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「隆くんちょっと説明してもらっていい?」

「あー、倖多のことっすか?」

「……へぇー、こうた…ねぇ?」


はいはい、きました。きましたよ。

ええ、ええ。わかってましたとも。

親衛隊長さんによる詮索会。


「僕初耳なんですけど?」

「でしょうね、俺言ってないですし。」

「なんで言わないの?」

「言う必要あります?」


俺は芸能人でもなんでもない、普通の高校生なわけで。そもそも親衛隊とかいう団体が存在していることすらおかしい。

それすらおかしいと思っているのに、日常生活は常に監視されている気がして正直息が詰まる。

この学校に入学してから、俺はそんな思いで1年間過ごしていたのだ。

けれど。

こんな日々とはもうおさらばしたい。

俺には大切な恋人がいる。

周囲にとやかく言われる筋合いはない。

親衛隊員はそろそろ俺なんかを見て楽しんでないで、もっと自分の人生に関わるパートナーでも探せばいかがだろうか?


「言う必要?あるに決まってるでしょ。みんなキミのことが好きで親衛隊になってるのに突然恋人いましたーとか冗談やめてよ。」

「冗談じゃないです。」


冗談では、ないです。真剣ですよ。

だから俺のことはもうそっとしておいてほしいんだ。


「じゃあ聞くけど、いつ知り合って、いつ意識し始めて、いつから付き合ってるの?」

「そんな馴れ初めなんかいちいち人に言いたくありませんよ。」

「ふぅん?じゃあ僕キミらの関係認めないから。ていうか僕まだ信じてないし。彼氏が美形だからって僕が許すと思った?」

「認める、認めない、許す、許さないってね、言わせてもらいますけど俺と倖多の関係に口出しされる謂れはないっすよ。」


おいおい、こいつめんどくせえな。って、舌打ちしそうになりながら喋る。

俺は自分の親衛隊隊長を少し舐めていたらしい。


「ああそう、そんなこと言うの?隆くんひどいよ。僕らはずっと、キミの支えになれるように、と思って今まで活動してきたのに。キミはそんな僕らを見捨てるようなことするんだね?」

「俺に恋人がいたってだけでなんでそんな、見捨てるとかいう話になるんすか?別に親衛隊はそのままお好きにやってりゃいいじゃないですか。俺は別に構いませんよ。」


解散しろ、って言ったところでどうせするはずないんだから。今までどうりにやってろよ。


けれど俺には恋人がいる。

親衛隊だからって、変に期待をするのはやめてほしい。もしかしたらお近付きに、なんてことは絶対ないから諦めろ。


俺の愛は、倖多にだけ注がれるのだ。

……………あ、そういう設定なのだ。


だからみんな、早く俺を諦めろ。


「…分かった。キミがそういうなら、お好きにやらせてもらうね?…隆くん?」


フッ、と耳に息を吹きかけられ、ゾゾッとした。


え、でもちょっと待て、お好きにやってもいいとは言ったけど、


…倖多に危害を加えるようなことだけは、やめてくれよ?





「新見 倖多くん?ちょっとおはなしあるんだけどいいかなぁ?」


休み時間中、見知らぬ生徒に呼び出され、人気のない場所まで連れられた。

その生徒が来た瞬間、ざわりと周囲が騒がしくなったから、どうやらこの生徒、なにかありそうだ。


二人だけしかいない空間で立ち止まり、爪先から頭のてっぺんまで舐めるように眺められ、居心地が悪い。

突然自己紹介も無しに人の観察ですか。

うっすら笑みを浮かべていてちょっと気味が悪い。


「…あの。なにか俺に御用でも?」

「あ、安心して。だだの観察だから。」


うわ、この人はっきり観察って言っちゃったよ。

そう言ってまた、俺の顔面もジロジロと眺められ、居心地悪すぎる。つーか失礼すぎるだろこの人…


「無言で観察ってのもどうかと思うんですけど…。てかどちら様ですか?」

「あ、キミ親衛隊って知ってる?」

「え?…あ、いや、まあ言葉の意味くらいは…。」


てか俺の話聞いてんのかよ…!


「へぇ、そんな認識かぁ。隆くんからはなにも聞いてないの?」

「…あ、そういやなんか言ってたような…?」


親衛隊…まあ言いかえれば“熱狂的なファン”だ。

りゅうにそんなファンが一人や二人、いやもっといたっておかしくないだろう。


…とそこまで考えたらところでハッとする。

この人もしかして“それ”か。


今度は逆に探るような目でその人を観察するように眺めると、その人はにっこり笑顔を見せてきた。


「あ、警戒してる?隆くんの彼氏くん?」


……………りゅうくんの彼氏。

うわぁ、改めて言われるとなんか、妙な気分だ。


「警戒?なんで俺が。あ、りゅうの彼氏ってだけで嫉妬心からの攻撃でもされるとかですか?」

「キミ自分は大丈夫とでも思ってる?」

「別に何も考えてませんでした。」


きっぱり素直にそう答えると、相手はほんの少しムッと不機嫌そうな顔をした。


「そもそもただの嫉妬だけで目をつけるなんて大人気無いことする人いますかね、高校生にもなって。」


俺はさらにそう言葉を続けると、相手の目元がピクピク痙攣し始めた。


あ、どうやらここに居たっぽい。

ただの嫉妬だけで目をつける大人気ない人。


ちゃんと顔を覚えておこう。と、口を閉じてじっと相手を見つめると、サッと相手から目を逸らした。


「…まあ今日は観察だけだから。帰っていいよ。」

「すげえ上から目線っすよね。先輩ですか?」

「そうだけど?」

「じゃあ先輩、先に言っときますけど大人気ないことやめてくださいね?」

「……キミの態度によるんじゃない?」


先輩はそう言って、物凄く不機嫌そうにしながら去っていった。


見るからに大人気なさそうだ。

あの人警戒しておこう。

自分から大人気なさ晒すとかあいつバカじゃね?


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