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「君が最近よく蓮二と一緒にいるっていう女の子だよね」
「う、うんまあ」

結局幸村の無言の圧力と赤也の無邪気な笑顔に押し負け相席となった。
蓮二は音楽好きを隠しているので打ち合わせは強制終了。
赤也はステーキを頼み私の隣でそれをほおばっているが、幸村はというと張り付けたような笑顔のまま私を見続けている。(なんか尋問されてる気分だ)

「学校にはもう馴染んだかい?」
「んーまあまあかな」
「そう。ところで………」

幸村はそこで一旦区切り紅茶をすすると、カップを置いてから衝撃の一言を放った。

「君と蓮二は付き合っているのかな?」
「は?」
「ごふっ!?」
「ふむ……」

いや、ふむ……じゃねえし。
私はステーキをつまらせたのであろう赤也の背中を叩きながら笑顔の幸村を訝しげに見つめた。
……うーむ、読めん。

「げほっごほっ……そ、それ俺も気になるっス!前に柳先輩に聞いた時も相棒だとしか言ってくれなかったし!」
「相棒か…まあ間違ってはないね。でもまあ恋人として付き合っているのかと聞かれたら……答えはNOだ」

私達が付き合ってる?馬鹿馬鹿しいにも程がある。私は蓮二を恋愛対象としては見ていないし、恐らく彼も同じだ。
相棒、まさにその言葉が一番しっくりくる。
そう答えると幸村はニコッと笑顔を浮かべてよかった、と口を開いた。
それにしても友人の恋愛情報を気にするとはやはりこいつも中学生だ。まだまだ子供、可愛いものじゃない。

「フフフ、もし蓮二が恋愛なんかのせいでテニスに身が入らなくなったとしたら俺は君を許せないからね。本当良かった」

……前言撤回、可愛くない。
頬杖を付きニコニコと笑顔を浮かべる幸村に、ほんの少しの苛立ちと殺意を覚えた私は決して間違っていないと思う。








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赤也視点


「あっ!?待ってくださいよ師匠!帰っちゃうんスか!?」

まだ話始めて少ししか経ってないのに!
そう言う間もなく師匠は財布から金を取りだしテーブルに置くと、荷物を持って席を立ってしまった。
俺は急いで財布から500円をとり出しテーブルに置いて、出口に向かう師匠の背中を追った。
背後から幸村部長の500円じゃ全然足りないんだけど……という声が聞こえたが、今回ばかりは聞こえないふりをした。
すみません部長。





「待ってくださいよー!」

外に出ると師匠は既に遥か前方にいた。
小走りでなんとか追い付き腕を組んでみる。

「えへへ」
「やめろよ」
「まあまあいいじゃないっスか!」

そう言うと師匠は一瞬眉間に皺を寄せたものの何も言わなくなった。
それをいい事に更に先輩にギュッとくっついてみる。今度は何の反応もしなかった。

「……師匠って、なんか不思議っス」

ふと、思った事を口に出してみた。
拒絶する事もなく、かと言って自分からズカズカと踏み込んでくる事もしない。
けれども一緒にいてこんなに安心感を覚える人は、初めてだった。
それは一度助けてもらったからなのか、違う何かからなのか。

「……私からしたらお前達の方が不思議の塊だよ」
「え?」

ボソッと呟かれた師匠の言葉はよく聞こえず一度聞き返したが、何でもないとあしらわれた。

それから分かれ道に入るまでの間俺は延々と師匠に話かけ、師匠はそれに相づちを打った。
一見ちゃんと話を聞いてなさそうに見えて、それでもきちんと意味の通ってる相づちに、やはりちゃんと話を聞いてくれているんだと言う事が分かる。
分かれ道にさしかかり家まで送らせてくれと言ったが、ぶっちゃけ師匠は俺なんかよりも強いのであっさりと拒否された。
気をつけて帰れよ、と本来なら男の俺が言うべき言葉に元気よく返事をし、歩き去っていく師匠の背を見送った。

「……かっけえなぁ…」




見送るその背中

温かくて凛としていて、まるで俺を包み込んでくれるような、そんな人だと思った。





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