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いやいやいや、私コンビニへ行きたいんですけど。いやまあ、行きたいなら行けばいいじゃんって話ですが。
しかし、まさかあの仁王がカツアゲされている現場を目撃してしまうとは夢にも思わないじゃないですか。ねえ。
「はいお財布拝借〜と」
「うぅ…」
財布をポケットから抜きとられる仁王。奴は呆然とした情けない顔で財布が開けられるのを見ていた。
そこには不敵な詐欺師の面影は微塵もなかった。
「(助ける……しかないよなやっぱ)」
暗がりの方へと足を進め、男達の背後に立つ。ちょんちょんと一人の男の肩をつつくと、「あん?」と言いながら後ろを振り返った。
「あのさー、やっぱカツアゲとかっていけないと思うんだよね、うん」
「ああ?なんだテメェは。こいつのツレか?」
「そう言う訳ではないけど」
「だったら黙っとけや」
「それともお前もお小遣いくれる訳?」
奴らは標的をこっちに変えてきた。
まあ確かに?金なら一杯もらってますけど?
「テメェらみてえなのにやる金は1銭たりともねえっつの」
男の一人がこちらに手を伸ばしてくる。その手を払いのけ襟元を掴み、地面に叩きつけた。
「ぐえぶっ!」
「…はぁ〜あ」
それに続きその他の男達もこのアマぁ!などと叫びながら殴りかかってきたので、ほぼ同じようになぎ倒す。ついでにポテッと落とされた仁王の財布も拾う。男達はヨロヨロと起き上がると、「くそっ」などと吐き捨てバタバタと走り去っていった。
「……」
「……?」
そして、フッと感じた視線。……そういえば。
「う…」
視線を感じた方へと目を向けると、今まで放置していた仁王がキラキラと目を輝かせながらこちらを見つめていた。
「ほ…ほら財布」
「カッ……」
「か?」
「カッコイイ…!!」
「……は」
「……」
「……」
「……」
「……」
スタスタスタスタ。
テクテクテクテク。
スタスタスタスタ。
テクテクテクテク。
……なんだこの無言の追いかけっこは。
あの後コンビニへと向かい始めた私に何故か着いてきた仁王。
「……」
「……」
コンビニで買い物をしている時も。
「……」
「……」
WJを立ち読みしている時も。
何故かニコニコしながら隣に立っていた。
「…うがあああー!」
「ビクッ」
そしてとうとう我慢できなくなった私は全力で奴をまき、なんとか自宅まで戻ったのだった。
「な……なんなんだアイツは」
次の日。
なんとか寝坊せず朝から学校に行き教室に入りかけると、なぜか仁王が私の席に座っていたのでしたとさ。
「あっ!」
「………」
気付いた仁王が声を上げ立ち上がった。
「……」
グッバイ、今日の学校生活。
帰宅する気満々でクルリと回れ右。そのまま廊下を進む。
「ちょ…ちょっと待った、なんで逃げるんじゃ!」
仁王が追ってくるため、必然的に昨日と同じく早歩きでの追いかけっこをするはめに。
「なんなんだお前着いてくんなよ!」
「ちょっ、話くらい聞きんしゃい!なんか俺に冷たくないか!?」
「気のせい気のせい」
軽くスルーをし突き当たりを曲がる。すると前方に鬼の副部長さんが。
……いい事思いついた。
壁側を歩く真田の横をスッと横切り、仁王がこちらに曲がってくるのを待つ。
そして銀の髪が見えたと思った瞬間、仁王は真田と衝突した。
「む?何をしておるか仁王。もうHRが始まるだろう!」
「ピ…ピヨ」
「(うっしゃ!)」
逃亡成功。
私は真田に連れられる仁王を見送り、足早に屋上へと向かったのだった。
空は晴天。
私は今度行う事になったライブの曲をザッと練習しようと、ギターや楽譜を辺りに広げ腰を下ろしていた。
「曲はとりあえずこないだあいつらに渡したのでいいとして……あとは場所かぁ」
楽譜に目を通しつつ膝の上に乗せたギターを弄ぶ。
東京都内で行うにしろ、野外だ。ゲリラライブなどはさずがに不可能だし、近隣への許可を取り、場所を確保し、道具の運搬をし……。
「…ふわぁ〜」
太陽から降り注ぐ暖かな光とギターから発せられる心地よい音が眠気を誘う。
「…ま、なんとかなるっしょ」
なるようになるの精神でいこう。
そう思いながら横になり、私はしばしの惰眠をむさぼる事にした。
そうしてどれだけの間眠っていたでしょう。
目が覚めると隣には、一人の銀髪の少年が眠っておりましたとさ。
「…」
「グゥ」
「…」
「グゥ」
「…イラッ」
呑気に眠る仁王雅治を見下ろす。太陽の光を反射し、髪がキラキラと光っていた。それの綺麗なことといったらまたさらにイラッとするほどで、髪が風にサラサラと泳ぐたびに目が釘付けになる。
「……おい」
「グゥ」
「おーいー!」
「……んぁ?なんじゃ起きとったんか……ふわぁ〜」
声をかければムクリと起き上がった仁王は、一つ欠伸をし伸びをした。…猫みたい。
「なんで隣で寝てるし」
「え……居たから?」
「……マジでなんな訳…」
至極真面目な顔で答える仁王にもはや怒る気力も湧かない。
はあ…と一つため息を吐けば、仁王は困ったような顔をしながらこちらを見た。
「…おまえさん、俺の事嫌いか」
「嫌いって…嫌いになる要素ないっしょ別に。そんな話した事もない訳だし」
「じゃなんで避けんの」
「嫌いって言うか……に、苦手だから」
「……」
正直にそう言うと、まさにしょんぼりといった効果音が付きそうな程に肩を落とした。
「…俺はおまんと友達になりたいのに」
「…え?」
「だから、友達になりたい」
……え、何これ。嘘、これ………え?やだこれ。何?友達?今コイツ友達になりたいって言った?
……いやいやいやいや。ないないないない。
「ハハハハハハハ!」
「!?」
あの天下の仁王雅治が?友達になりたい?そんな事がありえるかっての。
クラスでも人気者で、女子からもモテモテで、オマケに運動も勉強もできる。
…うん、友達なんか腐る程いるだろう。
そんな気持ちがつい笑い声になって出てしまい、仁王は怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「友達なんか腐る程いるんじゃない?部活でもクラスでも人気者なんデショ」
「友達……じゃない。ただ学校が同じってだけじゃ。……本当の友達なんて、数えられるくらいしかおらん」
「……ふーん」
こいつも存外、苦労しているらしい。
「おまんだって昨日あんな場面見たんじゃ、分かってるんじゃろ?…皆が思ってるような仁王雅治なんてしょせん作り物。本当は…本当の俺は……」
「どうしようもないヘタレだ……て?」
コクリと小さく頷く。
……やっぱりこの世界は何処かがおかしい。
音楽をやっている奴がいたり、キャラクターの性格が変になっていたり。
……ここはもしかしたら、あのテニスの王子様とは違う世界なのだろうか?
それともただ単に、漫画やアニメで描かれていなかった一面を、この世界にきた事によって見る事ができているだけ?
「……まあ、どっちでもいいか」
ボソッと呟いた言葉は仁王には届いていなかったらしく一安心。
ここがあのテニスの王子様の世界であろうがなかろうが、コイツらは確かにここにいて、ここで生きてる。そして私も。
ここにいる仁王雅治の本当の姿はこれなんだ。私がずっと苦手に思っていた仁王雅治は、ここにはいない。
だったらもうそれでいいじゃないか。ここで、今まで通りの好き勝手な私として生きていけば。
「仁王君」
「ん?」
「友達、なろっか」
生きるのはこの世界第二の人生、エンジョイするって決めたんだ。
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だばばばば更新遅れてすんまっせえええん!
てか仁王が誰これ状態なんですが\(^p^)/
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