04
結局あの後びしょ濡れになるまで屋上にいた私は、廊下を歩いてる時すれ違った教師に早退するように言われ、転入初日から早退する事となった。
こんな時間に家にいても暇なので一旦家に戻ってシャワーを浴び、身なりをきちんとしてから東京のとある商店街まで来ていた。
愛想のいいおばちゃんおじちゃんにどんな店があるのか訪ねながら、結局はここ、ゲームセンターまでやってきてしまった。
「ポップン探そっと」
店内に入れば、外の喧騒とはまた別のそれが広がっていた。
雨が降っているにも関わらず帰宅途中寄り道でもしたのであろう少年少女たちがワイワイと青春を謳歌している。
昔から好きなリズムゲーム機を探しあて百円を投入。9つのボタンモードでゲーム開始。
「〜♪〜〜♪」
選択した曲を口ずさみながらリズムにのってボタンを押していく。
「〜♪〜♪〜〜♪」
…。
……。
………。
…………?
…心なしか、人が集まってきたような気がする。
若干の視線を感じながら一曲目が終了した。ちなみに間違えは一つもなかった。エッヘン。
何故か巻き起こった拍手に疑問を感じながら、続く二曲もパーフェクトで終了。
「ふぃ〜…」
足元の荷物を持ち上げその場を去ろうとした時、突然誰かに腕を捕まれた。
「…ん?」
「なあ、アンタ!」
「…は」
…か、
神尾アキラ…!そして伊武深司!!
この二人はテニプリでもかなり好きな部類に入っていたキャラだ。
私の脳内はもうバブル真っ盛りだった。
なんで今日はこんなについてるのだろう。
柳さんに続きアキラと深司に出会えるなんて、この世界で第2の人生を送る事を選択したのは間違いではなかったようだ。
だが、今私はこの子達を知らないフリをしなくてはならない。辛いな。
「何、君」
「俺と対戦しろ!」
「…ポップン?」
「ポップン」
…どうやらこのリズムバカは私のポップンの腕に対抗意識を燃やしているらしい。
そういう事なら私のポップン魂が黙っていない。正々堂々と勝負だ。
「別にいいけど…どーせ私が勝つし」
「なにぃ〜!?くそぅ、勝負だ!!」
かくして、私とアキラのポップン対決が始まった。
「…まあ、元気だしなよ少年、上には上がいるって」
「そうだよ神尾、そろそろ立ち直りなよ。…まったく、ゲームごときでこんなに落ち込まれちゃたまったもんじゃないよ。こいつのこういうとこ、困るんだよなぁ…」
ポップンはやはり私の圧勝。その後数々のリズムゲームを対戦したが全て私の勝利という形でアキラとのリズム対決は幕を閉じた。
負けたアキラにはコーヒーを奢ってもらい、飲食コーナーに移り三人で椅子に腰掛けていた。
「…くそぅ…俺はなぁ、リズムゲームには絶対の自信を持ってたんだよ!それをこんなとこで負けて…ううぅ」
「ま、腕磨いて出直すんだな」
「……そんなことよりさ、アンタ名前は?」
「そんなことぉ!?」
「そういえばまだ自己紹介してなかったっけ。立海中等部三年の風篠怜。よろしく」
うん、人に名前を聞くときはまず自分からだろ…って突っ込みはしないよ。あえてね。
「立海か…って三年!?年上だったのかよ」
「うん」
「…俺は不動峰2年の伊武深司。……なんだよ、年上には敬語使えとか言うんじゃないだろうな。今更使わないからね」
「俺は神尾アキラ!同じく不動峰2年。ま、改めてよろしくな」
あー、やっぱかわいいなぁ。2年独特の魅力ってのがあるよね、うん。
好きな学校だからといって立海を選んだのを少しだけ後悔した瞬間だった。不動峰ー……。
まあ、不動峰を選んでたら選んでたで、それはそれでまた後悔していたのだろう。
「おーよろしくー…って、もうこんな時間か」
気づけば時計の針は6時半をさしていた。
買い物と晩御飯の支度しねぇと…。お兄さん夕飯も来んのかな?
「そろそろ私は帰るぞ少年達」
「あっ、じゃあ連絡先教えてくれよ」
「?別にいいけど」
「…へー、もしかして神尾…」
「へ?…なっ、ち、違う!また勝負するためだっての!」
そろそろ帰ろうと立ち上がると、アキラに連絡先を教えてくれと頼まれたので交換してやった。(もちろん深司のもしっかりゲット)
わたわたと必死になっているアキラはやはりかわいかった。
「それじゃーなー少年達よ」
「次は俺が勝つからな!」
「…さっきから少年達少年達って、名前教えたのになんなの?嫌がらせ?あ、もしかしてもう忘れたとか。…だとしたら質悪いよなぁ…」
「…」
「…。アキラ深司ー、じゃーなー!」
…とりあえず、深司のボヤキは生で聞くと効果絶大だった。
一緒にゲームをしていて気づいたけど、彼らと私は結構相性がいいと思う。
これからもちょくちょく一緒に遊びたいなぁ、なんて思った。
素晴らしい出逢いこの二人、たぶん前の世界で出会っていても、仲良くできたと思う。
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