03

所謂迷子ってやつですか。
…中学校で?
……ダサすぎやしませんか、それ。





遅刻しそうな事に気づいた私は、お兄さんから制服をぶんどって急いで準備を終わらせ家を出た。
その辺を歩いている人に道を尋ねながらなんとか立海まではたどり着いたが、問題はそこからだった。
大学附属中学という事で敷地は広い。
そして中等部にたどり着いたはいいものの、建物の構造もよく分かっていない。
とりあえずふらふらと校舎内を歩いて、冒頭に至る。
もう朝のホームルームが始まっているのだろう。廊下には生徒はおろか教師の姿も見えない。

「うーん、どうしたものか……あ、」

建物の一階をしばらく歩き、ようやく職員室を見つけた。
コンコンとノックをし、職員室の扉を開く。
初日から遅刻ですんまそん。

「失礼しまーす、今日転入予定の風篠ですー」
「おぉ、待ってたよ!」

職員室内には数名の教師がいて、全員がこちらを振り向いた。
…うざ。おっと失敬。
近づいてきた1人の教師は、いやー事故にでもあったのかと思ったよ、とかなんとか言いながら教室まで案内してくれた。
…ま、事故にあったからここにいる訳なんですがね。





廊下を歩き階段を登り、ようやくそれらしい教室の前に到着した。

「ここが君の入るクラスだ。今担任の先生を呼んでくるな」

あ、あんたが担任なんじゃないんだ。
案内してくれた教師はノックをして教室に入っていき、しばらくして出てきてそれじゃあ頑張れよ、と言って去っていった。

「君が風篠怜さんか、転校初日から遅刻なんてやるなー」

扉から顔を出した担任らしき若い男は私の姿を見ると一瞬固まり、苦笑いを浮かべて私の腕を掴んで教室へ引っ張りこんだ。

「いやーホームルームに間に合ってよかった、じゃあ簡単に自己紹介して」

クラスにはなかなかの人数の生徒がいたが、ほとんどが制服を着崩し髪に赤メッシュの入った私の姿を見て引いてる感じだった。
ちなみにこのクラスにはテニス部のジャッカルがいるようだ。うん、目立つね、あの頭。

「…風篠怜。まあてきとーにヨロシクしてください」

…シーン…。
あまりに適当すぎる私の自己紹介は彼らには衝撃的すぎたようだ。担任すら言葉を発する事を忘れ教室は静まりかえっている。

「…あのー…」
「…え、あ、ああ。じゃあ一番後ろのあの席に座ってくれ」

そう言って指さされたのは一番後ろの窓際の席。
四角形から一つだけ飛び出た感じだ。
席について近所の子達に軽く挨拶。…皆若干苦笑い気味だ。
はいはい、どうせ見た目不良ですよ赤メッシュですよ。
まあ不良だのなんだのと、以上の事で分かった方も多いと思う。
総長とは、つまりそういう意味での総長だ。
まあ私はまだ中学生だったし?そんな本格的に先輩達とつるんではいなかったけど。というか、総長が許さなかった。

中学卒業したら、な。

いつもそうやって、私が危ない事に首をつっこみすぎないように面倒を見てくれていた。

少しだけ懐かしい思い出を巡らせながら、始まった一時間目の授業に耳をすませた。
……嘘です、初っぱなから居眠りしてました。





時は流れ昼休み。
休み時間には、お決まりの質問責めなんて事はなく、ちらほらと出身地や部活などを聞かれた程度だった。(ちなみに私は部活は軽音部に所属していた。)
屋上へと来た私は、扉の鍵が開いているのを確認し、外に出てフェンスの近くに腰をおろして昼食をとっている。
(スーパーのおばちゃん)お手製のハムタマゴサンドをかじりながら、携帯から音楽を流す。
…やっぱりYUIはいい声してる。
生前(トリップする前)好きだった女性アーティストの曲を聞きながら寝転がり、空を見上げた。
そういえば、昨日パソコンでこの世界の事を調べてみた。すると面白い事にこの世界は私が前いた世界とほぼほぼ同じだった。ただ違った事は、見事にテニプリの情報だけが抜け落ちていたというところだ。
大好きな歌手も漫画も、テニプリ関連以外は全てあったということに安心したのと同時に、少し寂しくもあった。
そうか。もうテニスの王子様は読めないのか。

「……」

そもそもなぜ私が屋上にきたのか。理由はキャラと会えるかも、なんて希望を持っていた訳ではない。
見上げた空は曇天で、今にも雨が降りだしそうだ。
聞き慣れた音楽を聴いて安心したかった私は、これなら人は誰もこないだろうと踏んで屋上へとおもむいたのである。

「あー、降ってきちゃった」

寝転がる私にポツリポツリとあたる水滴。
それでも起き上がるのはしんどくて、わふわふとサンドイッチを急いで平らげ、四肢を投げだし灰色の空をじっと見つめる。
流れていく灰色の雲は眠気を誘い、若干うとうとしてきた時だった。

「雨にうたれながら昼寝か?」
「……ん?」

ちらりと視線だけを出入口に向けると、思っても見なかった人物が立っていた。


…や、柳さんじゃないか!?
間違いない。あれはテニス部の参謀、柳蓮二だ。
まさかこんなところでこんな状況で出会うことになるとは思いもしなかった。
え、嘘?やばいじゃんこれ。完璧変人じゃんこれ私。

「お前は今日転入してきた風篠怜だな。…風邪をひくぞ、中に入ったらどうだ?」
「あ、あーいや、雨にうたれんの結構好きだから…。てか、なんで私の名前知ってんの?」
「新しい情報はいち早く手にいれたい性分でね」

うおー、初めてテニキャラと会話しちまった。
表面では無表情を装うも、脳内ではウハウハのドキドキだ。
なんてったってテニプリ大好きだし。
まあそれはおいといて…。どうしよう、この状況。
とりあえず起き上がり柳に問う。

「…君こそ、雨降ってんのになんで屋上に?」
「人探しをしているのだが…。銀髪の男を見なかったか?」
「いや、見てないな」

銀髪…。おそらく仁王の事だろう。銀髪の男がそう何人もいてたまるか!

「そうか…。それでは他をあたるとしよう。風篠さんも、体が冷える前に中に入れよ」

それじゃあ、といって去っていく柳の背中を見送り、完全に見えなくなったところで再び横になった。
…人の好意を無にするのは私の得意技ですけどなにか?

「ってか、うわ、まじやっべぇ…」





和風美人

柳さんマジで美人さんだったな、なんて、ニヤニヤしながら一人屋上で悶えていた。





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