「これ空気抜けてるよ、レビィちゃん」
「ホントだ。こっち除けといて」

拭いたボールをかごに戻しながら、レビィが指をさす。ルーシィはそれに従って、柔らかいボールを転がした。
練習参加の許可はあっさりと下りた。と、言うよりも、許可を得るべき相手が居なかった。
顧問の教師は放任主義なのか練習中に姿を見せたことはないらしい。元より知り合いだったジェットとドロイには歓迎もされ、ガジルは面倒くさそうに「あ?」と言うだけだった。「良いって」と通訳してくれたレビィには、『本当に?』と『初対面なんだけどこの態度?』と思わず二重の意味で疑惑の眼差しを向けてしまったが。
ルーシィは三人を眺めて声を潜めた。

「マネージャーって大変そう」
「そうでもないよ。みんなのサポートって楽しいし」
「みんなの?」
「みっ、みんなの!」

レビィの視線が向かった先を、見逃すはずもない。ルーシィはボールで口元を隠した。

「ふーん?」
「も、もう!」

ボールが叩かれて、ぽこ、と音を立てる。かごの真上で手を放すと、それはひょい、と持ち上がった。

「あ、ナツ。着替えるの、遅いわよ!」

彼はボールを小脇に抱えてふんぞり返った。

「入ったばかりの新人がボールを触るなど、百年早いわ!」
「何キャラ!?」
「よっしルーシィ、パス練しよーぜー」
「そして無視!?」

ボールが弾んでだむだむと音が響く。グレイが通り過ぎざまに、彼の頭をぺし、と叩いた。

「柔軟くらいしろ。ルーシィもな」
「あたしはもう終わってるわよ」
「ちぇ」

ナツは片手でボールをかごに投げ入れた。グレイと一緒に、何やら喚き合いながらもストレッチを始める。

「こんなんしなくたって、オレはいつでも臨戦態勢だっての!」
「ほー、じゃあそれくらいじゃ物足りねぇんじゃねえか」
「へっ、こんなんまだまだ!」
「押してやるよ、おら!」
「いっ!?痛っ、いだだっ!裂ける裂ける!」
「てめえら、遅く来た上にうるせえんだよ!」
「ああ!?」
「んだと、ガジル!」

そこにガジルが加わって、あっと言う間に殴り合いになった。とは言え、三人とも攻撃を避けるためすかすかと腕や足が空中を切るだけだった。フラストレーションだけが溜まっていくようにも見える。
関わろうとはせずフットワークの練習を始めたジェットとドロイ、体育館の隅で応援するハッピーとリリーを順に見て、ルーシィはレビィを肘で突いた。

「まさか、これ止めるのもマネージャーの仕事?」
「ううん。止めてないよ」
「え?放っておくの?」
「うん。まあ良いんじゃない?ここは広いし」

「怪我するほどじゃないから」とレビィは苦笑いで答えた。その慣れた様子に、ルーシィは一つだけ引っかかったことを舌に乗せた。

「ガジルもあいつらと同じタイプなの?」
「い……一緒とは考えたくないんだけど…うん」
「そ、そっか……苦労するね」
「でっ、でもっ、いつもああじゃないんだよ?それにあれは準備運動にもなるしっ」

フォローしようと懸命なレビィが可愛らしい。こちらのにやにや笑いに気付いたか、彼女はこほん、と咳払いした。

「え、ええと。とにかく、すぐ飽きるよ」
「そっか……って、ホントに飽きてる!」

三人はすでに解散していた。こっちに向かってきたナツが不思議そうな顔をする。

「ん?なんだ?」
「あ、んーん。なんでもない」
「あれ、ルーシィはこれ着けねえの?」

彼は右腕を振った。その手首には、赤いリストバンドがある。
彼が普段から左手首にしている黒いそれと、ほぼ同じ大きさだった。見ると、グレイやガジルも同じ物を身に着けている。
レビィに目で問いかけると、彼女は頬を掻いた。

「ルーちゃんは要らないよ」
「えー、なんでだよ。不公平じゃねえか」
「スポーツに熱中して魔法が発動しそうになるのなんて、ナツ達くらいだよ。それにルーちゃんは元々必要ないの」
「なんで」
「ルーちゃんの魔法は鍵が必要だもの。鍵持って練習しないでしょ」
「むー」
「あ、それ、魔力抑えてるの?」

ナツがつまらなさそうに頷いて、それを撫でた。
確かに、魔法を使用していては練習にならない。魔法を制限するアイテムは世の中に数多くある。このリストバンドもその一つなのだろう。
ルーシィは納得して、一瞬考えてから、ポケットの鍵を取り出した。

「レビィちゃん、預かってて」
「持ってたのかよ!?」
「だって何があるかわかんないもん。ナツが暴れたりナツが騒いだりナツが何か壊したりするかもしれないでしょ」
「全部オレじゃねえか!」
「合ってるだろ」

ナツの後ろから来たグレイが、ボールをかごから取り出しながらぼそりと肯定してくれる。ルーシィは彼に微笑んでから、ナツに向かってボールを投げた。






魔法なら鍵で対抗。それ以外なら盾(グレイ)がある。


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