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生徒会長、松村 秀(まつむら しゅう)と、副会長の俺、刈谷 悠馬(かりや ゆうま)をその場に残し、新入生の新見 倖多はさっさとその場から立ち去って行った。

ほんとうはもっと新見をつついて、隆との関係をあれこれ聞いてやろうと思ったのに残念だ。


「あーあ、行っちゃったね。」


そう言って秀を見ると、秀はとても不満そうな顔つきをしている。

なにが不満かって?

隆に恋人がいたことだ。

しかもあんなにハイスペックな。

賢い頭に整った顔。ついでに言うと俺たちにあまり関わりたくないのか、あしらうようにその場を離れた。あの一本取られたかんじは正直俺も少し悔しい。


「んだよ、隆のやつ……。」


秀は一人ぶつぶつ文句を言っている。

お気の毒だこと。
ずっとノンケだと思ってたのにね。

入学当初、慣れない環境に困っていた隆を今までお世話して可愛がってきた秀。

好きだと気付いても相手はノンケ。
叶いようもない恋だと思っていたから、攻めてすらしていなかったのに。

幼少からの友人で、幼馴染みな秀の気持ちを、俺は聞きはせずとも悟っていた。


一言で表すなら『無念』。


新見 倖多の後を追う隆を、秀は姿が見えなくなる瞬間まで、悔しそうに、そして悲しそうな表情で眺めていた。



「まあ元気出しなよ。隆、男もいけるってことは秀はまだ諦めるには早いって。」

「……は!?おまっ、…なに言ってんの?」


秀は俺の発言に驚いたように目を見開く。


「え?だって秀、隆のこと好きでしょ?」

「は!?」


え、もしかして自分で気付いてないとかやめてよね。俺は少し冷めた目をして秀を見る。んなバカな、と。


「えっマジ?嘘?マジで?えっ」


……おいおいしっかりしてよ生徒会長。

こんなバカっぽい奴でも生徒たちからはとても人気で、支持されていて、我らが生徒会長様だ。

しかし親衛隊の子が見たら泣くだろうな…と思うほどの戸惑い様を見せる秀に、俺は苦笑と、ため息が漏れたのだった。





「なあ、今の生徒会長だろ?りゅう仲良いの?」


食堂を出て少ししたところで、俺はパッと俺の背後を歩いているだろうりゅうに目を向け、問いかけた。


「あー、仲良いっつか部活の先輩だし。生徒会の。まあ普通に話す。」

「あ、そっか。りゅう受付やってたもんな。じゃあ一緒にいた人も生徒会?」

「あれは副会長。俺ちょっと苦手。」

「あそうなんだ。」


俺もちょっと苦手かも。

なんだか人を探るような目で俺を見ていた気がする。できればもう会いたくない。

りゅうが生徒会役員だったらそうもいかないかもだけど。まあ俺に用なんてないと思うしましてやあの人も人気者だろうから、俺なんかに構うこともないだろうけど。


「あ、りゅう俺の部屋来る?アド交換もまだだし。」

「え、いいの?行く行く。」

「ほんじゃ行こぜー。」


りゅうにそう提案し、俺は自分の部屋へ足を進める。

あの広くて綺麗な部屋はどうも落ち着かない。ずっと両親と妹と俺の4人で生活していたから突然あんな広い部屋で一人で過ごすのは慣れないのだ。


「あ、ところでさぁ、どうだった?さっきの俺の返答。」

「ん?あ、副会長に聞かれたとき?」

「そうそう。ヘタなこと言えなくてマジ戸惑ったんだけど。」

「あ、俺も。俺もさっき副会長に倖多とのこと聞かれたからさぁ、うわやっべって思った。けど倖多ナイス返答だった!内緒とかさ、ちょっとドキッとしたわー!」

「マジ?じゃあ困った時の『内緒』だな。」

「あ、でもまたなんか聞かれた時のために後で設定とかいろいろ考えようぜー。」

「なに設定って、本格的だな。ウケるんですけど。」


ニヤリと笑って話すりゅうは、なかなかこの関係に楽しんでる感あるな?とりゅうの表情を見て思ったけど、俺もなかなか悪くないな。とちょっと思った。

こういう悪ノリ?みたいなのは嫌いじゃない。りゅうもこんな感じだし、俺も気軽に楽しんでいこう。




その後、俺の部屋にやって来たりゅうとまずはアドレスと電話番号交換をする。


次に、りゅうが言っていた俺たちの関係の設定話。


出会ったのはいつ頃で、共通の友達がいたのがきっかけで、とかいろいろ有りもしないことをノリノリで設定するりゅうを見ているのは凄く楽しい。


全力で設定を考えているりゅうに俺はゲラゲラ笑っていると、りゅうは突然「はぁ…。」と息を吐き出した。


「あ、ごめん笑いすぎた、でもさ、りゅう、真剣すぎて…おもろ…ククッ」

「…いいよなぁやっぱ。こういう、普通の会話ができるっつーのは。」

「普通?今のが?」

「うん。こう、気兼ね無く会話できるっつーか。凄くホッとする。」

「…あー。なるほど。なんかわかる。」


りゅうが言ってること。

ここへ来てまだ全然時間が経ってない俺が言うのもなんだけど。

俺は、なんとなく、ほんとになんとなくだけど、りゅうが言いたいことが分かった気がしたのだ。




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