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昼休みは自分からりゅうを食堂に誘った。

クラスメイト何人かに誘われたけど、大人気なさそうな先輩が現れたことを報告しておきたい。


教室まで迎えに行くという返事が返ってきたから、大人しく待っておこう。って俺はお前の彼女かよ。


「倖多お待たせ〜。」


りゅうはヒラヒラと手を振り、わざとらしくウインクをして現れた。


「ウインクキモイよ?」

「ひどくね?」


りゅうのウインクを貶しながらりゅうの元に歩み寄ると、スッと腰に手を添えられた。


「キモ!腰触んなって…!今ゾゾッとしたわ…!」

「照れんなって。」


小声で腰に手を添えられたことに文句を言うと、りゅうはケラケラと楽しそうに笑い始める。


俺のが彼女役みたいになってんのがちょっと不満だけど、やっぱりりゅうとの会話は気楽で良い。


「さっきりゅうの親衛隊?らしき先輩が俺のところに訪ねてきたぞ。」


忘れないうちに先程の報告をりゅうにすると、りゅうは驚いたような反応を見せた。


「…まじで?…絶対それ有坂(ありさか)だわ…。」

「ありさか?」

「俺の親衛隊隊長。」

「え、あれで隊長なんだ?お前のファンクラブ大丈夫か?」


あ、えっと、大丈夫か?ってのはちゃんとまとまってんの?っていう意味で言ったんだけど。

りゅうは俺の発言に思いきり苦笑した。


「…大丈夫かって聞かれたら大丈夫じゃねえかも。どうしよう、倖多が危険な目にあったら俺の責任だ…。」

「あ、ちなみに俺その人に大人気ないことはやめてくださいって言ったから。」

「えっ!?」

「一応報告。警戒してる?とか聞かれたから、つまり警戒しろってことだろ?俺は素直に警戒してやろうと思ってる。そいつの顔バッチリ覚えた。」

「…倖多って結構逞しいな…。」

「あ、つーかさ、お前俺のこと彼女扱いしてるけど俺だって男だぞ!なんで俺のが彼女側みたいになってんだよ!」

「え、倖多のが身長低いから。」


キョトンとしながら当たり前だろ。と言いたげな顔で返事を返されたから、俺はムッとしながら背伸びをしてみた。


あっという間にりゅうの身長なんか追い抜いてやる。


という思いを抱きながら、目線の高さをりゅうと同じになるくらい背伸びをして視線を合わせると、りゅうはニヤリと笑ってチュッと一瞬キスをしてきた。


「おい!ふざけんな!」

「いやいやそこは照れろよ。」


こいつ絶対楽しんでやがる!!!

周囲にいた生徒たちが俺とりゅうのキスを見て、「うわ!見ちゃった!」だの言って騒いでいた。


「やべー、俺倖多とは普通にキスできるわ。」

「俺りゅうならキスされてもなんも感じなくなったわ…。」

「え、それは良い意味?」

「受け入れてるってことじゃねえの。良い意味だろ。」

「おお、やったね。」


果たしてこんなので、俺たち恋人同士に見えるのだろうか。

りゅうと会話をすればするほど、だんだん友人に対する扱いに近くなっている気がする……。



「はぁい倖多ちゃぁん、おぼんどうぞー。」

「いやいや。さっきからりゅうほんとキモイよ?」


食堂にて、俺におぼんを手渡してくれるのはいいけど、いちいち言動がわざとらしいからやめてほしい。


「えぇっとぉ、倖多ちゃんの好きな食べ物はカレーライスだったかな!」

「えっもう忘れたの?昨日オムライスって教えたのに!覚えとくって言ったのに…!」

「あっそうそうオムライスオムライス。カレーとオムライスって似てるからな。許してちょ?」

「は?全然似てないんだけど。」


言動はキモイし、さっそく俺の好きな食べ物を間違えるりゅうに、 今後が不安になってきた。


少しりゅうに素っ気ない態度で返事を返すと、「ごめんごめん、チューしてあげるから怒るなよ?」とアヒル唇で迫ってくるりゅう。


「うわ!キモ!近寄んな!」

「え〜?照れなくていいから。」


ってまじこんな場所で悪ノリやめろ!!!


俺はりゅうのアヒル唇から逃げるように顔を引いて、りゅうの唇をギュッと指で摘んだ。


すでに周囲からは俺たちのやりとりが注目を集めてしまっており、やらかしたな。って思っていた時、食堂内に歓声があがる。


生徒会長だ。

この騒がしさは生徒会長だと昨日学んだ。

そしてその生徒会長は、また俺たちの元にやって来た。正確に言うには、りゅうの元に、か。


「仲が良さそうですねー。」


冷めた目を俺たちに向けながら棒読みで話しかけてきた生徒会長に、りゅうがにこやかに「どうもー。」と手を軽く挙げる。


え、てかこの人めちゃめちゃ僻んでない?

俺の予想が正しかったら、この人俺とりゅうの関係を良く思っていない気がする。


ジッと生徒会長を見つめながらそんなことを考えていると、冷めた目をした生徒会長の目が俺に突き刺さった。


「うわー、噂の美形新入生にすげー見つめられてるんですけどー。」


そして茶化すような口調で俺に向かって口を開いた生徒会長に、なんかちょっとイラっとした。

この人は、どうも俺の存在を良く思っていないような気がする。


…あ、もしかしてりゅうのこと好きとか?


俺はさらにそんなことを考え、りゅうの手をそっと握って反応を伺った。

すると面白い具合にピクリと眉を動かす生徒会長。


やべえ、こいつ絶対りゅうのこと好きだわ。っていう確信を抱いてしまい、通りで俺のことよく思わないわけだよなぁ。と今度は生暖かい目で生徒会長に視線を向けた。


「すみません、ついつい人気者の生徒会長さんが近くに居るから観察しちゃいました。それでは失礼しますね。りゅう、行こっか。」

「あ、おう。じゃあ会長また放課後に。」


この人とはあんまり関わらないようにしよう。

できるだけ顔を合わさないようにすればいい。


当たり障りのない言葉を生徒会長に向けてさっさと立ち去ろうとりゅうの手を引っ張ると、立ち去り際にりゅうは生徒会長に挨拶してから歩き始める。


生徒会長との距離が開いてから一度だけチラリと振り返り、生徒会長の表情を伺うと、なんだか少しだけ生徒会長の顔が、今にも泣き出しそうな表情に見えてしまった。


「…うわぁ、…なんかごめんなさい。」

「え?なにが?」

「…いや。…なんでもない。」


男除けを目的に、まだ始まったばかりのりゅうとの関係。

しかしりゅうは、見事に学園の人気者である生徒会長まで跳ね除けてしまったらしい。


……まあ、生徒会長といえども男は男だし。

…これはしゃあないよなー。うん。

俺 知ーらんぺっ。


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