気持ちに気付いてすらいなかった秀が略奪もクソも無さそうだけど。

そんなに嫉妬心丸出しにするのなら、新見から隆を奪っていく気でいかないと。


「で、どうする?あそこまで優秀な生徒は生徒会に入れるのが普通だけど。」

「………嫌だ。入れたくねえ。」

「言うと思った。」


高校3年、生徒会長のクセに秀はお子ちゃまだなぁ。と、こっそり笑った。





「隆のバァカ。」

「え、ちょっ、会長さっきからなんなんすか?」


放課後、生徒会で集まって早々に不機嫌な様子を見せる会長は、俺で鬱憤を晴らすかのように丸めた紙屑や筆記用具を俺に向かって投げつけてきた。


そんな会長を苦笑しながら眺めている副会長が、「はいはい、今日の本題に入るよ。」と言いながら会長を宥めるようにポンポンと頭を叩いている。


その後会長は、むっすりした顔を俺に向けながら、その本題とやらを口にした。


「…新見倖多の生徒会勧誘について。」


会長が口にした名前に、「倖多?」と反応すると、会長はまた紙屑を俺に向かって投げてきた。


「ちょっ、だからなんなんすかさっきから!」

「…俺は正直反対だからな。」

「あ、そうなんですか。」


会長から勧誘の話を持ち出しておいて、反対ってなんなんだ。


「何故なら生徒会内恋愛は禁止だからな!!!」

「は?なにそれ初耳なんすけど。」


そんな決まりあったか?と思っていると、副会長が口を押さえて笑っている。


「え、副会長そんな決まりありました?」

「ないない、秀が勝手に言ってるだけ。」


笑いながら否定する副会長に、今度は会長の視線が副会長へ向き、ムッとしながら副会長を睨みつけた。

そんな会長の視線など気にする様子も見せない副会長が、会長に代わって説明してくれる。


「隆も去年そうだったと思うけど、優秀な生徒は生徒会に入るっていう暗黙のルールみたいなのがあるよね。そうすると必然的に新見が生徒会に入ることになるけど…」


そこで副会長が、俺のことをジッと見つめてきた。


意味深長な目つきで見られ、黙って副会長を見つめ返すと、副会長はにっこり笑って口を開いた。


「新見が隆の恋人っていう点が、うちの会長様は少々気に食わないらしい。」


副会長のその発言に、今度は副会長に向かって会長は手元にあったメガネケースを投げつけた。


「わっ!痛いって、物投げるのいい加減やめなよ。」

「お前が余計なこと言うからだろ。」

「ほんとのことでしょ?」

「俺は新見が嫌いなだけだ。」


会長はむすっとした顔でそう言って、不機嫌そうに腕を組んだ。


倖多が嫌い?なんで?
あんなに、良い子なのに?


俺は会長の発言が引っかかって、倖多の何が嫌いなのかを聞きたくて、会長に問いかける。


「倖多良い子ですよ?倖多の何が嫌なんすか?」

「はいはい、倖多倖多倖多って、それがうざってえ。だから生徒会には絶対入れねえ。つーかあいつ生意気そうなんだよ。すかした顔がそもそも気に食わねえ。」

「は?なんすかそれ。一言も生徒会に入りたいとか言ってない倖多が勝手に名前挙げられてそこまで嫌がられんの納得いかねえっす。会長が倖多の何を知ってるんですか?全然知らないくせに倖多のこと悪く言わないでくださいよ。」


俺だってまだ倖多のことは全然知らねえけど。でも倖多のことを悪く言う会長にはムカついて、ついつい嫌悪感を剥き出しにしながら会長にそう言えば、会長はむっすりしながら何も言わずにそっぽ向いた。


俺が会長に取った態度の所為で険悪な雰囲気が漂う生徒会室には居づらくて、俺は無言でその場を離れた。


倖多のことを悪く言われるのが、俺は許せなかったのだ。


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