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その後、俺はりゅうと共に寮への道のりを歩くが、突き刺さる視線が凄まじかった。


「瀬戸くんが…」という声や、「あれ誰!?」という悲鳴じみた声が聞こえる。


やはりまずいのではないか、と俺はひやりとした汗が流れるが、りゅうはそんな周りに気にした様子も無く、澄ました顔で歩いている。


「やべえって、なあ、これほんとに大丈夫か…?」

「ん?なにが?」

「いや、あの、瀬戸くんが知らない男連れてるって発狂してる生徒が…。」

「…ああ、大丈夫大丈夫。俺男とか今まで居たことなかったからそれで驚いてるだけだって。今に俺らの関係も大っぴらになって、何も言われなくなるよ。」

「……へえ。…まあ、それならいいけど…。」


なんか、とても微妙な気分。

ひっそりと苦笑を浮かべていたところで、りゅうはとんでもないことを言い出した。


「あ、人目あるところでもう一発キスでもしとく?」

「は!?!?」


苦笑から、ギョッとした表情に変わる俺に、りゅうは愉快そうにケラケラ笑っている。てめえ…


「いや冗談…って言いたいところだけどこれ本気。」


そう言ってりゅうは俺と向き合い、俺を見つめ、俺の顔を両手で挟み、むちゅっと唇をくっつけた。


その瞬間、勿論周りは先程の教室内のように騒がしくなる。当然だ、人気者の瀬戸様が得体の知れない男にキスしたのだから。


「ふー。ごちそうさま。」


そしてりゅうは、唇を離してペロリと舌を出し、りゅうの唇についたであろう俺の唾液を舐め取って、そんな言葉を口にする。


ゾゾゾゾ…、と背筋が震えた。

男と2回もキスしてしまった。

しかもなんか今のりゅうエロイ…。


引きつる顔を抑えきれずにいると、りゅうは小声で「顔、顔。照れた顔くらいしろよ。」と言いながら俺の顔面をムニムニと触ってくる。


「りゅうさ…、ほんとにノーマルなんだよな…?」

「ん?そうだけど。」

「…結構手慣れてない??男とキスすんのってさ、普通もっと躊躇わない?」

「あー。んー。倖多下心ないからわりとあっさりイケる。」

「なんじゃそりゃ!!!意味不明!!」

「あっはっは、まあ仲良くしようぜ、同族同士。」


りゅうは笑いながらわしゃわしゃと俺の髪をかき混ぜて、そしてパッと切り替えるように俺から手を離し、再び歩き始めた。


俺はと言えば、驚くほど能天気なりゅうにまた苦笑して、りゅうによって無茶苦茶にされた髪を元に戻しながらりゅうの後を追う。


周りに居た生徒たちは、やっぱり俺とりゅうをガン見して、声を抑えようともせず、俺たちの噂話をするので忙しそうだった。



りゅうはこの後まだ用事があるらしく、俺を部屋まで送ったあと再び学校へ戻るらしい。

別に送ってくれる必要なかっただろ。と思うがまあいいや、過ぎたことはどうでも。


夜にりゅうと食堂でご飯を食べる約束をして、俺は寮の自室に帰宅した。



今日半日だけでどっと疲れた。

お腹は減っているが、今はそれよりも仮眠を取りたい。


制服を脱ぎ捨て、着替えるのが面倒だったので、制服の下に着ていたインナーとパンツ一丁で布団に潜り込み、そのまま眠ることにした。






倖多を寮まで送り届け、その後俺は面倒だが仕方なく学校へ戻る。

生徒会での仕事が残っているのだ。

今の時間、寮から学校へ向かっているのなんて俺くらいで、たくさんの生徒からの視線が突き刺さる。


さっさとやること終わらせて、さっさと帰ろう、と早足で生徒会室に向かえば、そんな俺を待っていたのは『待ってました!』とでも言いたげな表情を浮かべた生徒会役員一同だった。


うわ、めんどくさそ…。


無言で自分のデスクに着く。


「隆、お前あれだけノンケ気取ってたくせに彼氏いたのかよ。」


あ、噂もうここまで広まってんだ。

と俺は突然会長に言われた言葉にそう思いながら、会長へ視線を向ける。


「あ、はい実は。」

「しかも相手はあの入試高得点の特待生で超美形の新見 倖多って。マジ初耳だし。俺らちょっと前に新見 倖多の話してたけど、お前興味無さそうだったのによお。俺ら普通に驚いてるっつーのー。」


会長はそう言って、俺に向かって消しゴムをポイと投げつけてきた。ガキか。


しかし会長の言いたいことはごもっともで、俺ははじめ、新入生で特に優れている新見 倖多に興味などなかったから、生徒会役員たちの会話などこれっぽっちも聞いていなかったのだ。

けれど、暇つぶしに見ていた新入生のデータで新見 倖多の写真を目にし、こいつが恋人役でもやってくれたら、俺の高校生活はちょっとは静かになるかもなぁ…だなんて想像をしてみたのだ。

他にも候補は上げてみたのだが、やはり適役としては新見 倖多だ。

よし、ものは試しだ。と新入生受付で新見 倖多を待つが、あいつは遠目から見てもすぐに分かった。


やっぱり美形。
誰が見ても美形。


俺はさっそく行動に出る。


不審がるように俺を見る目にも、何故だか俺は好感が持てた。


うん。やっぱりこいつには恋人役をやってもらいたい。


俺は妙に高まったテンションで、1年のHRが終了する時間帯を狙い、あいつの元へ訪れたのだ。


「つーかマジびびるって。いつから?」


会長や他の役員も、先程からずっとこの調子である。とてもうざったいが仕方ない。

確かにずっとノンケ気取ってた奴が、突然美形特待生の彼氏いました〜とか言うパターンなんて、俺だって驚くさ。


「あー、ちょっと前から。仲良くなって。」


適当なことを言って、俺は生徒会の資料を手にする。


「ふうん。なーんかしっくりこねえなあ。」

「は?…いやいや、なにがっすか。」


何故か不満そうな顔をしている会長に、俺はひょっとして俺と倖多の関係を疑われてるのではないかと少しだけ焦る。

いやまあ生徒会役員にくらいなら嘘です、恋人じゃありません、って言ってもいいけど、やるなら徹底的にやりたい。


「ま、いいけど。隆の相手が新見ならお前の親衛隊も文句言えねえだろうし?問題起きずに済みそうだしな。」

「ま、そっすね。」

「まさかそれが狙いで恋人のフリとかしてるんじゃないの〜?」


………え。


ギクリ、とした。

俺と会長の間から口を挟んだのは、副会長だ。

ニンマリと笑みを浮かべていて、それがまるで見抜かれているような気がしてゾッとする。

てか言われたそれは大当たりだから余計に。


「なに言ってんすか。わざわざんなアホなことしませんって。」


いやしてるけど。


「ふう〜ん?」


ニヤニヤニヤニヤ。

副会長はずっと俺をそんな目で見て、その後「ま、いいや。」と興味が失せたように俺から視線が外れ、俺はホッと息を吐いた。



あーマジで早く終わらして帰ろ。

んで、倖多と飯食いに行こ。

もっと倖多のことを知らなければ、いつかボロが出そうだ。

倖多にももっと俺の事を知ってもらって……


その後の俺は、ずっとそんなことを考えながら、生徒会の資料とにらめっこしていたのだった。


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