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「関係有るとか無いとかじゃなくて…。普通に眼鏡無かったら困るってわかるだろ?」


再び口を開いた咲田くんの口調は冷静だ。

咲田くんいいぞ、その調子。そう。普通に考えて眼鏡が無かったら困るに決まってる。返してやれ、って周りが言ってるんだから、さっさとこいつは返せばいいのだ。


「え〜?こんな眼鏡、早見くんには無かった方が良いんじゃない?」


小池くんは悪びれることもなくそう言って、想の眼鏡のアームを指で摘んで眺めている。


その時、サッと咲田くんの手が、小池くんの手元に向かって伸びた。

そこにある想の眼鏡に手を伸ばそうとした咲田くんの手を、ハッとして避けようとした小池くんの前に、想の眼鏡は2人の手がぶつかって、はじきとばされる。


カチャ!と音を立てながら、床に落下してしまった眼鏡。


「ちょっと!なにすんの、咲田最低!」


床に落下してしまった眼鏡を屈んで拾いあげたのは咲田くんだ。


眼鏡のレンズには、ヒビが入ってしまっている。

うわあ…これはまずい。想の怒り狂う姿が俺には容易く想像できる。


壊れてしまった眼鏡にはもう用無しだ、とでもいうように小池くんがそれ以上眼鏡に興味を向けることはなかった。


「言っとくけど壊したのは咲田だから。」


それだけははっきりと咲田くんに告げ、小池くんはフン、と咲田くんからそっぽ向く。『壊そうかな』とか言ってたくせに、いざ壊れたら人の所為にすんのかよ。


割れてしまった想の眼鏡を手に持って、茫然と立ち尽くしている咲田くん。


「咲田くん、大丈夫大丈夫、悪いのこいつだって。」


俺は背後から咲田くんの肩をトントンと叩きながら言えば、その瞬間鋭い小池くんの視線が俺へと突き刺さった。うへー…まじで性格キツイな。


いやでもだって実際そうだろ?小池くんが余計なことしなきゃ誰も必死で取り返そうとしないって。


「それ俺から想に返しとくよ。」


俺は咲田くんの前で片手を出しながら声をかけるが、咲田くんはフルフルと首を振った。


すっかり意気消沈してしまった咲田くんは、少し泣きそうな顔をして口を開く。


「…俺が壊しちゃったから…。謝らないと…。」


そう言ったあと咲田くんは、想の眼鏡をジッと見つめながら黙り込んだ。


じゃあまあいいや、咲田くんにお願いしよ。


割れた眼鏡が返ってくるなんて、想のことだ、間違いなくブチギレる。一番の怒りの矢先は小池くんだけど、俺から眼鏡を返すと俺まで八つ当たりされるに決まってる。


そこを咲田くんが返してくれたら、さすがに想は咲田くんを怒ることは無いだろうし、怒りの矢先は小池だけに向けられるだけ。俺は安寧の地だ。



想の眼鏡は咲田くんに任せて、休み時間が終わる前に教室に戻ると、想は俺の帰りを今か今かと待っている様子だった。


「冬真、どうなった?眼鏡は?」

「かくかくしかじかで今咲田くんが持ってる。」

「は?咲田?」


なんで咲田が持ってんのにお前それ預かってこねえんだよ。って言いたげな顔だな。そりゃできたらそうしてるって。


「ちょっと一悶着あってな。まあ災難だけど今日は眼鏡無しで頑張れ。」

「はあ!?無理だって!まじなんも見えねーのに!」


俺は想に声をかけてから自分の席に着席したが、想は俺に向かってまだなんかぐちぐち言っていた。


「俺授業で一切ノート取れてねえんだからな!?」


だからさ、俺に言うなって。

しかもあいつ俺のこと見てるっぽいけど全然視線合わないのがまじでウケる。


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