16

「……」
「……」

何故こんな状態になっているのだろう。
確か私は、たまにはテニスのシーンでも見てみようと思い蓮二についてきたのだ。
ところがコートの周りはきゃっきゃっと騒いでいる女の子達で見事に賑わっていた。もしかしたら中等部どころか高等部大学部のお姉様方までいるかもしれない。余程暇なのだろう。
それを見た私からはテニス観戦する気持ちなんて一ミリも残さずぶっ飛び、人が引くまで(引くのかは分からないが)暫く中庭で時間を潰す事にしたのだ。
だがただぼけーっとしているのにも限界がある。
私は座っていたベンチから立ち上がりギターを持ってすぐ側にはえていた木によじ登った。
手頃な幹に座り、遠くに見えるコートを眺めながらギターを取り出して弾き語りでしばらく楽しんでいると、現在目先にいるコイツが現れたのである。
そう、氷帝学園中等部2年、日吉若だ。

「…おい」
「へ?」

嫌に続いていた沈黙を破ったのは日吉の方だった。

「そんな所にいると危ないんじゃないのか?」
「あ、ああーうん。そうだねありがとう」
「いや…」
「……」
「……」

…な、なにこれええええ。
心配してくれたであろう日吉にお礼の言葉を言うもまた会話は途切れてしまう。
好きなキャラクターである日吉に会えた事に内心歓喜している。いるっちゃあいるが、初対面がこんな変人前回なシーンなので、いかにも気まずい。
とりあえず私はギターをケースにしまい、よじよじと木から降りていった。

「…えーと、君氷帝だよね。テニス部の人?」
「2年の日吉若」
「日吉君かー」
「師匠ぉぉぉぉ!!」
「ん?」

気まずい空気を切り裂くように響いた聞きなれた声。
日吉君が来たのと同じ方向を見てみれば、二人の少年が歩いてきていた。(いや一人は猛ダッシュしているが)

「おぉ切原少年」
「こんちわッス!…って、赤也って呼んで下さいって言ったじゃないっスか!」
「ああそうだっけ」

すると切原少年…もとい赤也は、水道で顔を洗っている日吉の方を向きキョトンとした目をしながら日吉に話かけた。

「日吉、お前こんなとこで何してんだよ?」

日吉は顔を上げるとタオルで水を拭き取りながら赤也に答えた。

「見れば分かるだろ、顔洗いに来たんだよ。向こうの水道は満員だったからな」
「ふ〜ん…」
「日吉が怜の歌に聞き惚れていた確率72%」
「おわっ!」

いきなり背後から聞こえた声に驚いたのであろう赤也が声をあげて振り向いた。ゆっくりと歩いてきていた蓮二が赤也より少々遅れてたどり着いたようだ。

「……別に聞き惚れてなんかいませんよ」
「て言うか、よく私が歌ってたって分かったね」
「お前の性格上、飽きたらとりあえず歌い出すだろう」

蓮二の的を射ている発言に確かにと頷く。
赤也が俺は一回も師匠の歌聞いたことねえのに!!とかなんとかボヤいているのを聞きながらふと日吉が顔を洗っていた水道の方を向く。
日吉はもうそこには居なかった。
周りをチラチラと見渡すと、テニスコート方面へ向かう日吉の後ろ姿を発見。しばらく見続け、飽きたのでやめた。






日も暮れて辺りが薄暗くなってきた頃、立海と氷帝の合同練習は終了した。
赤也と蓮二も練習へ戻ったあの後、私は暇になったので校内散策へと向かった。
大学附属というだけあって敷地は広い広い、あやうく迷子になるところだったが途中に出会った黒い蝶を追いかけてみるとなんと中庭に戻る事が出来た。ミラクルだ。
それからしばらくギターの練習や曲作りなどをしていると、制服に着替えた蓮二がこちらに向かって来ていた。

「結局練習の様子は見なかったのか」
「だって人多いんだもん。まあちょっとは見たけど」

それから荷物をまとめながら話している内に、この後ライブで使う曲やなんやかんやのいろいろな打ち合わせをかねファミレスへ向かう事になった。

「柳がファミレスとか違和感ー」
「失礼な。俺だってファミレスくらい行くぞ」









「……甘党だったとは意外だな」
「失礼な。私だってスイーツくらい食うよ」
「それにしても頼みすぎだ」

テーブルはパフェやケーキといったスイーツ達で埋め尽くされた。あと蓮二のコーヒー。

「まあそれはおいといて………深司と仁はいないけど、軽く打ち合わせ始めようか」

東京と神奈川は隣接してはいるものの、やはりしょっちゅう電車に乗るには金銭面での負担が大きい。私はお兄さんの力によってがっぽりともらっているため問題はないが、一般的な中学生の小遣いには結構な打撃だろう。二人には後で集まった時に詳しく説明する事になった。

「では怜、まず問題のライブを行う場所だが……」
「師匠おおおお!柳先ぱあああああい!」
「っ!けほっごほっ…」
「………この声は」

………コーヒーが!
入り口方面から聞こえた馬鹿デカイ声。お陰で驚きコーヒーが気管に侵入した。
声が聞こえた方へと顔を向けると、そこには二人の少年が立っていた。

「ファミレス来るのになんで俺も呼んでくんないんスかああ!?」

切原赤也、そして幸村精市だ。
二人は私達が座っているテーブルの前までくると、ニコッと効果音の付きそうな笑顔を浮かべて此方を見据えた。

「相席でもいいよね?」
「……ああ」
「(はあ!?)」

あの…………打ち合わせ、は?






強制終了

ですよね分かりますははは。………くそっ!





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座ってる構図的にはこんな感じ。(図が崩れてたらすみません)

柳 幸村
┌────┐
│    │
└────┘
怜 赤也




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