背景は薔薇色に





「――って人、知ってる?あたしも見たことはあるんだけど」
「ガジルのことか?」
「黒い猫連れてんだろ?間違いねえな」

ナツとグレイはつまらなさそうに言った。質問したルーシィが「ガジル?」と繰り返す。
レビィも脳に刻み込みながら、彼らに身を乗り出した。

「どういう人?」
「どうって……どうもこうもねえけど」
「ナツと同じ、滅竜魔導士だよ」

机の端に座ったハッピーが、ゆらりと尻尾を揺らす。

「鉄の、だけどね」
「鉄……」

あの猫も、鉄だと言っていた。
闇に沈みそうな空間を切り裂くようにして一直線に奔る、さらに暗い、影――。
普段なら恐ろしいと思いそうなものだが、あの時、レビィにはとても温かく見えていた。
ナツはむっとした顔で腕を組んだ。

「オレより弱ぇし、あんな奴」
「それはねえだろ。オレよりは弱いけどな」
「あ?」
「ああ?」
「あ、ねえ。ガジルって、どこのクラス?」
「「隣!」」

お互いの胸倉を掴み合いながら、二人は叫ぶように答えてくれた。目配せして、レビィはルーシィと廊下に出る。

「とりあえず、確認してこようかな」
「うん」
「あい」

三歩踏み出してから、レビィはルーシィを振り向いた。

「ハッピー連れてきたの?」
「あ。ごめん、ついうっかり」
「オイラもついうっかり」
「まあ良いけど……」

ハッピーが懐いているとは思っていたが、ルーシィ自身もそれが当たり前になってきているらしい。見た目愛らしい猫と可愛らしい親友の組み合わせに、レビィは頬を緩めた。

「うん、良い」
「え、なんで言い直したの?」
「さー、居るかなー」
「ちょ、レビィちゃん?」

扉から覗き込むと、あっさりと彼は見付かった。教室の窓際で、黒い髪を朝の光に当てている。

「どう?」
「うん……やっぱり、そうみたい」

昨日、顔はよく見えなかったが、彼に間違いないようだ。
男子生徒が一人、彼に何か声を掛けた。が、強い眼光に射抜かれ、しどろもどろに退散していく。
ルーシィが戸惑ったような声を出した。

「本当に、アイツが助けてくれたの?」
「うん……」
「ガジルが助けた?何それ?」
「あー、実はね、……」

レビィはルーシィがハッピーに説明している間、じっとガジルの動向を見つめていた。特に何をするでもなく、全体的にだるそうな雰囲気。顔の数箇所にはピアスではなく鉄のビス。黒猫の姿はない。
ルーシィがくい、とレビィのシャツを引っ張った。

「なんか、その……人助けとか、しなさそうなんだけど」
「噂通り、怖いね……」
「ねえレビィちゃん、どうするの?」
「え?」
「あんまり、関わらない方が良いんじゃないかな」

ルーシィは不賛成を露わにしている。レビィは彼女を安心させるように笑った。

「うん、そんな深入りするつもりないよ」
「そう?」
「昨日、満足にお礼言えなかったから、ちょっと気になっただけ」

多分、そうだ――レビィは自分の内面と会話して、そう結論付けた。恋愛するなら穏やかで優しい人。ああいうタイプに、そういった興味が芽生えるはずはない。同級生を睨んで追い返す奴など、論外だ。

しかし、彼は確かに、助けてくれた。助けて、くれたのだ。

「ホント、どういう人なんだろ」

彼がこちらに気付く様子はない。また後で、次の休み時間にでも来てみよう、とレビィはルーシィの背中を押した。
自分達の教室の前に、水色の髪の女生徒がへばり付いていた。

「あ、ジュビア。おはよう」
「おは……恋敵!」
「違うってば」

教室の中ではグレイとナツが転がりながら埃を立てている。彼女は間違いなくグレイを見ていたのだろう。
端から見れば、自分もジュビアと同じかもしれない。

(せめて放課後になるまでは、行くのは止めよう)

ルーシィを敵視するジュビアを見ながら、レビィは冷や汗を流した。






れっつれびぃたーん!


前へ 次へ
目次

桜色へ carpioへ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -