薄紅色の心音





学校からショッピングモールに向かう道は、生徒たちの寄り道コースになっている。
その為、同じ制服を着ている生徒が多数いることで、あまり目立つことはなかった。
グレイは自転車を押しながら、ルーシィの歩く速度に合わせてくれる。自然と相手のことを思いやる、気に掛けることができるのは彼がモテる理由でもあるのだろう。

「…どうした?なんか静かだな」
「えっ、そう?」

グレイから話し掛けられる度に、ルーシィは冷や汗を掻いている。校門を出る時から背筋が凍るほどの視線を感じていたからだ。
その人物は、ジーっと二人の様子を窺うように一定の距離を保ちつつ、後ろから付いてくる。
グレイは気付いているのかわからない。
彼から視線を外して何気なく自転車を見ていると、不意に、ある疑問を浮かべて口を開いた。

「ねえ、グレイっていつも自転車だったっけ?」
「いや、いつもじゃねえんだけど…今朝、寝坊しちまって。自転車の方が早ぇーだろ?」
「そっか…」
「鞄、乗せてもいいぜ!」
「ううん、大丈夫よ」

そんな事したら…と、危うく心の声を出しそうになったが呑み込んだ。
もうすぐお店の看板が見えてくる。
すると、背後から名を呼ばれて振り返った。

「ルーシィー!グレイー!」
「へっ?…ナツ!?」
「オレも行くぞー!」

走りながら勢いをつけて軽々とグレイの自転車に飛び乗るナツは、二人に無邪気な笑顔を向けている。
ナツの体重が掛かり車輪が傾いたことで、グレイは両腕と右足を器用に使って倒れないように支えた。

「危ねえだろー」
「おっし、追いついたぞー!」

焦るグレイに笑って誤魔化す。ナツは元気よく右腕を上げて上機嫌だ。
しかし、グレイが自転車を動かすとみるみるうちに表情が歪んでくる。
彼は口元を両手で押さえて、

「うぷっ…」
「…おまえ、乗り物ダメだろーが」
「えっ、そうなの?」
「ああ」

グレイは大きな溜め息を吐き、呆れた顔を見せる。
ナツにも弱いものがあるんだと驚いたルーシィは、自転車から降りてしゃがんでいる彼に呼び掛けた。

「ナツ、大丈夫?」
「……おぅ」

自転車に乗った時間はほんの数秒であるが、気持ち悪そうに青褪めいている。汗も尋常ではない。
ルーシィはナツの横に屈んで、背中をさすった。

「心配いらねえよ」
「…うん」

心配そうにしている彼女に優しく声を掛けるグレイは、
コイツがこんな風に弱っている時はハッピーがよく背中さすってんだと、話しながら周囲を見回していた。

「…あ、そういえば」

いつも一緒にいる相棒の姿が見えないことに気付く。ナツが来たなら一緒に来るはずなのだが、後から飛んでくる様子もなかった。

「ハッピー、どうしたのかしら?」
「一緒じゃねえみたいだな」

二人がナツに視線を向けると、気分がようやく落ち着いてきたようでゆっくりと顔を上げた。マフラーを額に当てて汗を拭い立ち上がると、両手を広げて深呼吸をしている。
長く息を吐き出してから、ニッと笑った。

「ルーシィ、ありがとな」

鞄を持ち直して、ルーシィも立ち上がる。

「もう大丈夫なの?」
「おう!」

ナツはこの通りと、笑顔を返した。
緩んだマフラーを巻き直すと、後ろから声が掛かる。

「おいナツ、ハッピーは一緒じゃねえのか?」
「あー…途中まで一緒だったんだけど、猫の集会だっけか?慌ててそっち行ったぞ!」

グレイは猫の集会、なんだそれと、首を傾げていた。

「…猫の集会。それじゃ、慌てるわよねー」
「だろ?」

ハッピーの嬉しそうな顔を思い出しながら、クスリと笑う。
ナツが来たことでいつの間にか視線を感じなくなったルーシィは、そのことにホッとして自然と笑みが零れていた。






猫の集会に参加したいです^^私が小学生の頃に、りぼんで連載していた『ねこねこ幻想曲(ファンタジア)』という漫画でそういうシーンがありまして…思い出しながら懐かしいなぁと浸っておりました。


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