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「もお〜早見くんの所為で授業中に大恥かいちゃったじゃん!」


昼休みになってすぐ、満面の笑みを貼り付けて想の目の前に現れた小池くんにはさすがに俺もドン引きだ。

末恐ろしい想の不機嫌面を前にしてもここまで明るい態度を見せれる小池くんに怖いものはないのだろうか。


『ダン!』と力強く机を叩いた想に、教室に居たクラスメイトたちはビクッと身体を震わせて想を見るが、目の前の男は少しも動じていなかった。


「…俺の眼鏡は?」


すげえキツイ目で睨み付けられているのに、小池くんはジー、と想のことをこれでもかと見つめていた。


「早見くんってほんとに顔かっこいいねぇ。僕早見くんにおしゃれな眼鏡買ってあげたいな。あ、コンタクトでもいいよ?」

「俺の眼鏡は?」


ベラベラと笑顔で話す小池くんに、想は威圧感のある態度で先程と同じ言葉を繰り返した。


「…あぁ、あの眼鏡なら残念だけど咲田が割っちゃったよ…。」


今度はわざとらしくしゅんとした表情でそう言った小池くんに、想は「…は?割った…?」と唖然としながら口にした。


丁度その時、教室の出入り口には、想の眼鏡を握りしめて、咲田くんが泣きそうな顔をして立っていた。


「ほんとにひどいよ。あいつ僕に突っかかってきたんだよ?いっつもいろんな人に良い顔してるけど、腹の中では何考えてるかわかんないね。」


ベラベラとよく喋る小池くんは、咲田くんを悪者に仕立て上げる作戦のようだけど、想がそんな小池くんの話を真に受けるわけがない。


相変わらずのキツイ目を小池くんに向けたまま、想はガタッと席から立ち上がり、今日一の怒り狂った態度で小池くんに反発した。


「お前が聖人君子のような咲田をディスってんなよ。てめえの頭に特大ブーメラン突き刺さってんぞ?…咲田が割った?なに人の所為にしてんだよ。元々はてめえが悪いだろうが!」


そう怒鳴りつけながら、ドン!と小池くんの肩を突いた想に、ここでようやく小池くんが少しひるんだ態度を見せた気がした。


想…お前、やっぱ眼鏡あった方が良いわ…。
ガチギレの想くそこえー…。いや俺がビビる必要はまったく、ぜんぜん、無いけども!


「…だって、あいつ、ほんとに…横から乱暴に手出してきて。僕はちゃんと後から早見くんに返しに行こうと思ってたのに…。」


ここへ来て弱気の態度を見せる小池くん。もう今更すぎる気がする。想が怒り狂う前にとっとと眼鏡を返してやって欲しかった。


さすがに弱気な態度の小池くんには、想もほんの少しだけ怒りの雰囲気を和らげる。


「…いっつもあいつは、僕の邪魔ばっかする。…いっつも僕が気になった人は、咲田のことばっか見てる。…いっつも、咲田、咲田って…。」


ボソボソと小池くんの口から語られる、俺たちにとって今は心底どうでもいい咲田くんへの分かりやすい妬みを表したような言葉に、想は「はぁ。」と呆れたようなため息を吐いた。


「あのさぁ?俺お前が現れるより先に咲田と親しくしてたんだけど?どっちかっつーと俺と咲田の邪魔してきたのお前なんだけど?」


想に正論を突き付けられた小池はクッと悔しそうに唇を噛み締めた。…なんか哀れで見てらんなくなってきたな…。


「お前さぁ、一方的に咲田のこと敵視してんじゃねえの?そりゃ綺麗だし?可愛いし?性格良いし?気さくだし?弁当も美味いし?良いとこしかなくて悔しいよな。」


……ん?

ははーん、お前いつもすました顔してたけど咲田くんのこと実はそんなふうに思ってたんだ?って俺は場違いだけどニヤニヤしながら想を見ていた時、そういや咲田くんが教室の出入口まで来ていたことを思い出した。


ここで俺は、チラッと咲田くんの姿を確認した時、彼は耳も顔も真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いていた。


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