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昼休み前の4時間目の授業は体育で、いろいろと悲惨だった。

想の機嫌が悪すぎる上に、眼鏡が無い所為であまり周りが見えていないから目付きまで悪すぎる。

体操服に着替えてから想を連れて廊下を歩いていると、『この人誰?』って言いたげな生徒からの視線がチラチラと想に向けられている。

眼鏡のインパクトが強すぎるおかげで、この男が眼鏡無いバージョン早見想だと結びつけるのは難しそうだ。やっぱあの眼鏡ダサすぎなんだよなぁ。


「うわ、見て!あんなイケメンうちの学校居たっけ?矢野くんの友達?」

「初めて見たな。でもなんか不機嫌そう…顔怖くね?近寄れねえよ…。」

「んー、不良…?今までずっと学校サボってて、矢野くんに引っ張られてようやく登校してきた、とか!」


おい、なんか憶測で語られてるぞ、想!

俺は想のことを話している生徒の会話が聞こえてきてしまい、口を手で押さえて「ぶふっ」と吹き出した。

そんな俺を、近距離で睨み付けてきた想。
距離近いんだよなぁ。見えにくいのは分かるけど。


「いやまじで想顔怖いから。その顔もうちょっとどうにかなんない?不良とか言われてるぞ?」

「見えにくいんだからしょうがねえだろ!!」

「ちょ、うるさいって!耳元で怒鳴んなよ!」


俺の体操服をギュッと掴みながら怒鳴られ、想から距離を取ることができない。

やれやれ。と校庭に向かうだけでめちゃくちゃ気力を使わされた。



想にとっては幸いなことに、体育の授業内容は陸上競技で個人種目だった。


…って思ったものの、いや、やっぱ全然“幸い”では無いかも…。

100mハードル走を順に走らされていたのだが、想の順番が回ってきた時事件は起こった。


「いてっ!…いっった!!先生無理っす!!視界がぼやけて飛べません!!!」


そんなに高くないハードルではあるのに、1つ目、2つ目、と順にハードルを倒していった想は、3つ目のハードルに来る前に足を止め、体育担当教師に向かって叫んだ。


「…そ、そうか…じゃあ今日はもう見学してなさい。」


想のキレ気味の叫びに圧倒され、おずおずと返事をする教師。


「1年A組小池の所為っすから!あいつ俺の眼鏡取りやがったんで注意しておいてください!!こんなん窃盗だろ!まじふざけんな!!」


見学を許可してもらえただけでは満足できず、先生に向かってきっちり物申してる想、おもろすぎんだろ。朝から想の小池くんを悪者アピールが半端なくてまじウケる。


俺は一人、想の様子を観察しながら、また口を手で押さえて「ぶふっ」と笑った。


別に俺は想の不幸を笑っているわけでは無いけど、想の言動がいちいちツボすぎてどうしても笑ってしまうのだ。



こうして体育の授業は無事終わり、再び俺の近距離で歩く想を連れて教室に戻る。


A組の教室の前を通過しようとした時、ふと歩く速度を落とした想が開いていた窓から教室の中を覗き込んだ。

おいおい、なにやってんだよ。窓際の生徒びっくりしてるぞ。

と、俺は首を傾げて突然の想の言動を見守っていたのだが、その直後想はわりとでかめの声で不満を漏らした。


「くっっそ!!小池の所為で体育見学する羽目になったわ。俺の眼鏡返せや!!!」


その叫びは切実で、A組の生徒から一斉に視線を向けられるが想は不機嫌面のまま窓から顔を離して再び歩き始めた。


「こら!ちょっとキミ!何年何組どこの生徒!?おい!!」


教室から出てきた先生に背後から呼びかけられているが想は無視。お前、目付きも悪いしまじでただの不良だぞ。


空気を読んで、俺は笑うのを必死に我慢しながら、教室に戻る。


ちなみに想は見えてないだろうけど、あの時チラッと見えた小池くんの表情は、すげー満面な笑みを浮かべていた。どういう神経してるんだろうな。俺にはちょっと理解不能だ。


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