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少しのチャンスも逃すまいと、自分でも驚くほど積極的に動いたと思う。でも、動けて良かった。

早見くんたちと知り合えて、会話して、一緒にご飯を食べてる時間はすごく楽しかった。

不自然じゃなかったかな、とか、迷惑じゃなかったかな、とかあとになっていろいろ考えて、けれどそんな時間さえも楽しい。

彼らが別のクラスで良かった。

俺のことを目の敵にするあいつも居ない。


…そう思っていたのに。


昼休み、早見くんの隣には小池が居た。

こんなことになるならあの時、早見くんが部屋に来てくれた時、引き止めなければ良かった。

あの時のことを思い返すだけで悔しくなってくる。


小池の存在がチラつくと、どうしても怖気付いてしまう。情けないけれど、俺は隣に小池が居る早見くんの元へは、向かっていくことができなかった。


「咲田くん!どした!?」


お弁当を持ってC組の教室を引き返した俺を、矢野くんが走って追いかけてきてくれた。


「…あー…、なんか、お邪魔かと思って。」

「お邪魔?あ、さっき想のとこ来たやつ?」

「…うん。」


咄嗟に口から出てきたのは微塵も思っていないそんな言葉。顔が引きつりそうになる。


「あれ誰?知り合い?」

「同じクラスのやつ。…あんまり仲良くないんだよなぁ…。」

「ふぅん、そうなんだ。」


矢野くんと話しながら無意識に戻ってきていたA組の教室前で、矢野くんはハッとしたように口を開く。


「あっ!てか俺ご飯持ってくれば良かった!咲田くんと一緒に食べようと思ったのに!」


両手を広げたポーズで残念そうな顔をして立ち止まる矢野くんにちょっと笑いながら、持っていたお弁当の一つを差し出す。


「…良かったら食べる?」

「え!いいの!?」

「…あ、早見くんご飯あるかな…。」

「あ〜いいのいいの、あいつのことは気にしなくて!」


イヒヒ、とイタズラする子供のように笑う矢野くんが、俺の背をグイグイ押しながらスキップでA組の教室に足を踏み入れた。


いつも楽しそうな矢野くんにつられるように、自然に笑みが漏れる。


A組の教室でご飯を食べていたクラスメイトたちは、矢野くんの登場にざわりと口々に矢野くんのことを話し、注目し始める。

けれど矢野くんは周囲を気にすることも無く、いやそもそも気付いていないのか、明るくお弁当の話をしている。


「いっつも想のやつ美味しそうな弁当食ってて羨ましかったんだよな〜、自分は自炊しないくせに俺の弁当はディスってくるしさ〜。」


その話だけで、2人の仲の良さが窺える。


「ほんとに2人仲良いよな。」

「あーまあ想とは腐れ縁ってやつだなぁ。」


と、そんな話から始まり、早見くんとは幼少期からの付き合いだという矢野くんと早見くんの話をたくさん聞くことができた。

そのおかげで、楽しい話題にちょっとだけ、小池の存在を忘れることができた昼休みだった。



けれどやっぱり、顔を見ると嫌な気持ちになる。


A組の教室に返ってきた小池が、「あ〜昼休み楽しかった!」と言いながら席に着くが、その時チラリと小池の目が俺へ向けられ、ムッとしてしまった俺に対し、小池はにっこり笑っている。


「小池くんどこ行ってたんだよー、一緒に飯食えなかったじゃん!」

「C組の教室だよ。彼氏とご飯食べてたのー。」

「へ!?彼氏!?いたの!?誰!?」

「早見くん。」


わざと聞こえる声で話しているのか、クラスメイトと会話する小池の声が聞きたくなくても聞こえてくる。

彼氏って…平気な顔して嘘つきやがって…。

怒りで手に力が入る。


「へ、早見?ってあの眼鏡か!?」

「そうそう、眼鏡。かっこいいでしょ〜。」

「かっこいい、かぁ?いや、まあ悪くねえけど…小池くんならもっといい奴いるじゃん?」

「えー、早見くん超かっこいいのに。見る目ないなー。」


小池はそんな話をしながら、クスクス愉快そうに笑っている。


俺は、腸が煮えくり返る思いで、その後の残りの授業を受けた。


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