20

「師匠ー!……てあり、仁王先輩」
「おー赤也少年」
「よ、赤也」

昼休みになり師匠を昼飯に誘おうと教室まで迎えに行くと、彼女はすでにそこにはいなかった。
こういう場合は大体屋上にいるため速攻で向かうと、屋上には師匠と、なぜか仁王先輩がいた。

「昼飯持ってきたっスよ、確かコロッケパンでいいんスよね!」
「おーサンキュ、はいお金」
「いいっスよ!」
「そ?んじゃ今度は私が奢るわ」

二人が座っている場所までのはしごを昇りつつ応答をし合う。よっ、とはしごを昇りきり三人で三角形になるように座り師匠へいつものコロッケパンとお茶を渡した。

「仁王先輩と師匠って仲良かったんスか?」
「たった今友達になった」
「は?」
「コイツがどうしても私と友達になりたいって言うからさぁ」

師匠は少しニヤリとしながら仁王先輩を見やると「頂きます」と手を合わせてからコロッケパンにかじりついた。俺も同じく手を合わせ、たくさんあるおにぎりやパンの中から一つ目を取り頬張る。
仁王先輩はばつが悪そうに視線を空中にさ迷わせている。

「仁王先輩が自分から人に関わるなんて珍しいっスね!」
「ふーん、仁王君ってそんなに人見知りなんだ?」
「そっスよ!テニス部以外の人と仲良くしてる所って見たことないっス。……あ、仁王先輩もツナサンド以外なら好きなの取っていいっスよ!」
「……んじゃ、たらこのおにぎりもらう」

師匠は仁王先輩をまじまじと見つめながらへえ〜と呟いた。

「そういう赤也は?」
「はい?」
「友達。ちゃんといんの?」
「……いますよ」

……本当は自分も仁王先輩の事を言えるような人間ではない。と言うか、むしろ俺の方が仁王先輩よりも酷いくらいかもしれない。
テニス部の2年連中で俺にいい印象を持っている奴は少ない。ほぼゼロだろう。
2年で一人レギュラーの座を勝ち取った俺に、大抵の奴は嫉妬の念を抱いている。

「ふーん、ちょっと意外だな」
「そ、そっスか?」

じとっとこちらを見る師匠に焦り、なんとか誤魔化そうと焼きそばパンにかじりついた。
まあ、まるっきり嘘という訳ではない。テニス部以外の奴は普通に仲良くしてくれるし、女子からも(多少怖がられたりしてはいるが)嫌われてはいない………と思う。

「(俺のファンだっているしな!)」
「……と、赤也が考えている確率85%」
「どわっ!?」

いきなり背後から聞こえた声に驚き勢いよく振り返る。するとそこにはテニス部参謀こと柳蓮二先輩がいた。

「おー蓮二」
「やあ怜。…ほう、まさかあの仁王をなつかせるとは」
「なつかせるって……動物か俺は!」

柳先輩は仁王先輩にちょっかいを出すのが好きだ。(というか、仁王先輩で遊ぶのが好き?)仁王先輩も柳先輩といる時は楽しげだった。しかし最近柳先輩は師匠とばかりいるから、仁王先輩が寂しそうにしていた。
まあ今となっては、仁王先輩が師匠と友達になった訳だから皆寂しい思いはしなくてすむだろう!

「むふっ」
「……何一人で笑ってんの?」
「いやいや!なんでもないっスよ。それにしても、仁王先輩はなんで師匠に友達になってくれなんて言ったんスか?」
「べ…別になんだってええじゃろ」

かねてより疑問に感じていた事を尋ねてみる。すると仁王先輩は焦ったようにどもり、そっぽを向いてしまった。
……余計に気になる。

「確かに俺としても是非聞いてみたい話だ」

柳先輩が目を光らせた。いつの間にか手にはノートとシャーペンを持っている。

「師匠は知ってるんスか?」
「うーん、たぶん」
「あっ、言うんじゃなか!」
「なんで?恥ずかしい訳?」
「………うん」
「………じゃ、内緒」
「ええー!?」
「ちっ」

師匠がそう言うと仁王先輩は安心したようにほっと息を吐き口元を緩めた。

「ちぇー……」

やっぱり、師匠は不思議な人だ。
今までほとんど女子と関わらずにいたあの仁王先輩までも気を許し、更には柳先輩までこんな短期間で名前で呼び合う程の仲になってしまった。
俺の中に存在する彼女への尊敬と疑問は、日に日に増していった。





増大する気持ち

恐怖?好奇?…きっと両方。




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うわあ久々の更新。皆様すみません…。



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