08

「という訳で、私達とバンド組まない?」
「どういう訳だコラ」

亜久津と出会った後私はなんとか彼に話を聞いてもらうことに成功した。
自己紹介をし、とりあえずは名前も聞き(知ってるけど)、メンバーが足りないのだという現状を。
そう、聞いてもらうことには成功したのだが…。

「ハッ、んなめんどくせぇ事誰がするか」
「…」

さっきからずっとこの調子で、バンドの話にノってはくれなさそうだ。
私はテーブル、彼はカウンター席に座った状態で話していて、少しばかり遠い距離感での会話となっている。
どうしたものか、と、今まで亜久津が叩いていたドラムへ目を向ける。窓から差し込む光に照らされてとても美しい。

まあまだ時間はあるしな、と最初は穏便に話を進めようと思っていた私だったが、亜久津の次の言葉を聞き、完全にぶちキレてしまうことになった。

「ガキの遊びの誘いなら他あたりな」

"ガキの遊びの誘い"?

「……ムカチーン」
「…あ?」

ユラリと立ち上がり亜久津の方へと近づいて行き、椅子に座る彼の横に立つ。

「なんだてめぇ、やんのか!?」
「…フフフ」
「…あ?」

ゴッ!!!

「っ!!」

え、何?と思った人のために説明しよう。
頭突きだ。あの亜久津に、亜久津仁に……頭突きをしてしまったのである。

「おー痛、亜久津君石頭〜」

ズキズキと痛むおでこをさすりながらジトッと亜久津をみやる。
彼はこれでもかと目を見開き、怒りをあらわにしていた。

「そりゃあこっちのセリフだ…!いきなり何しやがるてめえ、どたまかち割んぞ!!」
「だって君が侮辱したから」
「侮辱だぁ!?」

そう、あれは私にとって最大の侮辱だったのだ。
…私の音楽にかける想いを、ガキの遊びなんて言葉で片されたんだから。


「バンドは遊びなんかじゃねえ本気の本気だ!その想いを侮辱する事はぜってぇ許さねぇ!!」
「…てめぇ」

亜久津の胸ぐらを掴みながらそう言う。
しばらくの睨み合いが続いた後、1人の女性の声が響いた。

「いいじゃない仁、やってあげなさいよ」
「…チッ、てめぇか」

…ゆ、優紀ちゃんんんん!?
まさかのお母様ご登場ですかぁぁぁ!?
こ…これは驚いた。
あ、息子さんに頭突きなんてかましちゃってごめんなさい。親は勘弁してください居ないけど。

少しばかり焦りながら優紀ちゃんを見つめていると、彼女はこちらを見てニコリと微笑んだ。

「こんにちは、私は仁の母の亜久津優紀。優紀ちゃんってよんでね!」
「ババァが何言って…」
「私風篠怜。よろしく優紀ちゃん!」
「てめぇもノるな…!!」

ケーキを二皿乗せたお盆をもって奥から出てきた優紀ちゃんはカウンターの向こう側まできてお盆をおろした。
とても美味しそうなモンブランだ。

「ねえ仁。あなた、音楽好きなんでしょ?」
「それがどうした」
「テニス以外で仁があんなに夢中になったもの、お母さん初めて見たなぁ」
「けっ」

亜久津は椅子に腰をおろしてモンブランへと手を伸ばす。だがその手は目標のものに届く前に優紀ちゃんのチョップによって打ち落とされてしまった。………恐るべし母。

「仁にはさぁ…好きなモノを共有できる仲間が必要なんじゃないかな」
「…フン」
「フフ。…と言うわけで怜ちゃん、仁をよろしくね!」
「え、でも」

ジーっと亜久津を見る。まだ本人からの了承を得ていないため、ぶっちゃけ亜久津の本心がどうなのか知りたい。
正直なところ本当に嫌ならば無理に誘う事はしたくない。そんな事をして集めたメンバーで曲を作ったって、いいものは作れない。
しばらく黙ったままだった亜久津はチッと舌を打つと静かに口を開いた。

「…お前らの腕もまだ見てねぇんだ。下手だったりつまらなかったりしたら即辞める。いいな」
「…!ぃよし!…ありがと、よろしく仁」
「フフ。さ、ケーキ食べて。あ、今コーヒー入れるわね。マスター!」

私は仁の隣の席に腰かけモンブランを食べ始めた。
ちらりと隣の仁を盗み見る。相変わらず彼の眉間のシワは居座ったままだが、とりあえずは、結果オーライだろう。
モンブランを食べ心なしか先程より機嫌も良さそうだ。

………好きなモノを共有できる仲間、か。

「…いやー、モンブラン、美味いわ」






共有できる仲間

私が無くしてしまったモノ。それを再び手にする事は、許されるのだろうか。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -